2015年夏、2年半ぶりのオリジナル・アルバム『People People』が届けられた。沖縄の人々が、いや、日本人がいま向かい合うべきメッセージとラヴを乗せて……。

 

いま言わないといけないこと

 戦後70年の夏、MONGOL800から届いた通算7枚目のアルバムのジャケットには、日本国旗を思わせる〈白地に赤いサイレン〉が描かれている。アルバム・タイトルの『People People』は〈人々〉と、危険や事故を知らせる警告音〈ピーポーピーポー〉とのダブル・ミーニング。否が応でも緊張感と期待感を抱かせる装丁だが、その中身は、最高傑作と讃えられた前作『GOOD MORNING OKINAWA』の後日談のような、2015年の沖縄と日本を真正面から見つめる、極めてメッセージ性の強いものだ。

 「最初は全然そういうつもりではなくて、これだけメッセージの強いものになるとは思ってなかったんです。前作の『GOOD MORNING OKINAWA』を出したとき、結成15周年ということで、改めて自分たちが生まれ育った沖縄を、現状で見える視点で、メッセージとして出し切ったかなという思いがあったんで。ツアーもほぼ1年かけてやったし、自分のなかではお腹いっぱいになったから、次回作は何も考えずに、もっとポップなやつを作ろうと。それこそファーストみたいな、ライヴでみんなが楽しめるアルバムを作ろうという意識があったんですね。で、フタを開けたらこうなったと(笑)。だから……何でしょうね? ひとつ言えるのは、いつでも歌えるラヴソングはいつでも歌えるし、いま言わないといけないことをいま言おうということかもしれないです」(キヨサク、ヴォーカル/ベース:以下同)。

MONGOL800 People People TISSUE FREAK(2015)

 アルバムは、慰霊の日にあたる6月23日にYouTubeで先行公開された“himeyuri ~ひめゆりの詩~”から始まる。初期からのファンを狂喜させそうな、彼らの原点と言える痛快なメロディック・パンクだが、悲惨を極めた沖縄戦の象徴であるひめゆり学徒隊をテーマにした歌詞は非常に重く、〈忘れるな〉〈語り継げ〉と歌うキヨサクの伸びやかな声には、悲しみをたっぷりと含んだ響きがある。

 「70年前にこういう事実がありました、沖縄戦というものがありました、ということをきちんと残したかったんで。実際、地元にいても語られないことがあるんですよ。例えば辺野古や普天間に行ったことのない人は地元にもたくさんいるし、難しい問題だから避けちゃうというか、タブーになっちゃってるところもある。それでも最近はちゃんと声が上がるようになってきたと思うし、まだマシになってきたんですけどね。今年は戦後70年という節目で、あちこちでそういう話題もあるから、賛成反対ということではなくて、いま歌っておきたかったんで」。

 昨年6月にリリースされ、今作にはアルバム・ミックスで収められた“OKINAWA CALLING”も、リズムはソカ風のアップ・テンポで陽気なもの。歌詞も屈託のない明るいパーティー・チューンだが、〈右の翼も左の翼も関係ない〉〈真っ直ぐ真ん中を歩こう〉と、さりげなくメッセージを響かせている。それは政治的スローガンというより、日々の生き方のヒントやアドヴァイスといったほうがいい。“Beach”で描かれる風景の、米軍基地の存在を真正面から取り上げつつ、〈戦闘機が飛ばない空を眺めていたいだけさ〉という表現もそのひとつだ。

 「“OKINAWA CALLING”にはシニカルな言い回しがありますけど、それよりもっと生活の視点というか、住民目線で書いたのが“Beach”という曲。いまは情報が氾濫しすぎて正解がわかりづらいから、〈自分はこう思ってます。みなさんどうですか?〉という感じで、ひとつの意思提示をしたかったんで。前作では〈みんなどう思ってるの?〉って、訊き出したい気持ちのほうが強かったんですよ、沖縄について。でもいまはそうも言ってられず、〈僕はこう思ってます〉と言う時期じゃないかなと思ったんで」。

 

『MESSAGE』のときに近い感覚

 アルバムのなかでもっとも〈怒り〉の色が濃いのは、タイトル曲の“People People”と“MONSTER GOVERNMENT”の2曲だろう。無知無関心、与えられた状況に流されるだけの人々に向けて警報を鳴らしている前者と、民主主義の名のもとで暴走する政治に斬り込んだ後者。2曲は対になる存在として、本作におけるメッセージの核心を担っている。

 「“MONSTER GOVERNMENT”は、最初は作ってなかったんですよ。バランスとしてこういう曲を入れたほうがいいと思って、制作の後半で作り出したら、スルスルッと作れちゃった。その1曲分、ラヴソングが減ったという(笑)。おもしろいですね、タイミングって。最初に〈こういうものを作ろう〉というのと、〈こういうものができちゃった〉というのと、全然違うから。この感覚は『MESSAGE』のときに近いかも知れない。あのときも、何もわからないなりに作ってて、フタを開けたらああいう曲ばっかり入ってた。そのなかに飛び抜けたラヴソングが1曲あるから印象が薄いかも知れないですけど、アルバムとしてはそういうことですからね、『MESSAGE』は」。

 飛び抜けたラヴソング、すなわち“小さな恋のうた”を収録したモンパチ最大のヒット・アルバム『MESSAGE』が、実は強烈なメッセージ・アルバムであったことは、“琉球愛歌”や“矛盾の上に咲く花”を口ずさめるファンであれば、もちろん知っている。その『MESSAGE』と『People People』とではメッセージの質や強さにおいて共通するものがあるというキヨサク自身の指摘は、非常に興味深い。ただ、メッセージ性の強さだけがモンパチのすべてではないと、キヨサクは穏やかな口調で付け加えるのを忘れない。

 「ミュージシャンがこういうことを考えたり歌ったりするのは、べつに普通のことだよと。ただそれじゃないですかね? いまの時代だからこのタイミングで、という感覚はなくて、ずっとあるものを歌ってて、今回たまたまその色が濃く出たよみたいな感じ。それをうまく表現してちゃんとパッケージできる能力と、ちょっとしたタフさが、昔と比べて成長してきたんだなとは思います。いまの日本のミュージック・シーンは、ほぼ打ち込みのアイドルの歌が多かったりして、それはそれですごくおもしろいんですよ、音楽ということで言えば。そのなかでも〈こういう人たちがいるよ〉と言えれば、それでいいんじゃないですかね。これが自分たちの手法だし。あとはどれだけ反応があって、みんなが乗っかってくれるかな?とか、逆にNGと言われるかな?とか。良くも悪くも楽しみな感じです」。

 メッセージ・ソングの話ばかりになってしまったが、ここに収められた素晴らしいラヴソングについても、きちんと紹介しておこう。昨年シングルとしてリリースされた“STAND BY ME”は、メロディー、歌、演奏のすべてがモンパチ史上最高にエモーショナルなバラード。そしてアルバムのラストを飾る“to be continued”は、加山雄三率いるTHE King ALL STARSに書き下ろした“continue”のモンパチ・ヴァージョン。心地良くポップな仕上がりだが、震災についての思いと、今年の1月に亡くなった母親への思いを併せて書き上げた、包み込まれるような大きな愛の歌だ。

 「曲順を間違ったらお腹いっぱいになるから、そこはちょっと気にしました。でも、うまいところでフラットな歌とかラヴソングが入ってきて、うまく収まったなと。サウンド的にも直球というか、音を詰め込みすぎてないし。ようやく自分たちのおいしいところがうまく表現できるようになったというか、思ったことと形にすることの差が、ようやく縮まってきたのかなと」。

 多くの人に聴いてもらいたいことはもちろん、「ミュージシャンがおもしろがってくれればいいな」とキヨサクは言う。政治的なメッセージ・ソングもラヴソングも、普段の生活の一部として歌い、届けること。MONGOL800が体現し続けている方向に、果たして日本のミュージック・シーンは歩み寄って行くだろうか? さまざまな問いかけと音楽の楽しさが共存した『People People』は、2015年の夏を象徴するアルバムだ。