INTERVIEW

メロディアスで映像的、変拍子もポップス的―関西発の新世代ジャズ・ピアノ・トリオADAが初アルバム『Reflections』を語る

「ソロとかインプロよりも、ストーリーを大事にしていきたいんです」

メロディアスで映像的、変拍子もポップス的―関西発の新世代ジャズ・ピアノ・トリオADAが初アルバム『Reflections』を語る

半田彬倫(ピアノ)と橋本大輝(ドラム)を中心とした新世代のジャズ・ピアノ・トリオ、ADA(エイダ)が初のフル・アルバム『Reflections』を本日9月4日にリリース。共に関西出身の2人は、学生時代よりプロとして活動し、コンテストでも数々の受賞経験を誇る実力派。2013年には自主制作でファーストEP『sunrise』を発表、2014年に東京進出を果たす。メロディアスで耳馴染みのよいピアノの旋律が光る『Reflections』は、キャッチーなサウンドのなかに今日的なリズム/グルーヴや意欲的な曲構成も盛り込まれ、情緒豊かにイマジネーションを喚起させる間口の広い一作に仕上がっており、これから大きく注目を集めることになりそうだ。フレッシュなニューカマーに、気鋭の音楽評論家・柳樂光隆が迫った。(Mikiki編集部)

ADA Reflections Uplift Jazz(2015)

 


 

――ADAはどんなきっかけでスタートしたんですか?

半田彬倫「関西時代に仕事でよく一緒になったので、2人で何かやろうかって軽いノリからスタートしたんです。スタジオで一緒にジャムったときも、僕が書く曲は変拍子を使ったものが多いんですけど、それもうまい具合にハマって。そこで手応えを感じたので、変拍子を主体にしたバンドをやってみないかって話をしました。それで、関西に〈高槻ジャズストリート〉というフェスがあって、まずはそこに出演するのを目標にやりだしたのがきっかけですね」

――2人ともいろいろ経験豊富みたいですよね。どんなお仕事をやられてきたんですか?

半田「僕はポップスのほうが多いですね。サポートの仕事とか。FIRE HORNS(スガシカオのライヴ・サポートをきっかけに結成されたファンク・バンド)にキーボードとして参加したり、ほかにも池田彩さん(アニメ/ゲーム主題歌で知られる歌手)とか、あとはR&B方面だったり」

橋本大輝「僕もそうですね。あとはセッション系のインスト・バンドでサポートを務めたり」

――お兄さんの橋本現輝さんも、BRILLIANT JAZZ MACHINEのドラマーとして活躍されてますよね。

橋本「そうなんです(笑)」

――根本的な質問ですが、なんでADAはピアノ・トリオ編成なんですか?

半田「当初はギタリストも入れようとしたんですよ。それで知り合いのために、僕が変拍子を入れた曲を黙々と作っていて、試しにレコーディングしてみたんですけど、ギターが入るより、ピアノ・トリオで演奏してみたほうが自由度があったんですよね。3人のほうがやりやすいというか」

――なるほど。それにしても、2人とも25歳……お若いですよね。

橋本「そうです、平成2年生まれ」

――僕の妹と同い年だ(笑)。それはさておき、基本的には半田さんが曲を書かれているわけですよね?

半田「そうですね。メロディーは僕が作って。主にピアノで、たまにベースを入れたりしたデモを用意して、それを元にみんなで構成を練ってます」

――ジャズ・ミュージシャンだと、どういう人が好きですか?

半田「実はそんなにジャズ自体は通ってないんですよ。そんなにジャズを研究したってわけでもなくて。大輝のほうが詳しくて、いろいろと教えてもらってます」

――あ、そうなんですね。

半田「(音楽系の)専門学校に通ってたときに同級生と一緒にやってたのは、ベタですけどビル・エヴァンスとか。上原ひろみさんも好きで、夢中になって一時期よく聴いてましたね。それと、ジェラルド・クレイトンが『Life Forum』を録る直前に、1週間連続で練習も兼ねて毎晩セッションしてたんですけど、NYに遊びに行ったときにそれを観ることができて。あれはすごかったですね」

橋本クリスチャン・マクブライドのバンドで叩いてるテレオン・ガリーがとにかく好きで。彼が参加しているアルバムは一通り持ってます(笑)。あとはスティーヴィー・ワンダーのバックでも叩いてるスタンリー・ランドルフ。ラテンのテイストも入ってたり、ポップスもできて。尊敬してますね」

【参考動画】ジェラルド・クレイトンの2013年作『Life Forum』のトレイラ―
実力派ピアニストであるジェラルドの元に、グレッチェン・パーラト、アンブローズ・アキンムシーレ、
ジャスティン・ブラウンら現代ジャズの精鋭が集ったコンコード移籍作(試聴はこちら
【参考動画】クリスチャン・マクブライド・バンドのライヴ動画
テレオン・ガリーが緊迫感のあるドラム・ソロを披露している

 

――半田さんはどっぷりジャズの人というわけではないんですね。

半田「そうなんです。それよりも、英米のヒットチャート系のポップスを聴きまくってました。いまも聴くのはそっちの方が多いですね。小さい頃はアメリカに住んでいて、当時はバックストリート・ボーイズイン・シンクアッシャーが流行ってたので好きでした。最近の趣味はイギリス寄りですね。イヤーズ&イヤーズとか、ジェス・グリンとか。鍵盤主体の。結構そういう感じが好きです」

【参考動画】イヤーズ&イヤーズの2015年作『Communion』収録曲“King”のMV

 

――ジャズのバックグラウンドがそれほどない一方で、ピアノ・トリオというジャズ的なフォーマットのために曲を作っているわけですよね。いつもどんなことを意識しています?

半田「まずはメロディーとかリフをふわっと弾きながら、自分が気に入ったものを配置していって。無意識で何も考えてないと言ったら嘘になりますけど、いろいろと配置していくなかで、うまく繋がったときの〈おっ!〉となる感覚を目指していて。すでに話しているとおり、僕の曲は転調や変拍子が多いので、それを踏まえてもピアノ・トリオが一番やりやすいんですよ。変な言い方ですけど、ピアノの音色って何をやっても綺麗に聴こえるじゃないですか(笑)」

――ジャズのピアノ・トリオでテーマとコードが決まっていて、即興で自由に演奏が絡み合う……みたいなオーソドックスなスタイルよりは、もう少しポップス的な方法論を感じさせますしね。

半田「ボーっと聴いているぶんには変拍子っぽく聴こえないんだけど、実際に演奏してみたらメチャクチャ変拍子が入っていることに気づくみたいな(笑)。変拍子となったら難しく聴こえる場合が多いと思うんですけど、まったくそうは感じさせないというか、気づかせない。そういうメロディー主体の曲作りを意識しています」

――そういえば、あまりソロも弾いてないですしね。

半田「そうなんです。ソロはなるべく入れないようにしていて。ADAにとっての理想はソロの入ってないアルバムなんです。インストだから歌詞も入らず、トリオ編成だから(同じフレーズの)繰り返しばかりだと変化も少ないわけですけど、それでも成立する作品を作り上げたいというのが最終的な目標ですね」

橋本「ソロとかインプロよりも、ストーリーを大事にしていきたいんです」

――たしかに。メロディーの反復やループ感がどの楽曲にもあって、それを大事にしている印象でした。

半田「そうですね。そのなかにも転調を織り交ぜたり、ややこしいことをしているんですけど(笑)。一個一個のパーツから作って、そこにほかのリフを組み込んでいったりとかして」

――でも転調といっても、ドラマティックにひっくり返るというよりは、緩やかに変化していくかんじが多いじゃないですか。

橋本「映画がモチーフになっている曲が多いからかな」

――へー。どんな映画ですか?

半田「3曲目の“innocent moves”は、まさしく同名の映画があるんですよ。邦題は『ボビー・フィッシャーを探して』という、チェスの天才少年が主人公の映画で。跳ねるようなピアノのニュアンスもチェスの駒を置く感じをイメージしていたり、あとは時計をカチってする音を入れてみたり。映画の場面をイメージとして取り入れています」

――ほかには?

半田「そこまで顕著に出ているわけじゃないんですけど、1曲目の“intro/a bit of waste”はドラマの『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』に通じる空気感をイメージしていますね。あと、このアルバムには入ってないですけど、(スティーヴン・)スピルバーグの映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』を意識した曲とかも過去には作ってます」

――それはご自分の趣味なんですか?

半田「はい(笑)。とにかく映画を鑑賞していた時期があって、いつも観終わったあとはピアノをひたすら弾きたくなるんですよ。その名残りですね」

――ストーリーという話でいうと、SEっぽいというか、インタールード的な曲が入っているのも面白かったです。

半田「(今回のアルバムは)5~9曲目までを“fate”という組曲として考えていて、そのプロローグとして作ったのが4曲目のインタールード(“interlude/the last dinner”)なんです。最初の1~3曲目まではアルバムの第一章みたいなかんじで、4曲目からガラっと物語やアルバムのテンションが変わるんです。ヒップホップのアルバムだと、よく曲間にインタールードが入ってるじゃないですか。そういうのを意識しました」

――アルバムのトータルで構成を強く意識したということですよね。『Reflections』というタイトルはどこからきたんですか。

半田「最初にフル・アルバムを作る段階で、どの曲を入れるのか構想はすでにあったんですけど、どの曲も共通テーマとまではいかないですけど、少年時代をモチーフにしていることに気づいたんですよね。『ボビー・フィッシャーを探して』も子供が主人公の映画だし、“swallow”も曲名どおりで子供のツバメが飛び立つイメージだし。自分が大人になって、子供の頃を思い出したときの独特の感情みたいなものを反映させてみました。だからジャケットも、(描かれている人物の)影の方が実は小さいんですよ。影のほうが子供になってるんです」

――あ、本当だ!

橋本「ジャケットはpixivなどで人気のイラストレーターのハラダミユキさんにお願いしました。ハラダミユキさんはニコニコ動画を通して知ったのですが、幻想的な色使いが特徴で、一目見た瞬間にADAの世界観と凄く合うんじゃないかと思い、ジャケット・デザインをお願いしました」

 

ハラダミユキによるアートワーク

 

――アートワークから連想した部分も少しあるんですけど、キャッチーなハウスってあるじゃないですか。ああいう感じもADAのサウンドにあるのかなと思ったんです。DE DE MOUSEとかDAISHI DANCEみたいな。リズムのフィギュア自体は凝ってるし、ウワモノも綺麗で流麗でメロディアス。でも演奏は絡み合って火花を散らすというよりは、重なったままスムースに心地よく流れていくというか。

半田橋本「あー、なるほど」

――そういう意味でもポップスっぽさを感じるんですよね。

半田「〈ポップスっぽい〉と言われるのは、個人的にも嬉しいですね」

――アルバムのレコーディングはどういうかんじでした?

半田「一発録りですね」

橋本「大変だったよね(笑)。クリックは聴いてましたけど、せいので一発で録音して」

――そうしたのは何か理由があるんですか?

橋本「曲やメロディーの枠組みが決まっているなかでも、インプロヴィゼーションも交えていて。そうすると、お互いの演奏に反応することでまた新しいものが出来上がってくるので。基本的なものが一緒だとしても、その場その場で内容は少しずつ変わっていく。だから、一発録りのほうがADAとして同じ景色を共有できる気がするんですよね」

――なるほど、そういう話からはジャズらしさを感じますね。アルバムでの演奏を聴いていると、耳馴染みのよさや聴きやすさをかなり意識している気がしました。そのために、橋本さんがドラマーとして意識して取り組んだことはありますか。

橋本「メロディーの流れを汲みとって、もっと難しいリズムをつけようと思ったらつけられるんですけど、あくまでメロディーが主体で、それに合わせてドラムが支えるというか。曲の流れに合わせてリズムも作っていきました。そこは意識したかな」

――アルバムの曲は、どれもテンポが近いじゃないですか。極端に速い曲や、メロウなバラードみたいなのは入ってない。そういう構成も意識した?

半田「うん、そうですね。最初はバラードも入れようかって話もあったんですけど、アルバムの流れを考えたときに合わない気がして。そういう意味では、アルバムのラストに収録した“Merry Christmas, Mr. Lawrence”のカヴァーは全体よりも遅い曲ですね」

――この〈戦メリ〉はどういう意図で選んだんですか。

橋本「(アルバムで)1曲カヴァーをやりたいねって案が挙がったときに、街中でたまたま流れているのを聴いたんです。もちろん、もともと好きな曲だったので、この曲を僕らがアレンジしたらどうなるんだろうと思って。それで結果的に、自分たちらしいカラーも交えて仕上げられた気がしています」

――この曲をリアレンジして演奏してみて、改めて気づいた魅力とかありました?

半田「変拍子主体にアレンジしなおして、コードも変えてるんですけど、それも綺麗にハマるんですよ。遊びができるメロディーの妙っていうか、手を加えても一発で〈戦メリ〉だとわかる。変拍子を盛り込んだアレンジにすると、曲を短くしたり、ウワモノを少なくしたりするパターンが多くて、そうなると演奏も突っ込んだ感じになりがちなんですけど、この曲はそうならなくて。こういうメロディーを作れるのはやっぱりすごい。あとはADAと構成がすごく似てる……というのは話が逆なんですけど(笑)。僕らがやりたいことに似てるんだなって思いました。それもカヴァーしてみて気づいたことで」

橋本「もちろん映画音楽ですけど、この曲にはクラシックっぽいイメージを勝手に持っていて。それを自分たちが演奏することによって、新しいイメージを持ち込めたというか。リズムの解釈を自分たちで作ることによって、ジャズやポップスっぽくできたと思います。こういうの楽しいです(笑)」

 

ADAのライヴ写真、ベースは岡崎杏菜

 

――アルバムもいよいよ世に届けられるわけですが、これからどんなふうに活動していきたいですか。

半田「まだ東京ではライヴをやってないので、まずはそこを積極的にしていきたい。あとは少し気が早いですけど、このアルバムを踏まえて新しいことに挑みたかったりもしていて。他の楽器も入れてみたかったり、トライしてみたいことはいろいろあるので」

橋本「名刺代わりとなるCDを出すことができたので、いろんなものを発信していきたい。まずはいろんなところに出ていきたいですね。アルバムがそのきっかけになればいいなと」

――では最後に。ADAとして音楽を作っていくうえで、お互いのことをプレイヤーとしてどう見ているのかについて教えてください。

橋本「普段言わないやつですね(笑)」

半田「ちょっと照れるやつだ(笑)。大輝とは関西時代から一緒にやってきて。よく会うのはポップスの現場だったけど、ゴスペル・チョップスにも熱心に取り組んでるんですよね。ADAみたいな曲にドラムをつけるとなると、ビート感を強く押し出すか、逆に土台のリズムも感じさせないふわっとした感じのどちらかになりがちなんだけど、そのあたりのバランスもうまくとれて。そして、メロディーの意図もキャッチしてくれる。とても優秀なドラマーだと思ってます」

橋本「ポップスが好きなだけに、メロディーをとても大事にしていますよね。あと、コードや変拍子を組み立てるときに、他の人にはない発想力がある。デモ音源が送られてきたときも、聴くとすぐにイメージが湧くんですよ。そういう景色が浮かぶのは自分のなかでは珍しいことで。テクニックがあるピアニストはたくさんいても、そういう世界観を持っているピアニストは少なくて。だから、一緒にやっていて刺激にもなるし、一番信頼しているピアニストですね」

 


 

〈ADA 1st Full Album『Reflections』Release Live〉
【大阪】
日時:2015年9月4日(金) 
会場:梅田ALWAYS 
*詳細はこちら

【東京】
日時:2015年9月7日(月)
会場:池袋Absolute Blue 
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〈ADA『Reflections』 発売記念ミニ・ライヴ&サイン/握手会〉
日時:2015年10月1日(木) 19:30
会場:タワーレコード渋谷店 6F特設コーナー
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