ピアノ四重奏団として、興味深いレパートリーを開拓する役割も!
絶妙な隙を突いた4人なのだ。――弦楽四重奏団は世に溢れるほど存在しても、ピアノ四重奏団は稀だ。弦楽三重奏の均質な響きと、発音の異なるピアノ…精妙親密なバランスを要求される分、ぴたりと息が合うと機動力と深みの広がりは素晴らしい。ところがアンサンブルの難しさからか、常設プロ団体として世界的に活躍しているのはこのフォーレ四重奏団くらい。1995年にカールスルーエ音大出身の4人が結成、来日のたびにお会いしては仲の良さにも微笑んでしまうのだが、演奏も攻めて崩れぬ豊かさに満足度が高い。
古典から現代の新作はもちろん、フォーレ四重奏団は卓抜なアレンジによる企画公演・アルバム制作にも積極的で、このジャンルの人気を開拓する役を一手に担っている感もある。主要な古典レパートリーを録音してきたのに続き、ソニー・クラシカル移籍第1弾となるR・シュトラウス&マーラー作品集でも、ひねりを利かせてお見事。二人の作曲家が青春期に書いたピアノ四重奏曲の秀演のみならず、彼らの歌曲を(歌とピアノ四重奏用の)新編曲で収録、これがまたいい。
「ピアノやオーケストラの伴奏版と比べても、ピアノ四重奏との共演版はとても親密でしょう?」とコンスタンティン・ハイドリッヒ(チェロ)。「小さな編成ですがぐっと色彩的に響くんですよ、これは」
「R・シュトラウスの遺族にも編曲の許諾を得て、準備に2年かけた録音です」とディルク・モメルツ(ピアノ)。「編曲のディートリヒ・ツェルナーは以前のアルバム『ポップソングス』(ピーター・ガブリエルやペット・ショップ・ボーイズ、スティーリー・ダンなどを編曲、ユニークな再創造を果たした盤だ)にも参加してくれて、ピアノ四重奏を知り尽くしてます」
ハイドリッヒ「今回もマーラーとR・シュトラウスの書法を実によく汲んだ編曲だと思いますねぇ」
「歌手のジモーネ・ケルメスと一緒に選曲したんですよ」とエリカ・ゲルトゼッツァー(ヴァイオリン)。「彼女の表現力も舞台のように素晴らしく印象的でしょう? 歌詞の背後にある意味を深く読み、古い詩から現代的な意味を汲み取っている歌唱だと思うんです」
「歌手と共演することで、僕らの感情表現も更に層が深まりますね」とサーシャ・フレンブリング(ヴィオラ)「僕らは、音楽家同士はもちろん様々な芸術家を結びつけてご紹介することで、愉しみばかりか発想の領域を広げる喜びも得ているのです」
「次はムソルグスキー《展覧会の絵》ピアノ四重奏版を」とモメルツ。昨年暮れの瑞々しい来日公演でもアンコールで一曲披露、万能か!という表現力で大いに客席を沸かせた。ピアノ四重奏、ますます畏るべし。