
徹底的にこだわらないと理想とするトラックは完成しない
──今年の春にDJをされていたときに初めて“大烏 -OoKARAS-”を聴きましたが、フロアの中を音が立体的に飛び交っているようでした。トラックを作る上で何かイメージしたことはありますか?
「〈潜っている〉ようなイメージかな。地上よりは地下というか。例えば、地下で子供の声のようなものがうごめいていて、それは地上では聞こえない。そんなふうに何かしら自分で物語を作っちゃうんだよね。それでその物語に沿って音を付けていく感じかな。
それと曲を作るときはドラムから始めるんだけど、直感的に〈これはいける!〉っていう瞬間があって。そこから自分が頭の中で描いてる物語と、フロアでどう鳴るかを想像しながら音を配置していく。音がグーンと頭の上を通って後ろから前に行くとか、右から後ろに回って左に行くとか。そういうことを考えながら、ミックスするときにプラグインを使ったりしてイメージに近づけていくんだよね。だから音を作っているというよりは完全に〈見ている〉感じ」
──〈ドラムから始める〉とは、パッドを叩いてリズムを作っていくのですか?
「DAWを使って制作しているから、叩いているのはパッドではなくキーボードだね。奥行きやタイミング、リバーブやエフェクトの残り方とか音の距離感をちゃんと見ながら作っていて、今回はそこを本当に根詰めてやった。前からこうした作り方でやってきてはいたけど、『再生 -SAISEI-』の制作が終わってからさらに突き詰めていった感じだね。
なぜそうしようと思ったかというと、とにかく音数を減らしていきたかったんだ。音数を少なくすると、音に存在感と立体感がないと薄っぺらくなってしまう。だから、一つ一つのネタをすごい吟味して作るし、何種類も候補がある中から音を一つだけ選ぶために半日かけて全部当て込んだりするわけ。すごく時間がかかるけど、それぐらいしないと自分の理想とするトラックは完成しないなと思ったし、そこは時間をかけた。ともかく今回は音の粒子から配置まで一つ一つ徹底的にこだわって、各曲がそれぞれの闇と響きを纏うまでストイックに音と対峙していったね」
──DAWは何を使っているのですか?
「Ableton Live。初期の頃から使っているから慣れているし、プラグインも入っているから、その中で制作したいんだ。プラグインも奥が深くて、新しいものだと覚えるのに何日もかかるからね。リズムに関してはE-MUのSP-1200を通したり、プラグインのシンセもたまに使うけど、音が綺麗だからあえて汚すのも面倒なのでメインでは使わないかな。そもそも俺の場合はヒップホップ上がりでサンプリングを主に使ってきているから、それは抜けないよね」

時代が変わろうと、自分が表現すべき美学は変わらない
──今作はどなたがサウンドエンジニアを担当されたんですか?
「俺の作品はソニー時代からほぼ三好敏彦さんがやっているHAL STUDIOを使っているんだけど、そこでアシスタントをしていた山崎(寛晃)くんが担当してくれた。俺の音源を三好さんのスタジオへ送ると、山崎くんがドラム、スネア、キックとかを全部並べて聴いて、それぞれ音を整えてくれるわけ。整ったらメインのエンジニアとなる三好さんに渡してミックスをする。
そうしてフェーダーに音を並べるんだけど、それって俺が作った音の裸の姿みたいなものじゃない? 俺はミックスをする前にある程度は音を仕上げていくんだけど、もっと良くしてほしいから頼むわけ。俺の世界観を知っている山崎くんだから、何も言わなくてもこっちが望む音に仕上げててくれる。実際にUKベース系の音としてめちゃくちゃ抜けが良くなってて、これはかなわないなっていうものにしてくれた。エンジニアは俺にとって本当に大きな存在だね。
マスタリングに関しては、ベース系を主にやっているロンドンの老舗Ten Eight Seven Masteringに依頼した。今作も最後までこだわることができたと思うよ」
──アルバム全体を通じて、前作に比べてすごくフレッシュにアップデートされたと思います。
「作っていて面白かったよね。今までにないものを作ったぞという手応えがあるし、音が立体的に見えて、それを身体で浴びることを狙って作ったから」
──今作の出来は100点満点ですか?
「作っていて楽しかったし、自分自身を追い詰めることもできたと思う。100点はちょっと贅沢かもしれないけど、それに近い達成感はあるかな」
──年齢を重ねてご自身の中で音楽に対して考えが変わってきた部分はありますか?
「時代がどれだけ移り変わろうとも、自分が表現すべき美学は変わらない。でも年を取れば取るほど逆に尖ってきてるかもしれない。それとキャリアを重ねるほど、より深く、より不気味で美しい世界を構築したいって欲求がすごく高くなってる気がする。だからもうブレないで本当に好きなことだけをやっていくよ。正直に今思っていることを伝える。不器用だからそれしかできないっていうのもあるんだけどね(笑)」