ダニエル・ロパティンのセルフ・ポートレイトとしてのサウンドトラック
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下:OPN)ことダニエル・ロパティンは、異形の音楽家としてその名を知らしめてきた。その音楽と同様に、スマートだがどこか狂気を宿したような人物のイメージは(なんと彼は博士号を取得してもいる)、彼のインタヴューなどでも垣間見ることができるが、時には「イーノの継承者」などとも呼ばれる、現代の電子音楽における革新者のひとりとも目されている。
たしかに、2013年に発表された前作『R Plus Seven』において、スタイルとしての、ミニマル・ミュージック、アンビエント、IDM、EDM、グリッチといった要素の混交は、ひとつの完成形をみたと言ってもいいかもしれない。また『攻殻機動隊』のサウンドトラックを手がけた川井憲次からの影響を公言もしているが、音楽それ自体がある世界観を表現するような、映画的な作風が特徴的だ。混沌としたノイズから現れる荘厳なシンセサイザーのメロディやストリングス、清澄なヴォーカル、めくるめくシーケンシャルでミニマルなメロディ、それらが、OPNの独特な世界を形成している。
OPNの新作『ガーデン・オブ・デリート(Garden of Delete)』は、そのリリースが発表されてから、しばらく内容の詳細は伏せられていたが、段階的にトレーラーが公開されるなど、その存在が少しずつ明らかにされてきていた。また、先行して収録曲の楽曲ではなくMIDIデータがウェブで公開され、そのデータをもとにした音楽制作を承認するといったことが話題ともなった。しかして、その作品は?
「ナイン・インチ・ネイルズとサウンドガーデンとともにツアーをしたことが今作の制作につながるモチベーションになった」という発言に納得させられる、前作よりも強力になったサウンドに圧倒されるとともに、人声、ヴォコーダー、ボーカロイド、などの多種多様なヴォーカルを駆使した、歌=メロディの比重が大きくなり、メタル・ギターも登場する、よりドラマティックでありナラティヴな要素が全面に出ている印象だ。それはどこかコンセプト・アルバムのごとく展開する。
ファンへの手紙として公開された文章には、「このプロジェクトは、問題を抱えた“ポップ・ミュージック”の実態を浮かび上がらせるものにするはずだった」とあるように、それはポップ・ミュージックのミュータントの趣である、しかし、それは「気づいたらいつの間にかセルフ・ポートレイトになっていた」のだという。
LIVE INFORMATION
Oneohtrix Point Never 2015
○12/3(木)18:30開場/19:30開演
会場:LIQUIDROOM(東京)
○12/4(金)18:00開場/19:00開演
会場:FANJ TWICE(大阪)
http://www.beatink.com/