ラーシュ・ホーントヴェット率いるノルウェーの8人組、ジャガ・ジャジストがニュー・アルバム『Pyramid』をリリースした。2015年リリースの前作『Starfire』から数えて5年ぶりとなる本作は、長きにわたって関係を築いてきたレーベル、ニンジャ・チューンから新たにブレインフィーダーへ移っての最初のリリースだ。

※デジタル配信は8月7日(金)からの予定
 

94年の結成以来、ジャズ、ポスト・ロック、エレクトロニック・ミュージック、プログレッシヴ・ロック等々を織り交ぜつつ、一作ごとにドラスティックに変化しつづけるユニークなサウンドで20年以上に渡って活動を続けてきた彼ら。『Pyramid』には、ブレインフィーダーという新天地ならではの新境地を拓く、エネルギッシュながら端正な4曲が揃っている。長いバンド・ヒストリーで初となるセルフ・プロデュース作であり、わずか2週間でレコーディングされたという背景も手伝ってか、濃密なグルーヴがにじみ出ているのが印象的だ。バンドとしての熟練のみならず、フレッシュさも感じられる、勢いのある一枚といえよう。

そんな本作のリリースにあたって、かねてからジャガ・ジャジストの大ファンだというTAKU INOUEにその魅力を訊ねた(取材はリモートにて実施)。ゲーム音楽のコンポーザーを出発点に数々の人気曲を手掛け、現在はトラックメイカー/DJとして精力的に活動するTAKU INOUE。ダンス・ミュージックを基調としつつ、多様なジャンルをミックスする作風で知られる彼は、どのようにジャガ・ジャジストを聴いてきたのだろうか。ユニークな着眼点からの評価が飛び出す、バンドへのイントロダクションとしても興味深い話を聞くことができた。

JAGA JAZZIST 『Pyramid』 Brainfeeder/BEAT(2020)

 

ポスト・ロック × ビッグバンドというほかにないサウンド

――イノタク(TAKU INOUE)さんとジャガ・ジャジストとの出会いについて教えて下さい。

「10年前くらいですかね。4作目の『What We Must』(2005年)から聴きはじめて。当時、友人から〈この曲を聴け〉と言われて『What We Must』収録曲の“Stardust Hotel”を聴かされて、これはすげぇ曲だなと。それで一気にハマりました。いまだに“Stardust Hotel”がいちばん好きな曲です。まずメロディーからですね。初めて聴くのになぜか馴染む心地よいメロディーが耳にひっかかりました。

2005年作『What We Must』収録曲“Stardust Hotel”
 

あとは世代からか、ポスト・ロック的なサウンドが自分の遺伝子に入りこんでいて。彼らのサウンドに、そういう気持ちよさがあったのは大きいです。もともと2000年ぐらいに札幌でバンドをやっていたんです。当時はサカナクションやsleepy.abがいて、札幌のシーンって熱かったんです。最近閉店になってしまったCOLONYというライブハウスの周辺に、すごくかっこいいポスト・ロックをやる人が多かった。その影響があって、ポスト・ロック的な質感は高校生のころから親しんでいたんです。

他にも、レディオヘッドみたいに内省的な、陰鬱な感じもあり、ビッグバンドのにぎやかさや気持ちよさもある。いろんな要素が入り混じった聴いたことのない音楽だなと思いました。それで、次にセカンドの『A Living Room Hush』(2001年)を聴いて。“Animal Chin”のインパクトは大きかった。人力ドラムンベースみたいなこともやっているし、ごりごりのジャズもやっている。『A Living Room Hush』は外向きのエネルギーが強くて、売れるべくして売れたアルバムだと感じました」

2001年作『A Living Room Hush』収録曲“Animal Chin”
 

――アルバムでフェイヴァリットを挙げるとしたらどれを選びますか?

「アルバムでは5作目の『One-Armed Bandit』(2010年)がいちばん好きです。ジョン・マッケンタイア(トータス)が携わっていることもあってか、もっともアグレッシヴなアルバムだと思います。『A Living Room Hush』と同じで、外向きのエネルギーが強い。迫力のある演奏をしているし、とんでもなく歪んだ音も入っている。人に勧めるならあのアルバムを選びます。ポップで聴きやすいから、入門編として聴けると思うし。あのアルバムのタイミングでライブを観たんですけど、それもすごくよかった。この人たちは歳をとっていくごとに丸くなるんじゃなくて荒々しくなるんだな、って思った印象があります」

2010年作『One-Armed Bandit』表題曲のライブ映像

 

ジャガ・ジャジストの神髄はユニゾンにあり

――ジャガ・ジャジストはアルバムごとに変化が大きいバンドですが、変わらないジャガ・ジャジストらしさがあるとしたらどんなところでしょうか?

「デビュー作の『Jævla Jazzist Grete Stitz』(96年)から聴いていくと、ジャガ・ジャジストはラーシュのソングライティングやプロダクションを中心としたバンドなのかなと思って。彼の内面にあるプリミティヴな感情というか内面の世界を、手練のミュージシャンの手助けを得て表現しているという印象がある。それがずっと初期のアルバムから貫かれていて、そこがいいところだと思ってます。これだけの大人数で作りこんだ音をやっているにもかかわらず、本能に訴えかけてくるところもあり、謎も含まれている。ひとりの人間から出てきたものをしっかり作ろうというスタンスが続いているからこそのおもしろさなのかなと。

ポスト・プロダクションの感じ、というか濃さはアルバムごとに変わっていて、たとえばサードの『The Stix』(2003年)あたりは〈ジャズのアルバムですよ〉と聴かされたら、ちょっと戸惑うくらいエレクトロニックな手触りがある。そんななかにもジャズ、ポスト・ロックの要素を混ぜ込んでくる雑食性に、自分は惹かれていると思います。

あと、注目して聴いてもらいたいのは、ユニゾンの気持ちよさ。僕がジャガ・ジャジストについて好きなところは、ユニゾンが上手なところなんです。要所要所で、この楽器とあの楽器が同じメロディーを演奏するんだとか、そういう発見があるんです」

――編成が大きいゆえにユニゾンが輝くというところはありますよね。

「違う人が同じフレーズを弾くということのおもしろさをいちばん感じるバンドです。そこは自分の制作にも取り入れていますね。ここでベースとメロディーのフレーズを同じにしたらおもしろいんじゃないか、とか」

ジャガ・ジャジスト
Photo by Anthony P Huus LEAD
 

――先ほどちらっと話に出ましたが、ライブ・パフォーマンスの印象はいかがでしたか?

「ライブは2回観てます。1回目が2012年、有楽町の国際フォーラム前に特設ステージを構えて開催された〈TOKYO JAZZ FESTIVAL 2012)。当時は別のライブハウスでの公演もあったんですが、そっちのチケットが取れなくて、野外で観ました。無料だったんじゃないかな。ジャズ・フェスティヴァルの一環だったこともあってか、ジャズ愛好家の方がお客さんに多かったように思います。ソロが終わったら拍手、みたいな(笑)。僕は踊りながら聴いてました。

2回目は2016年の〈サマソニ〉です。あれも屋外のステージでした。そのときはみんな踊っていて、初めて観た人も〈このバンド、ヤバくね!?〉って言ってたのを覚えてます。自分は〈な?〉って感じで(笑)。ライブはほんとうに最高ですよ。観たことない方はぜひ観ていただきたい。

彼らのライブは見た目がすごくおもしろいんですよ。みんな楽器をとっかえひっかえするし、大勢の人が一斉に音を出しているというのが気持ちいい。ビッグバンド的な良さがある。それだけではなく、緻密なフレーズを奏でていくおもしろさもあって、(ライブがはじまってから終わるまで)まるで一瞬です。でも、野外でしか観たことがなくて、いつの日か屋内であらためて聴いてみたい。低音の回りかたも変わってきますし。ジャガ・ジャジストってもともと野外との相性がいいバンドだと思うんですけど、しっかりした屋内の音響でも聴いてみたい」