『Puzzle』以降の15年間を振り返る

――『Puzzle』以降のアルバムだと、どれが好きですか?

Keishi「僕は最新作の『Ballroom』(2014年)が結構好きでしたね。タヒチは作品ごとに、イイ感じで音が変わっていきますよね。その前のアルバム(2011年作『The Past, The Present & The Possible』)もそうだし」

2014年作『Ballroom』収録曲“Crush!”

チャーベ「僕はね、『Fosbury』に入ってる“Changes”の7インチをいまでもたまにかけてます。ブレイクビーツみたいな曲で。『Fosbury』はCISCO渋谷店で壁で売ってたのが意外で、それもよく覚えてますね。当時のシスコはB-Boyの店だったし、(ヒップホップ以外の)ジャンルを扱ってなかったので」

――ヒップホップに傾倒してた時期の作品ですよね。アウトキャストやネプチューンズとか。

チャーベ「あとはNERDもね。彼らはリスナー体質だから新譜も熱心に掘ってるし、それが自分たちのアルバムにもその都度反映されるんでしょうね。まあ正直、グザヴィエの声があればアレンジがどう変わってもおもしろくなるので。それがやっぱりすごいですよ」

2005年作『Fosbury』収録曲“Changes”

――自分がタヒチの音楽に影響されたと思う部分はありますか?

チャーベ「僕は影響というよりも、共感することのほうが多かったです。ニール&イライザでやり尽くしたと思っていたことが、また別の形で〈ドン!〉と出てきたことに」

ニール&イライザの2002年作『NEW SCHOOL』収録曲“Wasted Times”

Keishi「僕はかなり影響されましたね。バンドの概念というか、アイデア自体に。シンセやベースの使い方も新鮮だったし、サウンドの幅も広いし。それになにより、曲もちゃんとポップなのも大きかった。もし曲がわかりにくかったら、自分も高校生だったし、〈ああ、なんか実験的な音楽やってるんだな〉で終わってたでしょうから。もしかしたら、東京に出てバンドをやろうと思ったきっかけにすらなっていたのかもしれない。それは無意識な部分の話ですけど」

――でも言われてみれば、Riddim Saunterに限らず、日本のインディー・バンドの一つの雛形になっている気がします。

Riddim Saunter の2007年作『Think, Lad & Lass』収録曲“Dear joyce”

チャーベ「いわゆる普通のロック・バンドをやってる子たちが、カーディガンズやベン・フォールズを好きになっても、いきなり自分たちのサウンドに採り入れようとはならない気がして。でも、タヒチだったらやってみたいと思うんじゃないかな。当時のKeishiみたいなミュージシャンが、次にやってみたくなるのがこういう音楽というか」

Keishi「曲自体も、シンガー・ソングライターが歌ってても良さそうなくらい良く出来ているけど、それがバンドの作品であることがやっぱり大きかったです。自分がソロになった4年前は〈ソロ・アーティスト〉という感覚が強かったけど、最近はまたバンド・サウンドとして音楽を作っているから、そのあたりの意識も変わってきていて。もし今回の『Puzzle』15周年を4、5年前に迎えていたら、また違ったふうに受け止めていたかもしれないです」

――なるほど。そういえばAwesome City Clubがタヒチの大ファンということで、昨年の来日公演でオープニング・アクトを務めてましたよね。

Keishi「そう。羨ましいなという話をLUCKY TAPESとしていました(笑)」

――Keishi さんのバンドには、LUCKY TAPESの田口(恵人)さんもベースで参加してますよね。

Keishi「そうですね、恵人とは今年の春ぐらいから一緒にやっていて。彼らはカインドネスの来日公演(2015年4月)でオープニング・アクトだったんですけど、その時にそういう話になりましたね。〈オーサムはタヒチとやったんですよね……〉って。どっちもいい経験だし、嬉しかったと思います」

――若い世代にもタヒチは受け継がれているんですね。それこそ、『Puzzle』は昨今の〈ブラック・ミュージックをポップに再解釈する〉動きの先駆けとも言えそうですし、オーサムやLUCKY TAPESが好きな若いリスナーにも新鮮に響きそう。

チャーベ「確かに。そこは一巡してますよね。いま20歳の子にとっては、これが新譜でしょうから」

――最後に、お2人の近況についても話を訊かせてください。KeishiさんはライヴDVD『Alley Release Tour Final』が出たばかりですよね。アルバム『Alley』の集大成的な映像作品なのかなと。

Keishi「そうですね、いいタイミングで出せました。現在の10人編成をやりはじめたばかりだったので、まだ完成されてない状態でDVDを出す決断をするのは少し迷ったのですが、ただ結果的に、それに見合ったライヴができたので良かったです」

Keishi Tanaka 『Alley Release Tour Final』 Niw!(2015)

――Keishiさんの音楽は、やっぱり英米よりもヨーロッパの音楽の匂いがするというか。そういう類の美しさや美徳が詰まっているような気がして。

Keishi「そこまで意識はしてないけど、嬉しい感想です。最近のライヴでは、バンド・セットを主体にして、ビートやリズムを重点的に意識して作ってるので。そういう意味で、ソウルっぽい音楽がいまのモードではあります。次のEP『Hello, New Kicks』が来年1月に出るんですけど、それを聴いてもらえるとあきらかかなと」

――じゃあ、これまでと違うモードになってきているんですね?

Keishi「もともとあるものではあるんですが、ソロを始めた頃は弾き語りでのライヴが中心だったので、ひとりで歌える曲を意識して作ってたんですけど、いまは新たにそういう曲を作らなくても、(弾き語りでの)ライヴを成立させられるだけの曲数も揃っているし、もうちょっと自由になってきています。ファーストの『Fill』と今年出した『Alley』の2枚で、初期衝動としては完結していて、やろうと思ってた音楽はできたので、そういう意味でも、DVDのタイミングはすごく良かった」

『Alley Release Tour Final』に収録された“Floatin’ Groove”のライヴ映像

――チャーベさんは、モデルの紗羅・マリーさん、ギタリストのチエさんらと結成したLEARNERSのアルバム『LEARNERS』が12月16日にKiliKiliVillaからリリースされますよね。

チャーベ「いいメンバーがたまたま揃って、1回ライヴをやってみたら感触が物凄く良かったので。〈久しぶりにスイッチ入れましょうか〉みたいになって、結成半年でアルバムを出すことになりました。1年のうちにもう1枚出すことも決めていて、短期集中型でがんばろうかなって。いまは何もかもが早いじゃない。だから、そのスピードすらも追い越してやろうかなと(笑)」

――すごい勢いですね。

チャーベ「あと、LEARNERSにはルールがあるので。とにかく、50sや60sのマナーで演奏するという軸が決まっている。そういう意味で、アレンジの落としどころが全部決まっているので、オリジナルだろうとカヴァーだろうと、この5人でやればすぐに出来上がっちゃう。それに、ロカビリーのようなテイストは、若い人たちにとっては新鮮なんじゃないかな。僕らはなんだかんだで、ポップ・ミュージックを10年20年と聴いてると馴染みが出てくるんですけど、いま二十歳の子はそうではないと思うんですよ。だからこそ聴かせたいというのもある」

LEARNERS 『LEARNERS』 KiliKiliVilla(2015)

――KeishiさんはLEARNERSにどんな印象をお持ちですか?

Keishi「(古川)太一やハマ(濱田将充、共に元Riddim Saunter)がいたりするし、近い人たちでやってることなので、すごい刺激がありますね。だから(チャーベを含めた)3人の男性メンバーが目立つだろうなと最初は思ってたんですけど、いざライヴを観ると紗羅ちゃんとチエちゃんがガーンときて。ギターも格好良いんですよ。そこでチャーベさんがやりたい感じも理解できた気がしました」

チャーベ「紗羅の歌も、ただ上手いだけじゃなくて表現力がすごい。だから、彼女が超カッコイイ歌手なんだって切り口を僕が担当しようかなって。僕はもう〈自分のバンドでヒット出したるぞ〜!〉みたいに、時代にもう1回斬り込もうなんて思ってなくて。音楽をずっと楽しくやってきてるし、そのままでいいんです。ただ、紗羅とチエちゃんはなんとかしてあげたい。だから、いまの自分はプロデューサーに近い立場なのかもしれない」

『LEARNERS』収録曲“I WANT YOU TO BE MY BABY”

――月日が経てばいろいろ変わりますよね。タヒチもきっとそうだろうし、だからこそ今度の『Puzzle』再現ライヴは感慨深いものになりそうです。

チャーベ「本当ですね。ペドロともゆっくり話してみたいな」

Keishi「再現ということは、チャーベさんもステージに……(笑)?」

チャーベ「いやぁ~(笑)」


■Tahiti 80

LIVE INFORMATION
PUZZLE TOUR ~15th anniversary~
追加公演
2016年1月17日(日)神奈川 横浜ベイホール
開場:開演/17:00:18:00
料金:6,500円(税込・ドリンク代別)

大阪公演
日時:会場/2016年1月18日(月) 大阪・梅田CLUB QUATTRO
開場:開演/18:30:19:30
料金/6,500円(税込・1D別)

東京公演 ※SOLD OUT
2016年1月19日(火)東京・渋谷 CLUB QUATTRO
開場:開演/18:30:19:30
料金:6,500円(税込/ドリンク代別)

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■LEARNERS
LIVE INFORMATION
BIG PORK

2015年12月11日(金)東京・渋谷 clubasia

2015年12月13日(日)東京・新大久保 CLUB VOICE
2015年12月16日(水)東京・青山 CAY

London Nite
2015年12月19日(土)東京・恵比寿 LIQUIDROOM

2015年12月26日(土) 東京・渋谷 THE GUINGUETTE by MOJA

KiliKiliVilla presents 1st Anniversary New Year Party - 不安と遊撃 vol.3
2016年1月11日(月)東京・ 新代田 FEVER
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■Keishi Tanaka
RELEASE INFORMATION

Keishi Tanaka 『Hello, New Kicks』 Niw!(2016)

レコーディング/ミックス・エンジニア、アレンジャーとして、OBKR率いるTOKYO
RECORDINGSに依頼した新曲。Kai Takahashi(LUCKY TAPES)によるリミックスも収録。

LIVE INFORMATION
Keishi Tanaka One Man Tour
2015年12月23日(水・祝)東京・西麻布 SuperDeluxe
開場:開演/17:30:18:00
料金:3,800円(1D別)
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