タヒチ80が2000年にリリースしたファースト・アルバムにして、ロック/ポップス史に燦然と輝く名盤『Puzzle』の発表15周年を記念したデラックス・エディションがリリースされた。〈♪Can you feel my heartbeat when I’m close to you?〉と歌う小粋なサビに清涼感たっぷりのメロディー、グザヴィエ・ボワイエの爽やかなヴォーカルによって今日もスタンダード・ナンバーとして愛される“Heartbeat”を筆頭に、時代の空気とジャストフィットした同作の日本盤は、フランス出身バンドの初作としては異例の20万枚を超えるベストセラーとなった。
今回の『Puzzle 15th Anniversary Deluxe Edition』は新規リマスタリングを施した本編に加えて、当時のデモ音源7曲と日本未発売/未発表音源13曲、メンバー自身が当時のレコーディングを振り返る特製ブックレット型ファンジンも収録の、〈完全版〉と呼ぶに相応しい2枚組仕様となっている。さらに、世界初となる『Puzzle』完全再現ライヴ・ツアーも来年1月に行われ、2000年にもタヒチ80が日本単独公演のデビューを飾った1月19日(火)の東京・渋谷CLUB QUATTROはすでにソールド・アウト。さらに1月17日(日)には神奈川・横浜ベイホール、1月18日(月)に大阪・梅田CLUB QUATTROで公演が予定されている。
その後の活躍ぶりを振り返れば、タヒチ80が単なる一発屋でなかったのは言うまでもない。むしろ当時はヒット作として消費された向きもある『Puzzle』は、月日を経過したからこそ気付く奥深さや、若い世代も振り向きそうな音楽的価値を秘めていると言えそうだ。そこでMikikiでは、タヒチへの思い入れが人一倍強い松田“CHABE”岳二とKeishi Tanakaの両氏による対談を企画。『Puzzle』との思い出やエピソード、作品的魅力やその後の歩みについて語ってもらった。 *小熊俊哉(Mikiki編集部)
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TAHITI 80 『Puzzle 15th Anniversary Deluxe Edition』 ビクター(2015)
タヒチ80との出会いとインパクトについて
――お2人で一緒にタヒチのライヴを観たこともあるそうですね。
Keishi Tanaka「2013年の〈フジロック〉の時は一緒でしたね」
松田“CHABE”岳二「そうだったね(笑)。2009年の〈サマソニ〉の時は、直前に雷雨で(出演)中止になったりもして」
――あの時は大荒れでしたもんね。
チャーベ「その時に僕は楽屋にいて、グザヴィエに〈どう思う、これ中止になるかな?〉ってすごく訊かれました。(タヒチの前に出演した)ジャック・ペニャーテまでは天気も持ちこたえてたんですけど、もう避難するしかないレヴェルの雷雨になってきて。〈これはしょうがないよ〉って慰めた記憶があります」
――その翌年に〈サマソニ〉に振替出演して、その次に来日したのが〈フジロック〉でした。それこそチャーベさんは、タヒチの初来日の時に共演もされて。
チャーベ「そうなんです。ゲストというか、フロントアクトみたいな感じではなくて、僕が彼らにリミックスをお願いして、先にそれがリリースされていたので、〈一緒に演奏しよう〉と向こうが提案してくれて」
――タヒチが2曲リミックスを提供した、CUBISMO GRAFICO『St.Nicolas』(2000年)のことですよね。
チャーベ「でも一緒にやるの、すごくイヤだったんですよ(笑)。チケットも即完売で、タヒチはめちゃくちゃ人気があるのもわかっていたし、洋楽のファンは怖いじゃないですか(笑)。そこに俺が出て行って何やるの?みたいな。それでアンコールの時に出て行って、彼らが紹介してくれて。“Fairytale Of Escape”という曲をタヒチ・ヴァージョンで一緒にやりました」
――その時に変わった楽器を使っていたら、グサヴィエに〈なんだそれ?〉と訊かれたとか。
チャーベ「そうそう。手ぶらで行くのもアレだし、かといって当時はギターもまだそんなに弾けなかったので、じゃあオムニコードでやるかと思って。“Fairytale Of Escape”のオリジナルは、『Tout!』(99年)というサンプリングだけで作ったアルバムの曲なんです。だからサンプリングの上にアカペラを乗せていて、さらにタヒチのリミックスでは、たぶんペドロ(・ルスンド、タヒチ80のベーシスト)が組んだコード進行をそのアカペラに当てていた。そしてライヴでは、そのコード進行を僕が(オムニコードで)コピーするという……(笑)」
Keishi「へー。僕はその頃まだ上京前ですね。実はタヒチのライヴはなかなか行けなかったんです。それこそ最初にちゃんと観られると思ったのが(中止になった)〈サマソニ〉の時で」
――ということは〈フジロック〉が初体験?
Keishi「そうですね。ただ『Puzzle』は、2000年にリアルタイムで聴いてました。自分はその時は高校生で、(地元の)北海道で日本のバンドをコピーしてた頃だったので、タヒチはとても新鮮に感じました。オシャレだし、アイデアがすごく詰まっていて。ポップな曲調なのに、ちょっと歪んだベースが入っているところとか。あれシンセ・ベースっぽい音色ですけど、生楽器ですよね。そういうエフェクターの使い方もおもしろかったし、衝撃的でしたね」
チャーベ「〈なんだこれ~!〉って思うよね、あれは(笑)」
Keishi「上京するのも決まって、好奇心旺盛だった時期でしたしね。その後にフェニックスなんかも出てきて」
――『Puzzle』が出たのは、ちょうどダフト・パンクやエールなど、フランスの新しい世代が登場しだした頃で。
Keishi「それ以前のバンドとは、違う音を出しているように思ったんですよね」
チャーベ「ダフト・パンクやエールには、フェニックスと共振するセンスが見えるんですけど、タヒチの場合は出身がパリではない(パリ近郊のルーアンで結成された)というのも大きかった気がします。あとはなんだろう、〈バンドである意識〉がすごくあった気がしますね。いなたさ、可愛さがあるというか。もちろんいい意味で」
――当時は英米以外から出てきたギター・ポップが流行ってましたよね。マイルスにデン・バロンみたいな。その流れでタヒチも聴いていた記憶があります。
チャーベ「うんうん。英語圏じゃないけど、英語で歌ってるバンドですよね。それこそ、仲(真史)※くんみたいな厳しい洋楽リスナーでありバイヤーである人が、すごく気に入っていたバンドなので。本当に衝撃的だったんだろうなと。小山田(圭吾)くんのコンピレーションにも収録されて」
※エスカレーター・レコーズの主宰。現在は原宿のレコードショップ兼レーベルBIG LOVEの店主
――『Puzzle』に先駆けて、トラットリアからリリースされた『ラマ・ランチ・コンピレーション』に“Heartbeat”のデモ・ヴァージョンが収録されて話題になったんですよね。
チャーベ「その後に(コーネリアスで)リミックスもしてるもんね」
Keishi「そうそう。僕もちょうどその頃にエスカレーター・レコーズを意識するようになりました」
――Keishiさんは進んだ高校生だったんですね。
Keishi「いや、全然ですよ。いまの時代は本当に情報が早いじゃないですか」
チャーベ「当時はまだインターネット以前だもんね。せいぜい同時期くらいかな」
――まだインターネットで音楽を聴く習慣はなかったですよね。そういう時期にこういう音楽が出てきたのも、改めてすごいのかなと。英米からは出てこない感じ。
Keishi「北欧のロック/ポップスと少し近いかもしれないですね」
チャーベ「言われてみれば、最初は(先に日本でブレイクを果たしていた)カーディガンズに近いイメージだったかも。〈物凄く良いファースト・アルバムが出てきちゃった、ヤバイなー〉みたいな」
Keishi「改めて『Puzzle』を聴いてみて、とにかく曲の力がすごいですよね。今回収録されたデモ音源を聴いて再確認しました。ちょっとソフト・ロックみたいな感じもあるし、バンドで演奏する前の時点からすでに良くって」
チャーベ「ちょっとソウルぽい雰囲気もあったりね。ペドロはヒップホップも好きで、それが反映されてるようにも聴こえるし。セカンド(2002年作『Wallpaper For The Soul』)の曲は、ヒップホップのDJも7インチをかけてたりして。そういうところもおもしろい」
――『Puzzle』がリリースされたのは、ちょうど渋谷系がピークを迎えてる時期でしたよね。それがまたしっくり来るタイミングだったのかなと。
チャーベ「そうですよね。99年~2000年は(クラブの)現場感覚としては、ビッグ・ビートが吹き荒れた後にひと段落して、そこからオシャレなハウスなどに移行しようとしている時期で。それこそフェニックスやアヴァランチーズなんかが出てきて、フレンチ・ハウスも流行り出して。その合間のタイミングに『Puzzle』が盛り上がって、僕らも(タヒチの曲を)とにかくかけました。京都のメトロで500人くらいが踊ってましたもんね」
――DJブースとの相性も良かったわけですね。
チャーベ「タヒチと最初に出会ったのは、京都にあったユリナというレコード屋さんですね。SECOND ROYALの先駆けとも言えるPAT detectiveの子たちと遊んでいた時に、〈これ3曲入りなんだけど、超良かったよ〉と薦められたから、 “I.S.A.A.C”のCDシングルを買って聴いてみて。“Heartbeat”もそこに入ってたんですよ。それでタヒチにリミックスを頼もうと思ったのが最初でした」

『Puzzle』の作品的魅力を改めて語る
――そんな感じで、まずは早耳リスナーの間で話題になって、『Puzzle』の輸入盤が日本各地のレコード店で爆発的にヒットしていった。
チャーベ「とはいえ、そこから洋楽の日本盤が20万枚も売り上げるのはすごすぎますよね。桁が違う」
Keishi「それこそカーディガンズの時みたいに、広く洋楽ファンに届いたんでしょうね」
チャーベ「普通のOLさんとかも買ってたでしょうし。とにかくラジオでよくかかってたから」
――その前にヒットしていたベン・フォールズ・ファイヴみたいに、洒脱で気の利いたポップスとして受け止められたというか。
チャーベ「うんうん、そうかも」
――そしてスタンダード化して、いまでもラジオで頻繁にプレイされている。それだけの強度が曲にあるということですよね。
チャーベ「改めて『Puzzle』を聴いてみても、やっぱり(曲を)覚えてますもん。当時聴きまくっているせいもあるけど。〈ああ~そうだった、そうだった。超懐かしいよね〉って、うちの奥さんと盛り上がったりして(笑)。1曲目が“Heartbeat”じゃないっていうのも、すごくいい」
――“Yellow Butterfly”ですよね。始まり方も素晴らしい曲で。
Keishi「僕も好きですね、ヴォーカルからはじまるアレンジも含めて。こういうウィスパー・ヴォイスを意識したのも、これが初めてだったかも。歌い上げない、〈歌〉というより〈声〉みたいなヴォーカルをとても羨ましく思いましたね」
チャーベ「それにやっぱり、グザヴィエの声がいいよね。浸っちゃう」
――よくゾンビーズのコリン・ブランストーンと(歌声を)比較されてましたよね。グザヴィエ本人も意識していたみたいだし。
Keishi「そうですよね、わかる気がします。曲の組み立て方も。今回のブックレットでも、コリン・ブランストーンのことに触れてましたよね。当時、レコーディング中のNYで『One Year』を入手した話とか。あのアルバムのストリングスも、彼らに影響を与えているんでしょうね」
――〈『Wallpaper For The Soul』のサウンドにも繋がった〉と書いてありましたね。
Keishi「やってみたくなるアイデアなんですよね。自分の話ですけど、“あこがれ”という曲は『One Year』みたいな耳触りにしたかったんです。それでギターを入れずにオーケストラだけのアレンジにしてみて。もちろん別物ではありますが、とても気に入ってます」
チャーベ「そういえば、2001年くらいにタヒチが来日した時の打ち上げの席で、エッグストーンとゾンビーズのレコードがすごく欲しいと言ってましたね。〈フランスには流通してないから〉ってグザヴィエが探してて」
――へー!
チャーベ「あとは橋本(徹)さんが、Cafe Apres-midiやフリー・ソウルのコンピをたくさんプレゼントした時に、ものすごく喜んでました。やっぱり名曲揃いだから」
――フリー・ソウルは日本で独自発展した文化/ムーヴメントですけど、タヒチの音楽性にもフリー・ソウルの価値観を通過してるような側面があるというか。
チャーベ「そうですね。ブルーアイド・ソウルの新解釈みたいな」
――いろんな文脈が入り組んでますよね。ソフト・ロックもそうだし、“Yellow Butterfly”ではカンを意識したクラウトロックの反復ビートを採り入れていたり。
チャーベ「そうそう。(『Puzzle』の)後ろのほうに収録されてる“Things Are Made To Last Forever”はマンチェスターっぽいし。あの曲はヨーロッパのポップ・ミュージックって感じがすごくします」
Keishi「“When The Sun”のストリングス・アレンジもいいですよね」
――このアルバムでお2人が特に好きな曲は?
チャーベ「なんだろう……? いつもアルバムを通して聴いてたんですよね。逆に“Heartbeat”は(聴きすぎて)飛ばすくらいの勢いだったかも(笑)」
Keishi「この対談前にツアー中の車で繰り返しリピートしてたんですけど、“Heartbeat”は何度聴いてもね……いい曲すぎる(笑)。あと僕は1曲目の“Yellow Butterfly”が好きです」
チャーベ「“Yellow Butterfly”もそうですけど、“Heartbeat”もイントロがないじゃないですか。〈せーの!〉で歌ってるのだと、フェニックスの“If I Ever Feel Better”もそうですよね。あちらはハイハット一発入るけど、あのガッ!て始まる感じが好き(笑)」
Keishi「単純にアガりますよね。そこからシンセ・テーマが入るまでの尺も絶妙だし」
――今回のデラックス・エディションには、メンバーが当時を振り返るブックレット型ファンジンも付いてくるんですけど、いろいろ種明かしをしていておもしろいんですよね。“Heartbeat”のコード進行はビーチ・ボーイズの“God Only Knows”が下敷きだった、みたいなエピソードがたくさん収録されていて。
チャーベ「〈あ~、なるほど!〉ってなりますよね。おもしろい」
――(“Heartbeat”は)ミックスの段階で、トーレ・ヨハンソンがかなり手を加えていたというのも驚きで。
Keishi「〈冷たい人だった〉と書いてありましたよね(笑)。〈アンディ・チェイス※が冷たい人だとしたら、トーレ・ヨハンソンは氷漬けだった〉みたいな」
※『Puzzle』のプロデューサー。同アルバムにも参加したファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャーと共に結成されたアイヴィでも活躍
チャーベ「カジ(ヒデキ)くんが言ってました、彼は普通にコードを変えたりするんだって」
――今回収録されているデモ音源と聴き比べても、ビフォー・アフターでだいぶ変わってますよね。音の順序が入れ替わっていたり、もともと入ってた音がカットされていたり。
Keishi「音色どうこうより、(曲自体の)方向性を決めていくみたいな」
チャーベ「トーレは2000年にプロトゥールスに移行してるんですよね。タンバリン・スタジオといえばアナログ感溢れるサウンド……みたいによく言われますけど、デジタルの機材も多く使っていて。編集についても、超早い段階からデジタルでやっていた」
――改めて聴いてみて、そういうプロダクションの先鋭性に驚かされました。ドラムの録り方がポスト・ロック的であったりだとか、そういう技がさりげなく発揮されていて。
チャーベ「やっぱりポップ・マニアですよね。コーラスのエフェクト一つ取っても、〈あの音、どうやって作ってるんだろうねー〉みたいに喋りながら録ってるのが伝わってくるというか。しかもジャンルに縛られてない」
――モロにキンクスみたいな曲(“Mr. Davies”)が入ってるのも、そういう部分ですよね。同時期に発表されたカヴァーの選曲にも、それが反映されてますし。ARケインの“A Love From Outer Space”も、やっぱりマニアックなセレクトじゃないですか。
チャーベ「それもよくDJでかけました。やっぱりヨーロッパ人の感覚なのかなー。でも当時の日本に来て、Cafe Apres-midiのコンピと出会ったりしたのは、後年の彼らにとっても大きかった気がするんですよ。〈このコンパイルの仕方はなんだ!〉〈渋谷ってなんなの? レコード屋さんがこんなにあるの?〉みたいな。たぶん音楽やってる人なら、2000年前後の渋谷は誰でも影響を受けたと思う。ちょっとおかしかったですもん。だから『Puzzle』も20万枚売れたわけで」
――そういう土壌が当時の日本にあったと。
チャーベ「そうそう。みんなが〈キター!〉となってましたから。時代的にも、レコードを買う人がいまより遥かに多かったし、〈次はどんな音楽が出てくるんだろう?〉と、まだ見ぬ音楽の登場にワクワクしているリスナーがすごくたくさんいたし」
Keishi「そしてタヒチの成功があったから、弟分のマンソーみたいなバンドも出てたんですよね。日本でデビューするのが夢だった、みたいなこと言ってましたし」
――マンソーの『Life Traffic Jam』はグザヴィエとペドロによるプロデュースで、音も完全にタヒチっぽい。後に彼らは、Keishiさんの曲のリミックスを手掛けてますよね。

『Puzzle』以降の15年間を振り返る
――『Puzzle』以降のアルバムだと、どれが好きですか?
Keishi「僕は最新作の『Ballroom』(2014年)が結構好きでしたね。タヒチは作品ごとに、イイ感じで音が変わっていきますよね。その前のアルバム(2011年作『The Past, The Present & The Possible』)もそうだし」
チャーベ「僕はね、『Fosbury』に入ってる“Changes”の7インチをいまでもたまにかけてます。ブレイクビーツみたいな曲で。『Fosbury』はCISCO渋谷店で壁で売ってたのが意外で、それもよく覚えてますね。当時のシスコはB-Boyの店だったし、(ヒップホップ以外の)ジャンルを扱ってなかったので」
――ヒップホップに傾倒してた時期の作品ですよね。アウトキャストやネプチューンズとか。
チャーベ「あとはNERDもね。彼らはリスナー体質だから新譜も熱心に掘ってるし、それが自分たちのアルバムにもその都度反映されるんでしょうね。まあ正直、グザヴィエの声があればアレンジがどう変わってもおもしろくなるので。それがやっぱりすごいですよ」
――自分がタヒチの音楽に影響されたと思う部分はありますか?
チャーベ「僕は影響というよりも、共感することのほうが多かったです。ニール&イライザでやり尽くしたと思っていたことが、また別の形で〈ドン!〉と出てきたことに」
Keishi「僕はかなり影響されましたね。バンドの概念というか、アイデア自体に。シンセやベースの使い方も新鮮だったし、サウンドの幅も広いし。それになにより、曲もちゃんとポップなのも大きかった。もし曲がわかりにくかったら、自分も高校生だったし、〈ああ、なんか実験的な音楽やってるんだな〉で終わってたでしょうから。もしかしたら、東京に出てバンドをやろうと思ったきっかけにすらなっていたのかもしれない。それは無意識な部分の話ですけど」
――でも言われてみれば、Riddim Saunterに限らず、日本のインディー・バンドの一つの雛形になっている気がします。
チャーベ「いわゆる普通のロック・バンドをやってる子たちが、カーディガンズやベン・フォールズを好きになっても、いきなり自分たちのサウンドに採り入れようとはならない気がして。でも、タヒチだったらやってみたいと思うんじゃないかな。当時のKeishiみたいなミュージシャンが、次にやってみたくなるのがこういう音楽というか」
Keishi「曲自体も、シンガー・ソングライターが歌ってても良さそうなくらい良く出来ているけど、それがバンドの作品であることがやっぱり大きかったです。自分がソロになった4年前は〈ソロ・アーティスト〉という感覚が強かったけど、最近はまたバンド・サウンドとして音楽を作っているから、そのあたりの意識も変わってきていて。もし今回の『Puzzle』15周年を4、5年前に迎えていたら、また違ったふうに受け止めていたかもしれないです」
――なるほど。そういえばAwesome City Clubがタヒチの大ファンということで、昨年の来日公演でオープニング・アクトを務めてましたよね。
Keishi「そう。羨ましいなという話をLUCKY TAPESとしていました(笑)」
――Keishi さんのバンドには、LUCKY TAPESの田口(恵人)さんもベースで参加してますよね。
Keishi「そうですね、恵人とは今年の春ぐらいから一緒にやっていて。彼らはカインドネスの来日公演(2015年4月)でオープニング・アクトだったんですけど、その時にそういう話になりましたね。〈オーサムはタヒチとやったんですよね……〉って。どっちもいい経験だし、嬉しかったと思います」
――若い世代にもタヒチは受け継がれているんですね。それこそ、『Puzzle』は昨今の〈ブラック・ミュージックをポップに再解釈する〉動きの先駆けとも言えそうですし、オーサムやLUCKY TAPESが好きな若いリスナーにも新鮮に響きそう。
チャーベ「確かに。そこは一巡してますよね。いま20歳の子にとっては、これが新譜でしょうから」
――最後に、お2人の近況についても話を訊かせてください。KeishiさんはライヴDVD『Alley Release Tour Final』が出たばかりですよね。アルバム『Alley』の集大成的な映像作品なのかなと。
Keishi「そうですね、いいタイミングで出せました。現在の10人編成をやりはじめたばかりだったので、まだ完成されてない状態でDVDを出す決断をするのは少し迷ったのですが、ただ結果的に、それに見合ったライヴができたので良かったです」

――Keishiさんの音楽は、やっぱり英米よりもヨーロッパの音楽の匂いがするというか。そういう類の美しさや美徳が詰まっているような気がして。
Keishi「そこまで意識はしてないけど、嬉しい感想です。最近のライヴでは、バンド・セットを主体にして、ビートやリズムを重点的に意識して作ってるので。そういう意味で、ソウルっぽい音楽がいまのモードではあります。次のEP『Hello, New Kicks』が来年1月に出るんですけど、それを聴いてもらえるとあきらかかなと」
――じゃあ、これまでと違うモードになってきているんですね?
Keishi「もともとあるものではあるんですが、ソロを始めた頃は弾き語りでのライヴが中心だったので、ひとりで歌える曲を意識して作ってたんですけど、いまは新たにそういう曲を作らなくても、(弾き語りでの)ライヴを成立させられるだけの曲数も揃っているし、もうちょっと自由になってきています。ファーストの『Fill』と今年出した『Alley』の2枚で、初期衝動としては完結していて、やろうと思ってた音楽はできたので、そういう意味でも、DVDのタイミングはすごく良かった」
――チャーベさんは、モデルの紗羅・マリーさん、ギタリストのチエさんらと結成したLEARNERSのアルバム『LEARNERS』が12月16日にKiliKiliVillaからリリースされますよね。
チャーベ「いいメンバーがたまたま揃って、1回ライヴをやってみたら感触が物凄く良かったので。〈久しぶりにスイッチ入れましょうか〉みたいになって、結成半年でアルバムを出すことになりました。1年のうちにもう1枚出すことも決めていて、短期集中型でがんばろうかなって。いまは何もかもが早いじゃない。だから、そのスピードすらも追い越してやろうかなと(笑)」
――すごい勢いですね。
チャーベ「あと、LEARNERSにはルールがあるので。とにかく、50sや60sのマナーで演奏するという軸が決まっている。そういう意味で、アレンジの落としどころが全部決まっているので、オリジナルだろうとカヴァーだろうと、この5人でやればすぐに出来上がっちゃう。それに、ロカビリーのようなテイストは、若い人たちにとっては新鮮なんじゃないかな。僕らはなんだかんだで、ポップ・ミュージックを10年20年と聴いてると馴染みが出てくるんですけど、いま二十歳の子はそうではないと思うんですよ。だからこそ聴かせたいというのもある」

――KeishiさんはLEARNERSにどんな印象をお持ちですか?
Keishi「(古川)太一やハマ(濱田将充、共に元Riddim Saunter)がいたりするし、近い人たちでやってることなので、すごい刺激がありますね。だから(チャーベを含めた)3人の男性メンバーが目立つだろうなと最初は思ってたんですけど、いざライヴを観ると紗羅ちゃんとチエちゃんがガーンときて。ギターも格好良いんですよ。そこでチャーベさんがやりたい感じも理解できた気がしました」
チャーベ「紗羅の歌も、ただ上手いだけじゃなくて表現力がすごい。だから、彼女が超カッコイイ歌手なんだって切り口を僕が担当しようかなって。僕はもう〈自分のバンドでヒット出したるぞ〜!〉みたいに、時代にもう1回斬り込もうなんて思ってなくて。音楽をずっと楽しくやってきてるし、そのままでいいんです。ただ、紗羅とチエちゃんはなんとかしてあげたい。だから、いまの自分はプロデューサーに近い立場なのかもしれない」
――月日が経てばいろいろ変わりますよね。タヒチもきっとそうだろうし、だからこそ今度の『Puzzle』再現ライヴは感慨深いものになりそうです。
チャーベ「本当ですね。ペドロともゆっくり話してみたいな」
Keishi「再現ということは、チャーベさんもステージに……(笑)?」
チャーベ「いやぁ~(笑)」
■Tahiti 80

LIVE INFORMATION
PUZZLE TOUR ~15th anniversary~
追加公演
2016年1月17日(日)神奈川 横浜ベイホール
開場:開演/17:00:18:00
料金:6,500円(税込・ドリンク代別)
大阪公演
日時:会場/2016年1月18日(月) 大阪・梅田CLUB QUATTRO
開場:開演/18:30:19:30
料金/6,500円(税込・1D別)
東京公演 ※SOLD OUT
2016年1月19日(火)東京・渋谷 CLUB QUATTRO
開場:開演/18:30:19:30
料金:6,500円(税込/ドリンク代別)
■LEARNERS
LIVE INFORMATION
BIG PORK
2015年12月11日(金)東京・渋谷 clubasia
2015年12月13日(日)東京・新大久保 CLUB VOICE
2015年12月16日(水)東京・青山 CAY
London Nite
2015年12月19日(土)東京・恵比寿 LIQUIDROOM
2015年12月26日(土) 東京・渋谷 THE GUINGUETTE by MOJA
KiliKiliVilla presents 1st Anniversary New Year Party - 不安と遊撃 vol.3
2016年1月11日(月)東京・ 新代田 FEVER
★詳細はこちら
■Keishi Tanaka
RELEASE INFORMATION

レコーディング/ミックス・エンジニア、アレンジャーとして、OBKR率いるTOKYO
RECORDINGSに依頼した新曲。Kai Takahashi(LUCKY TAPES)によるリミックスも収録。
LIVE INFORMATION
Keishi Tanaka One Man Tour
2015年12月23日(水・祝)東京・西麻布 SuperDeluxe
開場:開演/17:30:18:00
料金:3,800円(1D別)
★詳細はこちら