フランス文化の根っこを支えるアコーディオンの雄
2012年9月の鎌倉公演「ピアソラ・フォーエヴァー」があまりに素晴らしかった上、機知に富む最新作も珠玉のトリビュート! フランス・アコーディオン界の雄は、とにかく真摯、誠心の人という印象を受けた。
「ピアソラはごく近しい存在でした。彼から、私の楽曲を弾き続け、ずっと世に知らしめて欲しいとの意思を示された。彼がニュー・タンゴを提示したように、ニュー・ミュゼットを推進すべきだと諭してくれたのです。今回のアルバムも、伝統に新たなエネルギーを授ける彼の精神を引き継ぐ、その流れにある。エディット・ピアフとギュス・ヴィズールのナンバーにジャズ・テイストを加え、アプローチしたわけです」
ピアフ、アコーディオン弾きヴィズールも、生誕100年。自ずと、Milanとの企画合意に至ったそうだ。
「同じくMilan制作、DVDも出ている映画『パライーバ・メウ・アモール』の録音で、大勢のフォホー演奏家との共演体験を通し、ブラジル人にとってアコーディオンがいかに民俗芸能として根づき、大衆に必要不可欠な存在であるかを、あらためて痛感させられました。では、フランス文化の強靭な根っこは何かと、考えるきっかけを作ってくれたのです。ピアフ然り、ジャンゴ・ラインハルトにヴィズール然りだ、とね」
ジャンゴにヴィズールが寄り添ったごとく、ガリアーノはシルヴァン・リュックと粋な対話を交わす。
「彼は、ラテンアメリカの影響を受けたトップクラスのギタリスト。とにかく歌詞が重要なので、常にピアフ歌詞の意を汲み取り、向かい合ってイメージを形にしていきました。互いの感情を読み、音遊びを加えながら、ほぼリハなしの即興による録音です。オリジナルのままでなく、今の時代に即したスタイルでね」
洒脱な口笛入りボサ《ばら色の人生》等、後半部のはみ出し加減が痛快。創意あふれるアプローチだ。
「当初、ヤマンドゥ・コスタ、アミルトン・ヂ・オランダの参加案も出ました。確かに面白い作品になるだろうが、果たしてその顔合わせで、フランスのエスプリを残せる?と、リスクを考えたのです。兄がアコーディオニストのシルヴァンなら理解は深いし、独特のサウンドを獲得している。スペイン国境に近いバスク出身、同郷のラヴェルを愛す彼が、25年ほど前パリへ出てきたばかりの頃、ジャイロ(※アルゼンチン人歌手ハイロ)との仕事でベースギターを弾いてもらいました。その後、共演機会に恵まれなかったけれど、とにかく、記憶に残る演奏家だったんです」
昔日のヒット曲の再演ながら、妥協一切抜き。随所に意匠を凝らした、異色のトリビュート作。阿吽の呼吸で紡ぐ二人の至福のライヴを、心待ちにしよう。