SFとマンガと音楽と。
メンバーたちにも、また携わっている人たちやファンたちにも、この3つの結びつきはとても大きなものかもしれない。だが、単純に、ここで聴けるのは何かしら前向きで元気のある(元気のでる)、妙にまじめで、ときとしてユーモラスな音楽だ。集まっているのは吉田隆一(バリトン・サックス)とスガダイロー(ピアノ)、石川広行(トランペット)、Tsuneta(チェロ)。スペシャル・ゲストに大谷能生。何でも、blacksheepなるバンドが結成されてから10年を迎える、という。そしてこのアルバムはその記念でもある。
ベースはフリージャズなのかもしれない。でも、編成もちょっと違う。室内楽的? うーん、そうであるともないとも。ドラムスやパーカッションはない。ベースのかわりにチェロだ。そうしたところが折衷的というか、わざと、ずらしている。かなりしっかり譜面に書いてあるところがあり、そこから最大限インプロが生かされるところまで、レンジが広い。このレンジの広さが音楽の幅であり、聴き手への開かれでもある。
馴染みやすい、親しみやすい、リリカルなメロディ。トランペットとバリトン・サックスははなれた音域で平行したメロディを吹く。ときに音色のポリフォニーとでもいうべきうごきが生まれる。他方、曲を食い破るように、咆哮する、とのことばをつい想起してしまうノイズを含みのバリトン・サックス。88の鍵盤をところ狭しと上下するクラスター。これはスガダイローのお家芸。これでもかこれでもかと反復される音型は、安直で貧血気味のミニマリズムを蹴散らして、ピアニストって肉体労働だったんだ、との体力をみせつけずにはいない。チェロのピチカートは、ベースとは違った質感で、ときにギター、いやバンジョーのようにドライなひびきをたてていたかとおもえば一転アルコ(弓弾き)で音をのばしては、1音の持続のなかでの音色を変えてゆく。
CDは、でも、音楽だけでできているわけではない。ジャケットをみてほしい。「あの絵」ではないか。西島大介の、寺尾洋之の。そのとおり。キャラクター・ストーリー原案は西島大介、キャラクター・メカニックデザイン、アルバム・アートワークは寺尾洋之。そして24ページにおよぶカラー資料がつく。要は、SFのひとつの枠がキャラクターとストーリーの発端として提示されていて、それに音楽が、タイトルというかたちでからむ。アルバムを手にしたものは、ここから自由にストーリーを紡ぎだす。あるいは、紡ぎださない。音楽をストーリーに反映させる。あるいは、させない。要はどちらでもいい。音楽を音楽として聴いても、あるイメージとからめても。さて、あなたは?
LIVE INFORMATION
blacksheep 10周年記念 4thアルバム「+ -Beast-」発売記念ライブ
○10/28(月) 20:00開演
会場:荻窪ベルベットサン
出演:吉田隆一(b-sax)スガダイロー(p)石川広行(tp)Tsuneta(vc)
www.velvetsun.jp/