初めて一緒に制作した“Northern Lights”がいきなりのスマッシュ・ヒットとなり、鮮烈な登場を果たしたエレポップ・トリオ、ケイト・ボーイ。構成員であるオーストラリア出身のケイト・アクハーストと、元ロケット・ボーイの2人――マークス・デクステジェン、ハンパス・ノルドグレン・ヘムリン――は、もともとソングライターやプロデューサーとしても活躍してきた面々だ。彼らはストックホルムに住む共通の友達を通して知り合ったという。
「出会って1時間後には流れでスタジオまで歩いていたわ。その時に“Northern Lights”を作ったの。あっという間に出来上がって、私たち3人だったら何かスペシャルなものを生むことができると、その日のうちに実感したわね」(ケイト)。
この1か月後にはバンドを組み、ケイトはストックホルムへ移住する。「実はちゃんと覚えていないのよ。よく同じ質問をされるんだけど、気付いたら曲を書いていたわ」と彼女が語るのは、音楽を作りはじめた時期について。何しろ16歳にして最初のパブリッシング契約を結んだのだから、(現在の年齢は明かされていないながらも)これまでに十分なキャリアを重ねてきたことは容易に推測できる。もちろんケイトだけでなく、男性陣の経歴も申し分なしだ。
「ハンパスも俺もいろんなバンドにいたり、コラボレーションを積んできたんだ。それと同時に、他のミュージシャンの作品にも裏方として関与してきたって感じかな」(マークス)。
豊富な経験と才能を持つ3人だからこそ、互いに通じ合い、瞬く間にグループ結成への道が拓けただろうことは想像に難くない。こうして強力なメンバーが揃い、生み落とされたのがファースト・アルバム『One』だ。
「まず、私たちの最初のアルバムという意味の〈One〉。そして3人でひとつという意味の〈One〉。さらにフィーリングが繋がっているという意味の〈One〉でもあるの」(ケイト)。
「人はそれぞれ違うけど、同じでもあるよね? みんな人間であることに変わりはないし、ひとつの惑星で暮らして、ひとつの世界を作っている。そういう意味も含んでいるし、俺たちの音楽もそういった考え方にインスパイアされているんだ。だから、このタイトルにするのはすごく自然だったね」(マークス)。
どの曲にも「3人全員が100%関わった」と口を揃えるケイトとマークス。これがケイト・ボーイの個性を決定付ける役割を果たしている。ピーター・ガブリエルやケイト・ブッシュを共通のフェイヴァリット・アーティストに挙げてはいるものの、音楽的なバックグラウンドは各々異なるようで、デペッシュ・モードやロビン、ナイフといったアーティストからの影響を垣間見せながら、それらを巧妙に組み合わせ、自分たちのサウンドに落とし込んでいる。
「次の流れが予測できる曲って、私にとってはおもしろくないのよね。作り甲斐がないの」(ケイト)。
「俺たちはポップ・ミュージックを複雑な方法で作っていると思うよ」(マークス)。
こうした姿勢は彼らを一躍有名にした“Northern Lights”も例外じゃなく、人々を惹きつけるキャッチーかつポップな面があると同時に、ケイトが突き抜けるエモーションからダークな一面も表出させて振り幅のある歌唱を披露したかと思えば、サイケかつトリッキーな電子音を降らせてマーティン・ゴアばりにエレクトロニック・サウンドへの偏愛を覗かせるなどして、不思議なムードを漂わせている。また、“Open Fire”“In Your Eyes”では驚くほど骨太なビートが、“Temporary Gold”ではエキセントリックな凶悪ノイズが飛び出し、取っつきにくい音を使うことに躊躇いを持たない様子は痛快なほど。
そんな彼らはヴィジュアル面にも力を入れていて、PVやライヴ映像を観たことのある方ならお気付きかと思うが、モノトーンを基調としたイメージもインパクト大だ。この3人の世界観をより深く知るために、『One』のインスピレーション源として教えてくれたフランツ・クライン、サージ・ナジャール、ピア・マンニッコらのアート作品やフォトグラフをチェックしてみるのも、ひとつの手だろう。
ケイト・ボーイ
ケイト・アクハースト(ヴォーカル)、マークス・デクステジェン(キーボード/ドラムパッド)、ハンパス・ノルドグレン・ヘムリン(ベース/キーボード)から成る3人組。作家としてシャリースやアシュレイ・ティスデイル作品に関わってきたオーストラリア出身のケイトと、元ロケット・ボーイの2人が共通の友人を介して知り合い、2012年にストックホルムで結成。2013年のファーストEP『Northern Lights』から、タイトル曲がPitchforkの〈Best New Track〉に選ばれて注目を集める。その後もコンスタントに7インチを発表。今年に入って欧米ツアーを行うなど活動の幅を広げていくなか、ファースト・アルバム『One』(Fiction/HOSTESS)をリリース。