モダン・エイジにロックを更新した5人組から6年ぶりのニュー・アルバムが到着! サイコでストレンジな『Reality Awaits』に映る、時代のありのままの姿とは?
クラシック・ロックへの批評性
2000sロックの王者、ストロークスが新作『Reality Awaits』で6年ぶりにシーンに帰ってくる。近年、Z世代の若者からの支持を得て再評価が進む彼らは、今年の〈SUMMER SONIC〉にヘッドライナーとして出演予定。そんな絶好のタイミングで登場するニュー・アルバムを聴いてみた。
まずは1曲目からいきなりの驚きだった。ストロークス史上、ここまでスロウでダークな楽曲でアルバムが始まることはなかったためだ。“Psycho Shit”と名付けられたその曲は、マイナー調のギター・アルペジオとジュリアン・カサブランカスのつぶやきから始まり、徐々に音量を上げていっては、ドラムのフィルに導かれドラマティックに大団円を迎える。曲の構成そのものは様式美系のメタルにさえ通じるものだが、終始ギターはクリア・トーンを維持し、ジュリアンのヴォーカルはオートチューンで加工されたもの。クラシック・ロックに対するストロークスならではの批評性を感じさせる一曲だ。
続く“Dine N’Dash”は彼らが2016年にリリースしたEP『Future Present Past』を彷彿とさせるジョイ・ディヴィジョン風ナンバー。だが、ギターの単音進行のリフには2020年の前アルバム『The New Abnormal』で見せた枯れた味わいを漂わせている。『Californication』以降のレッド・ホット・チリ・ペッパーズ風と呼んでいいかもしれない。そのなかでもファブリツィオ・モレッティが叩くハイハットの鮮やかなキレが見事だ。
3曲目の“Lonely In The Future”でようやくおなじみというべき胸弾むようなストロークス印のロックンロールが登場。ただ、歌詞そのものは少しビター。そこにはデビュー時に〈ロックの救世主〉ともてはやされながらも、その後はファースト・アルバムを上回る作品を作ることができず、それが理由となって批判もされてきた彼ら自身の苦い思いが語られている。
そして、本作からのリード・トラック第2弾に選ばれていた“Falling Out Of Love”が4曲目。前作から顕著になりはじめた落ち着いた曲調のこちらは、50年代のダンス・パーティーでチークタイムにかかってもおかしくないドリーミーなバラードだ。だが、ほぼ全編がオートチューンで歌われていることや、終わりそうで終わらない6分にも及ぶストロークスらしからぬ長さはファンの一部を当惑させたことでも話題に。甘美な思い出に浸りながら、受け入れ難い愛の終わりを歌った一曲だ。
5曲目の“Going To Babble On”は典型的なストロークス・ナンバーといえるだろう。2001年のファースト・アルバム『Is This It』に収録された初期の代表曲“Hard To Explain”を彷彿とさせる、メトロノームのような正確無比で機械的なスネアとハイハットのイントロが特徴だ。初期からのファンが喜ぶタイプの曲だが、それと同時に、以前と比べてジュリアンのヴォーカルの表情がより細やかになったことで、初期と現在の違いが明確にわかる感じにもなっている。また、そうしたストレートな曲にもかかわらず、ミスマッチなメタル的ギターの速弾きフレーズが終盤に登場する遊び心は最近の彼らっぽい。
黄金の5人による実験の実践
ここからアルバムの後半に突入し、6曲目はリード・トラック第1弾になった“Going Shopping”。セカンド・アルバム『Room On Fire』(2003年)収録の代表曲“12:51”に近いヴァイブを持った曲でありながら、オートチューン・ヴォーカルとホップするオルガンの音色が違和感を与えたのか、発表直後はファンを煙に巻いた一曲でもある。個人的にこの曲にはグレイトフル・デッドが87年に突如リリースしたポップな快作『In The Dark』を想起した。以前もクラレンス・クレモンズ(ブルース・スプリングスティーンのサックス奏者)によるスマッシュ・ヒット“You’re Friend Of Mine”をヒントに“Under Cover Of Darkness”(2011年作『Angles』収録)を作ったジュリアンだけに、常人には考えつかないマニアックな再構築はお手のものといったところか。
そして7曲目“Liar’s Remorse”は、リズム楽器を使わずギターと歌のみのナンバー。ただ、アコースティック・ギターに絡むもうひとつのギターっぽい音が通常のエレキかシンセによるものかがわかりにくく、さらにジュリアンのオートチューン・ヴォイスも重なるため、こうしたタイプの楽曲にしては、かなり未来的な響きを持つものになった。また、ジュリアンによる多重録音と思われるが、ストロークスの曲ではきわめて珍しいバック・ヴォーカルを取り入れている。
続く“The Fruits Of Conquest”は、ブルージーなカッティング・ギターが先導するディスコ・ロック。ローリング・ストーンズが78年の“Miss You”以降に定番とした手法だが、これまた従来のストロークスにはなかった演奏だ。ただ、2番目のコーラス後に据えられた間奏パートでのギター・リフが転調しカオスへとなだれこむ展開など、一筋縄ではない。
さらにラストを飾る“Tyrants Of The Mellow Moon”でもサプライズは続く。曲の入りで爪弾かれるのは、レディオヘッドか、はたまたピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアか、といった感じのメランコリックなギター・フレーズ。ストロークスの25年にわたるキャリアのなかでもっとも縁遠かったタイプの音でもある。今年のコーチェラのステージでは、アメメリカの外交干渉を批判するなど、近年は政治的な主張を強めているストロークスだが、それゆえに、この曲での〈穏やかな月の暴君たち 盗んだ富はいつまで栄華をもたらす〉という歌詞が何を意味するのかも気になるところだ。
ここまで聴いてきたように、アルバムの全編を通して感じられるのは、ロック史において行われてきたさまざまな表現を、ストロークス……とりわけ『The New Abnormal』以降にある現在の彼らのフィルターを通すことで、〈どんな曲でもストロークス〉として成立させられることを証明した懐の深い一枚になっているということだ。ジュリアンのソロ・バンド、ヴォイズでも同様の実験は行なわれてきたが、ストロークスという黄金の5人ならではの高いグレードでそれを実践した作品という趣きが強い。
なお、録音自体は、前作からプロデュースを務める鬼才リック・ルービンと共にコスタリカで行った2022年のセッションが元となっていると思われる。その際、ルービンは彼らに長時間のジャムを課したそうで、プロデューサーはそれを「マジカルな瞬間だった」と回想している。多様な音楽情報が確固としたストロークス・サウンドとして結実した背景には、そうした挑戦もありそうだ。
それが世に届けられるのになぜ4年もの月日を要したのかは依然として謎だが、本作を聴く限り、ルービンはセッションの修練を通してジュリアンの潜在的な意図を上手く引き出したような気がする。また、ライヴのリアリティーを極限まで拾うタイプのプロデューサーであるルービンとしては珍しく、構成音のパーツをかなり細かく分離させた、高性能ヘッドフォン向きの高音質な作品だということも最後に一筆しておきたい。 *沢田太陽
ストロークスの7インチ・ボックスセット『The Singles - Volume One』(Legacy)
リック・ルービンが制作した近年の作品を一部紹介。
左から、ニール・ダイアモンドの2026年作『Wild At Heart』(Capitol)、ビーバドゥービーの2024年作『This Is How Tomorrow Moves』(Dirty Hit)
〈これなのか?〉と〈これなのだ!〉の狭間を提示してきたストロークスの6枚!
甘美な“Someday”やすべてをなぎ倒すかのごとき勢いの“Hard To Explain”などバンガー揃いの初作は、残響を抑えた音作りから演奏まで曖昧さが一切ない。インディー・キッズの出で立ちを変え、文字通りシーンの景色を一新させた一枚だ。
ナイジェル・ゴッドリッチとの制作が上手くいかず、前作同様にゴードン・ラファエルと完成させた2作目。“12:51”や“The End Has No End”などネオン色のパワー・ポップがすこぶる良く、バンドのポップな魅力がもっともはっきりと出た作品では。
重鎮のデヴィッド・カーンを制作に迎えた3作目だが、14曲51分の尺を含め鈍重さは否めない。“Juicebox”などメタリックなギターの炸裂する楽曲が目立つなか、冒頭のミッドテンポ“You Only Live Once” のメロウネスがたまらない。
過剰さはあるも軽妙なロックンロールに回帰した“Under Cover Of Darkness”、ニューウェイヴィーな“Two Kinds Of Happiness”などを含む4作目は、ガス・オバーグと制作。作曲クレジットがバンド名義になったという変化も大きい。
エレポップやニューウェイヴ・ファンクなど80s趣味を出しつつ、すっきりしたアレンジで仕上げた5作目。ドライヴィンな疾走感を持つシンガロング必至の“All The Time”からディスコ・ポップの“Welcome To Tokyo”まで楽曲の幅が魅力だ。
リック・ルービンの神通力か、7年間における各自の課外活動が活きたのか、メンバーの視点が揃った感のある6作目。“The Adults Are Talking”や“Bad Decisions”などポスト・パンク~ネオアコを独自に解釈したサウンドの完成度が高い。
この10年くらいのメンバー5人の活動もやっぱりおもしろい!!!!
バンドの動きがない期間も多いストロークスだけに、メンバーはそれぞれコンスタントにソロで活動を行ってきた。ここでは直近10年くらいの5人の足どりを紹介しよう。ヴォーカリストのジュリアン・カサブランカスはヴォイズでカルトかつミュータンティックな嗜好性を存分に追求中で、2024年には3作目『Like All Before You』を発表。また、ダフト・パンクでの歌唱やチャーリーXCXのリミックスなどデカめの仕事でも存在感を発揮している。
また、ギタリストのニック・ヴァレンシが2016年から始動させたバンドのCRXは、ハード・ロックやグラム・メタル寄りのサウンドが特徴。彼はシーアやオーバーホーファーへの参加などでも、自身のヒーローであるスラッシュを思わせるギターを奔放に弾いている。そして、とりわけ精力的なソロ活動を行っているのが同じくギタリストのアルバート・ハモンドJr。2023年の『Melodies On Hiatus』を含む5作のソロ・アルバムをこれまでに発表。ストロークス以上にストロークスっぽいシンプルなギター・ロックからラッパーのゴールドリンクが客演した楽曲まで、気負いなく自由にソロ・キャリアを楽しんでいる印象だ。さらにヴューやナタリー・インブルーリア、ダミアーノ・デイヴィッドなど制作仕事や客演も多い。
そして、ベーシストのニコライ・フレイチュアはニッケル・アイ名義を経て、4人組バンドのサマー・ムーンを結成。2017年の初作『With You Tonight』はひりひりとした焦燥感が特徴のポスト・パンクを構築していた。また、フォーク・トリオのリトル・ジョイを組んでいたドラマーのファブリツィオ・モレッティは現在、NY拠点のアート・コレクティヴ的なユニット、マシーンガムの一員として活動。構成員のイアン・デヴァニーを擁するエレクトロ・ポップバンド、ネイション・オブ・ランゲージの作品もサポートしていた。バラバラのように見えて、やっぱり趣味は似ていると感じなくもない5人の活動だが、そこでの自由な実験の成果を重ねた結果、ストロークスの独創的なロックが出来上がっていることは間違いない。 *田中亮太
左から、ヴォイズの2024年作『Like All Before You』(Cult)、ダフト・パンクの2013年作『Random Access Memories』、CRXの2016年作『New Skin』(共にColumbia)、シーアの2014年作『1000 Forms Of Fear』(Monkey Puzzle / RCA)、ヴューの2015年作『Ropewalk』(Vagrant)、ナタリー・インブルーリアの2021年作『Firebird』(BMG)、オーバーホーファーの2021年作『Smothered』(Telefono)、アルバート・ハモンドJrの2023年作『Melodies On Hiatus』(Red Bull)、ダミアーノ・デイヴィッドの2025年作『FUNNY little FEARS』(Sony Italy)、サマー・ムーンの2017年作『With You Tonight』(Dtf)、ネイション・オブ・ランゲージの2020年作『Introduction, Presence』(Nation Of Language)、マシーンガムの2019年作『Conduit』(Frenchkiss)






