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黄金の5人による実験の実践

 ここからアルバムの後半に突入し、6曲目はリード・トラック第1弾になった“Going Shopping”。セカンド・アルバム『Room On Fire』(2003年)収録の代表曲“12:51”に近いヴァイブを持った曲でありながら、オートチューン・ヴォーカルとホップするオルガンの音色が違和感を与えたのか、発表直後はファンを煙に巻いた一曲でもある。個人的にこの曲にはグレイトフル・デッドが87年に突如リリースしたポップな快作『In The Dark』を想起した。以前もクラレンス・クレモンズ(ブルース・スプリングスティーンのサックス奏者)によるスマッシュ・ヒット“You’re Friend Of Mine”をヒントに“Under Cover Of Darkness”(2011年作『Angles』収録)を作ったジュリアンだけに、常人には考えつかないマニアックな再構築はお手のものといったところか。

 そして7曲目“Liar’s Remorse”は、リズム楽器を使わずギターと歌のみのナンバー。ただ、アコースティック・ギターに絡むもうひとつのギターっぽい音が通常のエレキかシンセによるものかがわかりにくく、さらにジュリアンのオートチューン・ヴォイスも重なるため、こうしたタイプの楽曲にしては、かなり未来的な響きを持つものになった。また、ジュリアンによる多重録音と思われるが、ストロークスの曲ではきわめて珍しいバック・ヴォーカルを取り入れている。

 続く“The Fruits Of Conquest”は、ブルージーなカッティング・ギターが先導するディスコ・ロック。ローリング・ストーンズが78年の“Miss You”以降に定番とした手法だが、これまた従来のストロークスにはなかった演奏だ。ただ、2番目のコーラス後に据えられた間奏パートでのギター・リフが転調しカオスへとなだれこむ展開など、一筋縄ではない。

 さらにラストを飾る“Tyrants Of The Mellow Moon”でもサプライズは続く。曲の入りで爪弾かれるのは、レディオヘッドか、はたまたピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアか、といった感じのメランコリックなギター・フレーズ。ストロークスの25年にわたるキャリアのなかでもっとも縁遠かったタイプの音でもある。今年のコーチェラのステージでは、アメメリカの外交干渉を批判するなど、近年は政治的な主張を強めているストロークスだが、それゆえに、この曲での〈穏やかな月の暴君たち 盗んだ富はいつまで栄華をもたらす〉という歌詞が何を意味するのかも気になるところだ。

 ここまで聴いてきたように、アルバムの全編を通して感じられるのは、ロック史において行われてきたさまざまな表現を、ストロークス……とりわけ『The New Abnormal』以降にある現在の彼らのフィルターを通すことで、〈どんな曲でもストロークス〉として成立させられることを証明した懐の深い一枚になっているということだ。ジュリアンのソロ・バンド、ヴォイズでも同様の実験は行なわれてきたが、ストロークスという黄金の5人ならではの高いグレードでそれを実践した作品という趣きが強い。

 なお、録音自体は、前作からプロデュースを務める鬼才リック・ルービンと共にコスタリカで行った2022年のセッションが元となっていると思われる。その際、ルービンは彼らに長時間のジャムを課したそうで、プロデューサーはそれを「マジカルな瞬間だった」と回想している。多様な音楽情報が確固としたストロークス・サウンドとして結実した背景には、そうした挑戦もありそうだ。

 それが世に届けられるのになぜ4年もの月日を要したのかは依然として謎だが、本作を聴く限り、ルービンはセッションの修練を通してジュリアンの潜在的な意図を上手く引き出したような気がする。また、ライヴのリアリティーを極限まで拾うタイプのプロデューサーであるルービンとしては珍しく、構成音のパーツをかなり細かく分離させた、高性能ヘッドフォン向きの高音質な作品だということも最後に一筆しておきたい。 *沢田太陽

ストロークスの7インチ・ボックスセット『The Singles - Volume One』(Legacy)

リック・ルービンが制作した近年の作品を一部紹介。
左から、ニール・ダイアモンドの2026年作『Wild At Heart』(Capitol)、ビーバドゥービーの2024年作『This Is How Tomorrow Moves』(Dirty Hit)