6月19日(金)にタワーレコード渋谷店B1F〈CUTUP STUDIO〉で開催する、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下アジカン)の後藤正文と、「スタジオの音が聴こえる 名盤を生んだスタジオ、コンソール&エンジニア」著者の高橋健太郎、「ポストロック・ディスク・ガイド」監修者の金子厚武が、スタジオと音楽的背景について語るトーク・イヴェント〈未来の音が聴こえる〉。ここでは、開催も目前に迫ってきた今回のイヴェントの大きなテーマである2つのスタジオ、Somaエレクトロニック・ミュージック・スタジオ(以下Soma)とStudio 606について、予習を兼ねて取り上げていこうと思います。
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ポスト・ロックの聖地Soma
Soma設立の経緯については「スタジオの音が聴こえる」でも言及されていますが、ポスト・ロックの中心人物であるトータスのジョン・マッケンタイアが、90年代前半にエンジニア経験を重ねたのち、思い描いた理想のレコーディング・ワークを実現するために立ち上げたのが最初。Somaの代表作として満場一致で挙げられるのは、98年にトータスが発表した『TNT』。ハードディスク・レコーディングを導入してミキシングも作曲過程と捉え、パソコン上で編集して音楽制作するという当時画期的なスタイルを確立した一作として有名です。といっても、普通の音楽ファンがPro Toolsのような編集ソフトを触る機会はそうないはず。本作に魅了されながら、テクニカルな部分では実感のわかない人も多いのではないでしょうか。イヴェントでは、その辺りのレコーディング・ワークについて、写真も交えながら詳しく解説される予定です。
『TNT』の成功で全盛期を迎えたポスト・ロックは、アナログ/デジタルの折衷がもたらす独特の質感をもったサウンドを生み出していきました。その端正でファニーな響きから、シカゴ一帯の音楽シーンは〈音響派〉と呼ばれるように。イリノイ州シカゴにあるSomaはその発信地として、トータスをはじめ、シー・アンド・ケイクやジム・オルーク、ステレオラブ、アイソトープ217などの名作群を輩出します。
その〈響き〉の典型例として挙げたいのが、ガスター・デル・ソルの98年作『Camoufleur』のオープニングを飾る“The Season Reverse”。ジム・オルークとデイヴィッド・グラブスの双頭バンド体制による最終作で、ドラムを叩くのはジョン・マッケンタイア。「ポストロック・ディスク・ガイド」にはクラムボンのミトとtoeの美濃隆章による対談が収録されており、そこでミトは同作のスネアの音について「当時あまりに衝撃的だった」とし、クラムボン“Adolescence”(2002年作『id』収録)で参考にしたと語っています。
そしてSomaのサウンドを求めて、ジャガ・ジャジストのようなポスト・ロック直系のジャズ・コレクティヴに、ティーンエイジ・ファンクラブやブロークン・ソーシャル・シーンなどのギター・バンドから、サヴァス&サヴァラスやアンティバラスのようにワールド・ミュージックの可能性を拡張させたユニットまで、多くのバンドが訪れています。近年では、ヨ・ラ・テンゴやパステルズの新作に〈あのサウンド〉がたっぷり詰まっていたのも記憶に新しいところ。日本からもGREAT3がこのスタジオを訪れ、その数年後にGotchは現地でソロ・アルバム『Can't Be Forever Young』(2014年)のミキシングを行なっています。同作のサウンドにSomaの魔法も大きく貢献しているのは、ほかのSoma産アルバムと聴き比べても明白でしょう。この〈響き〉がどのようにして生まれるのか。そして音楽産業の中心を離れた都市シカゴのインディペンデント・スタジオを、後藤氏はなぜ訪れ、そこで何を見たのか。それらはイヴェントで明かされるはずです。
デイヴ・グロールとStudio 606
また、アジカンが新作『Wonder Future』をStudio 606で録音したことについて、後藤氏はインタヴューで「Neveのコンソールで録ってみたかった」とその理由を明かしています(音楽ナタリーより引用)。フー・ファイターズのプライヴェート・スタジオである同所のコンソール卓〈Neve 8078〉は、現在は閉鎖した名スタジオ〈サウンド・シティ〉にもともとあったもの。卓が受け継がれる過程は、デイヴ・グロールが監督したドキュメンタリー映画「サウンド・シティ-リアル・トゥ・リール」で感動的に描かれています。「スタジオの音が聴こえる」にも「レコーディング・スタジオの〈顔〉はミキシング・コンソールである」と書かれたくだりがありますが、Neve 8078の魅力について、ぜひ後藤/高橋両氏にお話を伺いたいところです。
70年に設立されたサウンド・シティは、数々のロック・クラシックを世に届けてきました。ニール・ヤングの『After The Gold Rush』(70年)は後藤氏もフェイヴァリットに挙げる一枚で、Gotch名義のソロ・ライヴでも同作より“Only Love Can Break Your Heart”を取り上げています。ほかにもフリートウッド・マック、チープ・トリック、トム・ペティらの代表作を録音した70年代に全盛期を迎えたのち、不遇の80年代を経て、90年代にこのスタジオが復活するきっかけとなったのがニルヴァーナ『Nevermind』(91年)の世界的ブレイク。以降はレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、ナイン・インチ・ネイルズ、アークティック・モンキーズなど、オルタナティヴ・ロックの聖地として復活し、2011年の閉鎖まで活発なレコーディングが続きました。アジカンと縁の深いところでは、ウィーザーの『Pinkerton』(96年)もこのスタジオの録音作。このあとモグワイ等のプロデュースも手掛けるデイヴ・フリッドマンがエンジニアとして参加し、爆発的なドラム・サウンドを作り上げています。
この堂々たるクレジットの裏で、レコーディング現場ではどのような物語が繰り広げられていたのか。「サウンド・シティ」はスタジオの機材や技術者、そしてロック・ヒストリーへのリスペクトに満ちており、後藤氏が自身のメディア〈THE FUTURE TIMES〉でデイヴ・グロールに取材したのも「サウンド・シティ」に突き動かされたからだとすれば、今回のイヴェントを通じて録音スタジオへの理解を深めることは、そのままアジカンの新作を掘り下げることにも繋がるでしょう。後藤氏が日頃から「音楽シーンの状況とか戦略ではなく、バンドを始めたくなるような音楽の話がしたい」といったことをツイートするのと、みずから現地を訪れて影響を語ろうとする姿勢は、行動原理としても繋がっているはず。ミュージシャンの考えを知り、音楽が生まれる現場について学ぶことのできる、とても有意義な時間になるはずです!
Mikiki Presents
後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)×高橋健太郎×金子厚武
〈未来の音が聴こえる~未来の音が聴こえる~ポストロックの聖地Somaとデイヴ・グロールのStudio606を巡って~〉
ASIAN KUNG-FU GENERATION 『Wonder Future』+「スタジオの音が聴こえる 名盤を生んだスタジオ、コンソール&エンジニア」+「ポストロック・ディスク・ガイド」リリース記念
日時:2015年6月19日(金) 19:30開場/20:00開演
場所:タワーレコード渋谷店B1 〈CUTUP STUDIO〉
出演:後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、高橋健太郎、金子厚武
チケット代:1,000円(税込) *別途1ドリンク必要
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