全国合奏コンクールの常勝小学校でスネア・ドラムを鍛えられ、地元松江市では神童と呼ばれた。卒業式翌日にはもう進学する中学のブラスバンドのレギュラーを射止め、誰の指導も得られず取り組んだのがジーン・クルーパが著した教則本だった。高校生の合同バンドに唯一中学から参加し、そこで初めてジャズを経験。高校ではスウィング系フルバンドを組んだが、ライヴァル校に出来たコンボが演奏する《危険な関係のブルース》を聴いて、これぞ目指すべき音楽と悟った。ただ原版のアート・ブレイキーを聴くため購入した来日記念盤の、B面で接したエルヴィン・ジョーンズのドラムに佐藤節雄(ds)のその後の人生は揺れていく。
「エルヴィンの演奏を解析するのは容易じゃない。彼は通常と異なるクリックを身につけているけど、思いのほか論理的で、何連拍のうち何番目を抜くとか、意図的にエクスパンドした装飾音を各所へ挿入してくる。それらが複雑に組み合わさって字余りふうに聴こえるだけで、あれを原初的リズムだと解釈するのは間違ってる。ただ僕の中にある感覚とは違ったから、彼のドラミング研究は途中で終息させることになるんだ」
レイドバックしたエルヴィンとは異なる、オン・ザ・ビート派のロイ・ヘインズやトニー・ウィリアムスへ研究対象を移し、他大学と合同で学生コンボを組んだ3回生の頃に老舗クラブ「ピットイン」や「タロー」でプロ・デビュー。その後は、腕を見込まれミルト・ジャクソン、マッコイ・タイナー、ドン・チェリー、松本英彦、澤田駿吾、増田一郎、山本剛、市川秀男、紙上理、中村誠一といった一流ミュージシャンの演奏をサポートした(菅野邦彦と鈴木勲とやったリズム上の駆け引きには、今でも震えがくる)。ただ45年のプロ生活を振り返ってみて、大いに悔まれることがあるという。
「ドラマーというのは、どれだけフロントが出す音に貢献できるかが価値だと思ってきた。でも自ら思う音楽をもっと追求すべきだったんだ。だからそんなサウンドが志向される自分自身のバンドを持ちたくなって、このザ・ジャズマニアックスを組んだってわけさ」
先鋭的アプローチをしながら美しいメロディも保った、60年代新主流派の演奏スタイル。現場で遭遇してこなかったそうしたジャズを若手と共作したく、9年前にこのバンドを立ち上げていた。そして初めて自らが采配し録音に臨んだ『グレイト・ジャズ・クラシックス』には上質のメロディ・ラインに、古典的ジャズの熱気と若い感性をアレンジやソロへ投入して、際どく成立させた次世代ジャズへの指針が示された。何より長く育んできた老獪なリズムで演奏が有効に支えられ、自由に躍りはじめるドキュメントは痛快である。
LIVE INFORMATION
CD発売記念ライヴ
○9/9(水) 会場:Boozy Muse(東京・大久保)
www.boozy-muse.com
○10/8(木) 会場:Body & Soul(東京・青山)
www.bodyandsoul.co.jp/
出演:佐藤節雄&ザ・ジャズマニアックス [佐藤節雄(ds) 宮地スグル(ts,fl) 石川広行(tp,flh)早川由紀子(p)小林航太朗(b)]