一発で掴まれるサンプリング・ループと、知的でクールなリリシズムと──新世代クルーの筆頭株、その最後の才能がついに立ち上げたとあるClubの合言葉は……

 Fla$hBackSとしての初作『FL$8KS』を機に次々と集まるオファーをこなしつつ、みずからはマイペースな動きを続けてきた観のあるjjj。彼が自身のプロデュースで待望のソロ作『Yacht Club』を完成させた。グループ外の動きを通じてすっかりソロ・ラッパーとしても認知されたfebbとKID FRESINOを尻目に、『FL$8KS』以降の彼の活動はプロデュースがメインだった。それだけに、ラップを含めた自身をトータルに打ち出す絶好の機会となるが、レーベルの誘いに背中を押された今回のリリースに気負いはない。〈ノリ、グルーヴが第一〉という制作の基本は変わらず、いわば日々の曲作りの延長で今作は生まれた。

 「ソロ・アルバムはもともと考えてたんですけど、〈いま出そう〉とは思ってなかった。だから、とりあえずこのタイミングでできることをやろうかなって感じで、サンプルのネタを聴いて良いところがあったらそこを抜いて、チョップしてハメてドラム入れて、みたいなとこから始めて。音的にアルバムをどうまとめようっていうのは考えてなかったし、曲のテーマから決めて作ることもしなかったんですよね」。

jjj 『Yacht Club』 FL$Nation/AWDR/LR2(2014)

 そうした制作にあって、ジャケットの隅にさりげなく掲げた〈Authentic〉の一語は、全体のテーマに代わるものであり、彼の音楽センスを言い当てるキーワードでもある。サンプリング眼を多岐に見せるトラックの広がりと、より骨太になった音の進化は、数々の経験を経て「曲の完成形がよりイメージできるようになった」という彼の発言を裏付け、狙いすました確信に満ちている。いわく、「一番真っ直ぐでタフな」ヒップホップを詰めたのが本作なのだ。

 「いままで自分がラップしないトラックでは無茶ぶりでいろんなのを作ってきたけど、今回はストレートにわかりやすいトラックを作ったし、自分が一番ラップしやすいテンポだったり、キーに合わせてやってたのかもしれない。あんまりハットを入れないでヒップホップっぽくしたいとは思ってましたね」。

 リアル志向が幅を利かすラップ・シーンにあって、「俺なりのリアル、思ったことを書く」と語るjjjも例外ではない。ただ、「基本、家からあんまり出ないんで、俺の生活をリリックにしてもおもしろくない」と笑う彼の曲は、現実の生活をただ写実的に映すものとは違う。febb、KID FRESINOをはじめ、14歳で早くも頭角を表すラッパーのKiano JonesやMONJUら、互いを知る客演陣もそうした意識を共有しているに違いない。さらに本作では、SU(RIP SLYME)とACO(コーラス)との初共演も“damn”と“wakamatsu”で実現。彼らにはトラックのタイトルから連想したイメージで曲に臨んでもらったとか。

「SUさんとはライヴに誘ってもらったのが最初なんですけど、〈曲やろうよ〉みたいに言ってくれて。(RIP SLYMEの)曲から想像してた通りの人で、斜に構えず同じ目線で話してくれるし、ラッパーとして生きてくことのヒントを会話のなかから俺が勝手に感じ取ってやってました。ACOさんも昔から好きで聴いてたのもあるんですけど、レーベルの繋がりでトラックに声が合ってるなと思ったからお願いして」。

 暮れなずむトラックに、〈走り去る光の背にある影は/黒いペンのように線を引いてわ/俺を連れ出す世界/ちっぽけな感情が無になる/残る血と骨が埋まるミュージック〉のラインが鮮烈な“another”。地元、川崎の街並みに向けた足が〈噂は煙 目でつかむ真実/言葉フラッシュオーバー/脳裏後効きのノリを核に/回す日々ダイヤ〉なる歌詞を呼び込む“windu”。そして、琴の音を大胆にサンプルした“wakamatsu”で飛び出す〈言いたいことが増えて星の数/まず一つ目ん中入れて光らせる/景色見せる口で/音の抜き目で輝く意味〉というライン……後乗り的なラップの身のこなしもさることながら、日常のふとした出来事を引き金に、時に知的さを湛えたクールなリリシズムへと昇華する歌詞にも、彼のラッパーとしての非凡さが窺える。

 「ポジティヴというか、結構〈(気分を)アゲてこう〉みたいな曲が多いんですけど、気持ち的に葛藤が多かったですね。リリックがなかなか書けない自分に対してもそうだし、いまの音楽業界に対しても。〈キャラクター・ミュージック〉って感じで、キャラだけしっかりしてればあとはなんでもいいみたいな人たちが増えつつある気もしたから、〈もっとカッコイイものがヒップホップであってほしいんだけどなあ〉っていうのもデカかったです」。

 好きなヒップホップの要素の一つに〈ムダのなさ〉を挙げたjjj。彼はすでに、自分の音楽でそれを実現している。

 

▼『Yacht Club』に参加したアーティストの作品の一部

左から、ACOの2013年作『TRAD』(AWDR/LR2)、ISSUGI from MONJUの2013年作『EARR』(DOGEAR/Pヴァイン)、Young Drunkerの2013年作『SIGNATURE』(FIVE STAR)
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