新世代ジャズ・シーンを象徴する鬼才ドラマー、マーク・ジュリアナが自身のクァルテットを率いて2016年1月3日(日)、4日(月)に東京・丸の内コットンクラブ、5日(火)にブルーノート東京に登場する。ブラッド・メルドーとのデュオであるメリアナや、自身のビート・ミュージック名義ではエレクトロニックなアプローチを展開してきた彼が、今回は2015年に発表したアコースティック・ジャズ仕様のアルバム『Family First』と同じラインナップでのパフォーマンス。同作にも収められた火花散るアンサンブルを生で体感できるはずだ。さらに、その公演とほぼ同タイミングでリリースされる、マークが参加したデヴィッド・ボウイのニュー・アルバム『★』も一大トピック。そこで今回Mikikiでは、現代ジャズを紹介するムック「Jazz The New Chapter」でも中心を担う音楽ジャーナリスト/ライターの原雅明による、〈時の人〉マークへの最新インタヴューを行った。 *Mikiki編集部
★【1月3日(日)、4日(月)コットンクラブ】公演詳細はこちら
★【1月5日(火)ブルーノート東京】公演詳細はこちら
★「intoxicate」に掲載されたデヴィッド・ボウイ『★』の記事はこちら
自身のビート・ミュージック名義で、エレクトロニック・ミュージックやベース・ミュージックを呑み込み、まさに〈ビート・ミュージック〉をドラムで表現してみせたマーク・ジュリアナ。クリス・デイヴと並び、そのずば抜けたプレイで、ジャズのみならず多方面から注目を浴びる存在であるが、デヴィッド・ボウイの新作『★』にも招かれたことには驚いた。サックスのダニー・マッキャスリンやピアノのジェイソン・リンドナーらと共にレコーディングに参加した彼は、〈ジャズ・ミュージシャンがロックを演奏する〉〈ロックンロールを避ける〉という、ボウイとプロデューサーのトニー・ヴィスコンティの意図を汲み取る以上の演奏を行っている。このアルバムはボウイのキャリアのなかでも間違いなく特別な一枚となるだろうが、そのことに彼が果たした役割は大きい。
そのマーク・ジュリアナが、本来のジャズ、しかもアコースティックのみのジャズ・クァルテットで待望の再来日を果たす。豊富な演奏経験のなかで、ピアノにシャイ・マエストロ、サックスにジェイソン・リグビー、ベースにクリス・モリッシーを選んで結成したクァルテットだ。メリアナをはじめ、さまざまなミュージシャンと意欲的な演奏を繰り広げてきたマークが、ライフワークと言えるビート・ミュージックでの活動と並行させて、本格的に自身のアコースティック・ジャズを追求するのだから、これは注目せざるを得ないだろう。そこで、来日直前の彼にインタヴューを試みた。クァルテットのことからドラムについて、そしてボウイとの録音に至るまで、いつになく饒舌に語ってくれた。その語り口から、彼の現在のポジティヴな状況も伝わることと思う。
――ジャズ・クァルテットでめざしていることを教えてください。
「このバンドを形成するまで(『Family First』を作るまで)、僕のリーダーとしてのアウトプットの大部分はエレクトロニック寄りだった。たくさんのシンセサイザーや機材を使ったりして、もちろんエレクトロニック・ミュージックから影響を受けたよ。でも僕のゴールは純粋なアコースティック・アンサンブルなんだ。伝統的なジャズの環境、背景のうえで、自分の信念を表現しながら音楽を作り上げる、というのは僕にとって新しいチャレンジだった。サックス、ピアノ、ベース、さらに自分のドラム・キットを必要最小限にして、〈僕のジャズ〉という音を作り込んだんだ。すごく素晴らしい挑戦だったし、たくさんのことを学べた価値のあるものだった。僕たちの作る音楽を本当に誇りに思うよ」
――クァルテットの参加メンバーとして、この3人を選んだ理由を教えてください。
「僕はたくさんの時間を、それぞれのメンバーと違う音楽の環境のなかで過ごしてきている。音楽的にも彼らといると快適だし、何よりいい友達なんだ。自分がバンドを作るにあたって、友情というのはとても重要だ。彼らのことを信頼しているし、その気持ちが良い音楽を作るんじゃないかな。シャイとは2006年にアヴィシャイ・コーエンと一緒に演奏した時に出会ったんだ。その後1年間ずっと彼と一緒に過ごしてお互いを知り、音楽的にもたくさんのことを学んだよ。ジェイソンとは僕が最初に作ったバンド、HEERNTで知り合ったんだ。彼が2008年に加入して以来たくさんのギグを一緒に回り、いつも2人で出かけた。間違いなく僕の好きなサックス・プレイヤーの一人だね。彼は主にメロディー部分を奏でるんだけれど、音も演奏スタイルも大好きだよ。クリスとは僕のバンドであるビート・ミュージックも含めて、いろんな場所でよく一緒に演奏していたんだ。音楽はリズムがキーポイントで、ベース・プレイヤーは特にそのリズムやヴォキャブラリーに富んでいることがとても重要だね。彼と過ごした長い年月で築き上げた関係はとても強いものだし、何よりも信用できる素晴らしい友人だよ」
――ジャズ・クァルテットにおけるドラミングで、特に重要視していることはなんでしょうか?
「僕にとってこのアンサンブルでのドラミングのゴールは音楽、曲、他のメンバーをサポートすることだね。彼らがベストな状態で演奏できる環境を作りたいし、音楽的にももっと盛り上げていきたいな。このバンドはアコースティック・スタイルだし、よく静かな曲も演奏する。そのなかでも迫力のある表現と、それに相応しい音で演奏することを心掛けているよ」
――クァルテットでの演奏において、あなたが影響を受けたり、参照したジャズ・ドラマーやミュージシャンはいますか?
「僕の一番のドラム・ヒーローはトニー・ウィリアムズ。彼がマイルス・デイヴィスとレコーディングしている時の音源を聴いて、僕の人生は変わったんだ。ドラムに対する考えも変わったし、彼は間違いなく僕に影響を与えた人だ。あとはエルヴィン・ジョーンズ、ジョン・コルトレーン、 アート・ブレイキー、ロイ・ヘインズ。この4人をとても尊敬している。まだまだ他にも、マックス・ローチやフィリー・ジョー・ジョーンズなどたくさんいるよ。スティーヴ・ガッドやヴィニー・カリウタもそうだし、デイヴ・グロールなどのロック寄りなドラマーにも影響を受けてる。エレクトロニック・ミュージックのなかではスクエアプッシャーとか、話し出したら長くなってしまうけど、彼らは僕のジャズに確実に影響を与えているね」
――ビート・ミュージックのプロジェクトと、ジャズ・クァルテット、それぞれをどのように位置付けていますか?
「どちらのプロジェクトにも僕が好きな音楽の根本的な側面がある。僕はエレクトロニック・ミュージックとジャズ、どちらからも均等に影響を受けているんだ。2つのプロジェクトを遂行していくことは、僕にとってやりがいがあるし、まったく違う音楽であるこの2つは、互いに影響を受けていることが僕にはわかる。2つのプロジェクトの共通項は、どちらも僕の作曲を基盤にしているということ。僕の作曲はどちらの音楽性にも通用することを信じている。逆に、一番の違いはおそらくアンサンブルの音の違いだ。ビート・ミュージックで僕はアコースティック・ドラムを演奏しているけど、音(ビート)はサンプラーやエレクトロニックのドラム・ビートに影響を受けている。エレクトロニック・ベースやペダル、シンセサイザーにサンプルを多用したり、いろんなテクスチャーをどんどん重ねていくんだ。片や、ジャズ・クァルテットは純粋なアコースティックのみで演奏している。この編成は絶対に変わることはない。だから一番の違いは、結果的に生み出されるこういった音質の違いだと思うよ」
――ジャズに限らず、現在、特に興味を持っている音楽はなんでしょうか?
「いつだって現在の音楽を探して、楽しみ、学んだりしているけど、新しいものが現在に作られたとは限らない。僕は古いものを聴くのが好きなんだ。特にジャズにおいては、やはり60年代のマイルスやコルトレーン、アート・ブレイキーとか。あとはボブ・マーリーの大ファンで、彼のレコードは全部持っているし、よく聴くよ。『Family First』では“Johnny Was”(ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの76年作『Rastaman Vibration』収録曲)を演奏したしね。それにエイフェックス・ツインやスクエアプッシャー、フォー・テットももちろん聴くし。現在や過去といった時代に囚われずに、とにかくいろんな音楽をできるだけ聴こうとしているよ。1日どの瞬間もとにかく音楽を聴いているね」
――近年、あなたを筆頭にドラミングの進化が注目を集めていますが、その状況をどう思いますか?
「良い質問だね。確かにドラミングは近年急激に進化していってる。なかでも僕が一番嬉しいことは、ドラマーがもう脇役ではなくなっているということだ。ドラマーはいまやリーダーにもなり得るし、ドラマーだって作曲するし、ドラマーが自分のバンドを持つこともある、それはとても重要なことだ。作曲することで僕は僕自身に影響を受けているし、それを楽しんでいる。注目されているおかげで、ドラマーはより真剣に音楽に打ち込むことができる。〈もう後ろでドラムを叩いているだけの人間じゃないんだ〉と人々に伝えることは、われわれにとって良い機会であり、この流行によって、僕たちドラマーもどんどん良いミュージシャンになることができればと思うよ」
――あなたが参加したデヴィッド・ボウイの『★』を通して聴かせてもらいました。このレコーディングに参加した経緯を教えてください。
「2014年に、マリア・シュナイダーから彼女のアンサンブルに入らないかと誘われたんだ。それがデヴィッド・ボウイのコンピレーション『Nothing Has Changed』に収録された“Sue (Or In A Season Of Crime)”という曲だった。あのプロジェクトに参加できたのは、本当に名誉なことだったよ。その後、デヴィッドは僕がダニー・マッキャスリンとレコーディングした曲を聴いたらしい。そして、ダニーのバンドを『★』で起用したんだ」
――実際のレコーディングの様子はいかがでしたか?
「レコーディングに参加できたことは、本当に素晴らしい経験だった。褒める言葉がこれ以上見つからないくらいだ。デヴィッドは賢く、ユーモアに溢れていて、オープンマインドで、最高の人だったよ。おかげで、バンドの僕らはずっと快適に仕事をすることができた。彼とトニーは、常に何が音楽に必要か、何がこのアルバムに必要かをバランス良く考えていて、僕らしくプレイするように指示してくれたんだ。アーティストとしてこれ以上に幸せなことはないね。彼はどうやったら僕らがやりやすいのかを知っているようだった。レコーディングでの彼のエネルギーや気持ち、そして彼が自分自身をコンダクトしていた様子を思い出して、今後僕も同じようにできたら最高だと思う」
――自分自身の演奏で心掛けたことはありましたか?
「僕の目標は彼らの要望に応えながら、すべての曲において、音楽をできる限り提供することだった。デヴィッドは全部の曲のデモを制作してきて、そこにはドラム・パートも含まれていたので、なるべくそれと同じ演奏になるように努力したし、もし彼が僕なりのドラム・パートを求めたらできるだけクリエイティヴな演奏になるようにベストを尽くしたよ」
――『★』の作品自体への感想はいかがですか?
「実はまだ完成されたアルバムを聴いていないんだ。もちろん(タイトル曲の)シングルは聴いたけど。リリース前だからアルバムについてはあまり話せないけど、僕自身とても楽しみにしているよ」
――ドラムを学んでいる若いドラマーに対して、アドヴァイスしたいことはありますか?
「Keep going! 演奏し続けること、そして自分の演奏を愛し続けること。良いドラマーになることに近道はない。君の演奏を楽しみ、影響を受ける人たちが現れることこそが、君自身が良いドラマーであることの証拠になるんだ。僕は音楽とドラムを愛している。音楽は人生に希望をくれる。だから音楽にはいつだって感謝しなくちゃと思っているよ。もし君が努力をするなら、その代償を絶対に得ることができる」
――では最後に、現在進めているプロジェクトやリリースの予定などを教えてください。
「2016年にはジャズ・クァルテットとビート・ミュージックの新しいアルバムを出したいと思っている。定期的にこの2つのバンドの曲は書き続けているよ。それに加えて、コラボの仕事もある。来夏にはメリアナもまた新たにツアーする予定だ。しかも今度はジョン・スコフィールドが参加するのでトリオになるよ! ジョンは僕自身が大ファンのギタリストだし、めちゃくちゃ楽しみだ。いつだって新しいことに挑戦しているから、これからも応援よろしくね」
マーク・ジュリアナ・ジャズ・クァルテット
【コットンクラブ公演】
日時:2016年1月3日(日)、4日(月)
開場/開演:
1月3日(日)
1stショウ:16:00/17:00
2ndショウ:18:30/20:00
1月4日(月)
1stショウ:17:00/18:30
2ndショウ:20:00/21:00
料金:自由席/7,000円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★予約はこちら
【ブルーノート東京公演】
日時:2016年1月5日(火)
開場/開演:
1stショウ:17:30/19:00
2ndショウ:20:45/21:30
料金:自由席/7,000円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
★予約はこちら