カサブランカの絶大な成功で名を馳せたニール・ボガートが、失地回復を図ってポスト・ディスコ期に設立した知られざるレーベル、ボードウォーク。その遊歩道を通って送り出された名品の数々を改めて聴いてみよう!
80年にLAで設立され、83年に消滅するまでの短い期間にいくつかの印象的な作品を残したボードウォーク。その創業者のニール・ボガートは、キッスやドナ・サマーをブレイクさせた70年代屈指のレーベル=カサブランカの創設者として音楽史に名を残す大物である。栄華の果てにカサブランカの株をすべてポリグラムに売却し、自身の城を追われる格好になったニールが、心機一転して設立した新たな拠点こそがボードウォークだったというわけだ。今回はソウル~AOR系の主要タイトルがまとめてリイシューされるにあたって、その短い軌跡を振り返っておこう。
カサブランカ以前から幅広い人脈を培ってきた顔役の新レーベルとあって、ボードウォークには立ち上げ当初からキャリアのあるアーティストたちが多く移籍してきている。80年には人気シンガー・ソングライターのハリー・チェイピン、フィル・シーモアら実績のある面々がすぐさま作品を出し、他レーベルから買い上げて再リリースしたティエラの“Together”がヒットを記録した。
その動きがもっとも活発だった翌81年には、元ビートルズのリンゴ・スターやビーチ・ボーイズのマイク・ラヴをはじめ、ランナウェイズを解散したジョーン・ジェット、売れっ子ソングライターのキャロル・ベイヤー・セイガーといった著名な顔ぶれと次々に契約。ソウル/ファンク方面でもオハイオ・プレイヤーズやカーティス・メイフィールド、シル・ジョンソンといったビッグネームを獲得したほか、ファイヴ・ステアステップスの後身となるインヴィジブル・マンズ・バンド、ウォーの鍵盤奏者であるロニー・ジョーダン、プロデュース面でも活躍したリチャード“ディンプルズ”フィールズらが集まってラインナップを分厚くしていったことは下掲のディスクガイドが示す通りだ。なお、今回AORの文脈でリイシューされたCCM畑のクリス・クリスチャンによる『Chris Christian』(ボブ・ゴーディオ制作)やロジャー・ヴードリスの『On The Heels Of Love』といった作品群も味わい深い内容である。
そんなボードウォークに最大の商業的な成功が訪れたのは82年。ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツの“I Love Rock ‘N’ Roll”が3月から5月にかけて7週連続で全米No.1を記録し、同時期にはリチャード“ディンプルズ”フィールズの“If It Ain’t One Thing...It’s Another”が3週連続でR&Bチャート首位を獲得したのだ。ニールが39歳の若さで逝去したのはまさにそんな絶頂期の5月8日だった。
ようやく成功の糸口が見えはじめたなかで腹心のアーヴ・ビーゲルが運営を引き継いだものの、カリスマ的な創業者を失ったこともあってボードウォークの勢いは一気に収束していく。82年にはハード・ロック・バンドのナイト・レンジャーが躍進し、83年にはカサブランカ傘下のチョコレート・シティにいたスターポイントが移籍してくるなどの動きもあったが、やがて経営は破綻(2010年代にはニールの息子たちが屋号を復活させている)。結果的には独自のカラーなどが確立される前に終わってしまった感もあるレーベルだけに、今回のリイシューを機に個々の作品たちの輝きを改めて堪能してほしい。
今回リイシューされているボードウォーク発のAOR作品。
左から、クリス・クリスチャンの81年作『Chris Christian』、ロジャー・ヴードリスの81年作『On The Heels Of Love』(共にBoardwalk/OCTAVE)
その他のボードウォーク作品を一部紹介。
左から、カーティス・メイフィールドの81年作『Love Is The Place』(Curtom/Boardwalk)、シル・ジョンソンの82年作『Ms. Fine Brown Frame』(Erect/Boardwalk)、ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツの81年作『I Love Rock ’n’ Roll』(Boardwalk/Epic)、リンゴ・スターの81年作『Stop And Smell The Roses』(Boardwalk/Culture Factory)、キャロル・ベイヤー・セイガーの81年作『Sometimes Late At Night』(Boardwalk/Iconoclassic)、ウォールペーパーの2013年作『Ricky Reed Is Real』(Boardwalk/Epic)