結成20周年を迎えてもなお、安住を拒み続ける異能の〈ジャズ〉集団。自由なスタンスと豊潤な音楽的素養でもって、今度はどんな風景を私たちに見せてくれるのか?
ノルウェー出身のジャガ・ジャジストは、同郷のニルス・ペッター・モルヴェルやブッゲ・ヴェッセルトフトらと並び、〈フューチャー・ジャズ〉の文脈で紹介されてきたこともある8人組だ。だが、過激なまでに雑食な彼らの音楽性はひとつの枠組みに収まるものではない。2005年作『What We Must』でシューゲイザーへ傾倒し、2010年作『One-Armed Bandit』には〈フェラ・クティmeetsワーグナー〉を謳った曲を収録、2013年のライヴ盤『Live With Britten Sinfonia』ではUKの管弦楽団と共演を果たすなど、そのサウンドはさまざまなジャンルを横断、いや、貫通してきた。6年ぶりとなるスタジオ・アルバム『Starfire』でもそうした姿勢は不変。今作のアイデアのベースは「ダンス・ミュージックにおけるリミックス的な発想」にあると、リーダーでソングライターのラーシュ・ホーントヴェットが話してくれた(発言:以下同)。
「曲を作る際、最後にその曲のリミックスみたいなサウンドを持ってくるようにしたんだ。“Oban”っていう曲のラスト2~3分は、あの曲自体のリミックス・ヴァージョンのようになっている。自分たちの曲を自分たちでリミックスして、しかも同じトラック内にオリジナルとそのリミックスの両方を入れる――それがアイデアとしてあったんだ。そもそも『Live With Britten Sinfonia』も、ソングライティングとリミックスを同時進行で行っていたから、この新作と繋がっているよね。例えば〈Live With Britten~〉のなかに“Bananfluer Overalt”っていう曲があるんだけど、あれは『One-Armed Bandit』に入っている原曲のメロディーをベースにしながらも、イントロが4~5分くらい存在するんだ。で、そこの部分はギル・エヴァンスやマイルス・デイヴィスへのオマージュになっているんだよ。だから、あのライヴ作品もある意味でリミックス・プロジェクトだったと思う」。
ところで、ラーシュは最近よく聴いていた音楽として、ジョン・ホプキンスやトッド・テリエといったDJ/トラックメイカーの作品を挙げている。1年のうち半分をLAで過ごし、「車で移動することが多くなり、ドライヴの際にエレクトロニック・ミュージックを聴くことが増えた」そうだ。そんな彼が本作をリミックス的な発想で制作したというのは実に腑に落ちる。というのも、2000年代以降、ダンス・ミュージックの世界では、DJプレイに適するように原曲を再編集するリエディットが量産されてきており、その代表選手がトッド・トリエだからだ。日本盤のボーナス・トラックでトッドが“Oban”のリミックスを手掛け、ジャガ・ジャジストの〈踊れる〉側面を照射しているのも象徴的だろう。
ジャズを出発点に、プログレやミニマル・ミュージック、アフロビート、ポスト・ロックなどなど、数多くの音楽要素を貪欲に呑み込んできた彼らだが、「常に前作とは違うことをやろうと思っている」とラーシュが語るように、新作ではカッティング・エッジなダンス・ミュージックに触発され、またもや新たな領域に足を踏み入れた感がある。
「20年以上も活動しているから、何か新しいことをやるのがどんどん難しくなっているのも事実だよ。もうある程度のネタは使っているからね(笑)。それでもいまだに変化をつけようと意識しているし、常に違うことにチャレンジしようとは思っているんだ。その結果が『Starfire』なんだと思うよ」。