初の全国流通盤となったEP『Essence』を4月に発表したばかりのSuchmosが、早くもフル・アルバム『THE BAY』を世に送り出す。メンバー全員が神奈川育ちで、「幼馴染みとか、昔からの付き合いのやつばかり」(OK)だという彼らは、「バンドを組む前から、みんなで夜な夜なYouTubeを漁って、聴いて踊って」(YONCE)といった生活を通して音楽的なバックボーンを共有。ソウル・ミュージックを吸収したサウンドと確かなパフォーマンスによって徐々に頭角を現し、昨年の〈フジロック〉では〈ROOKIE A GO-GO〉のトリを務めるなど、CDデビュー前の時点で並みならぬ評価をモノにしていた。今回の新作は、その全貌があきらかになるという意味でも注目の一枚と言えるだろう。

Suchmos THE BAY SPACE SHOWER(2015)

  「EPは自分たちのカラーのすべてを出しきれてないという気持ちがあったから、これは〈超ヤバいアルバムを作るしかないっしょ〉と。とりあえずこれを聴けばいまのSuchmosがわかる。逆にこのヴォリュームで聴いてもらうんじゃないと、このバンドのことはわからないかもしれないですね」(YONCE)。

 自主制作のものを含め、これまでの音源ではジャミロクワイJ・ディラをフラットに愛する彼らの嗜好が楽しげに打ち出されていた。だが本作では、呂布を招いた“GIRL”などをアクセントにしつつもバンド・アンサンブルへしっかりと軸足を置き、ソウルの持つグルーヴ感とメロウネスを追求。フォーカスを絞り込んだサウンドが、彼らのヴィジョンを明快に伝えている。

「以前はヒップホップ的なトラックにYONCEのヴォーカルを乗せたいとも思ってたんですけど、そういう音だとライヴのダイナミズムに欠けることに気付いて。バンドである以上はライヴがカッコ良くないと、って思うし、その意識が音の変化に繋がっていると思います」(OK)。

 また、本作よりギターがTAIKINGに代わり、DJのKCEEが加入。とりわけターンテーブリズムの導入が、2000年前後あたりのミクスチャーの記憶を呼び起こしつつ、新鮮に響く。

「スクラッチで声やパーカッシヴな音を入れたり、要するにバック・シンガーの掛け合い的なことをやってるんですよね。DJがやれることの多さにビックリしました。ライヴでもスピード感のある表現ができるなと」(OK)。

 ソウルやファンクへの接近は、国内外のさまざまなシーンに見い出せるモードとも捉えられるかもしれない。だがSuchmosの場合は、昨今多いスマートなソウル解釈とは異なる、ある種の泥臭さも持ち合わせているし、楽曲によってはヘヴィーなロック・バンドとしての表情も見せる。ひとつの文脈では語り得ない懐の深さに、彼らのポテンシャルが感じ取れるのだ。

「狙いが見えすぎちゃうのは好きじゃないし、そうならないようにっていうのは意識のどこかにあったかもしれないです。それから、ひとつひとつの楽曲はわかりやすくしたいんですけど、バンド全体を捉えやすいものにしたくなくて。あるイメージから脱却できない人って多いじゃないですか。それは嫌だなって」(YONCE)。

 そうYONCEは語るが、確かに個々の楽曲は親しみやすくキャッチーな吸引力を備えており、それはSuchmosの大きな強みだろう。

「自分たちはスティーヴィー・ワンダーとか王道のものを聴いてきたし、その影響を自然に出しているつもりなんですよね。斜に構えている部分は1ミリもないし、シーンへの目配せとかもなくて」(YONCE)。

 今後については「スタジアムでも成立しちゃうバンドまで辿り着きたい」(YONCE)とのことだが、そんな志向の片鱗は本作にも見て取れる。王道を堂々と歩まんとする気概に満ちた、スケールのデカいファースト・アルバムだ。

Suchmos
YONCE(ヴォーカル)、HSU(ベース)、OK(ドラムス)、TAIKING(ギター)、KCEE(DJ)に、HSUと同じくSANABAGUNのメ ンバーである櫻打泰平(キーボード)を加えた神奈川育ちの6人で活動するバンド。2013年に結成され、2015年5月に現体制となったことが発表されたばかり。地元と都内を中心にライヴを行うかたわら動画サイトにMVの投稿を行い、2014年には〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉にも出演。2015年は4月に初のEP『Essence』を投下したのち、〈SAKAE SP-RING〉をはじめとした大型イヴェントに参加。今後は〈SUNSET〉への出演も決定するなど活動範囲を広げるなか、ファースト・アルバム 『THE BAY』(SPACE SHOWER)を7月8日にリリースする。