『リゴレット』ゆかりの街マントヴァから、オペラへの誘い

 あれは2年前。2014年の二期会公演『ドン・カルロ』で、いきなり主役に抜擢されて、日本のオペラ界に彗星の如く登場した山本耕平。払底していたテノールの期待の星と注目された。翌年には、二期会『リゴレット』でもマントヴァ公爵を歌い、若々しいハリのある声で聴衆を魅了した。2014年12月にはファースト・アルバム『ミ・マンキ』をリリース。そして今、その上昇気流に乗って、『君なんか もう』が発売される。トスティの名曲からとった命名だ。「この1年で、よりテノールらしく音色が明るくなったと思います。今回はオペラアリアを入れず、カンツォーネと歌曲が中心。歌詞や音楽をより緻密に扱うよう努めたので、音色の変化を感じていただけたら。ぼくの大好きな曲を集めていて、テーマは愛。ちょっと1年分オトナになったような。何しろ、前回は29歳、今回は30歳のぼくですから」

山本耕平,高木由雅 君なんか もう キング(2015)

 最初のアルバムを録音してすぐ、イタリアに留学。いまは『リゴレット』ゆかりの街マントヴァで研鑽を積む日々だ。じつは山本耕平、歌を始めたときはバリトンの声質だったという。「もともとは学芸大でクラリネット専修。歌は副科なので、音域は出しやすいバリトンでした。歌を本格的にやろうと芸大に入り、2006年にテノールに転向しました。やっぱりテノールは花形だと思います。下手をするとリスキーだし、高音を出すのも簡単ではありませんが」

 いま目指している声質は、リリコからリリコ・レジェーロ。ベルカントものや、フランス・オペラが似合う声だ。「1枚目はバリトンから変わった直後に歌っていた曲も多かったのですが、今回は1年経ってテノールという技がだんだん分かってきて、より軽やかに輝かしく、その分響きも増してきました。声そのものは、芯がしっかりしてより明るくなっていると思います。でもね、じつはホセ・カレーラスが好きなんです。あの陰影のある、しっとりとした憂いのある声。自分の音色も少し近いところにあるのじゃないかと願いつつ、憂いがありながら強い表現ができるような声が理想です」

 舞台映えするイケメン・テノールだが、自分の声を明確に分析し、自分の進む道を冷静に見極めるという音楽家に必要な頭脳がしっかり備わっている。

「今回は歌曲が中心の選曲ですが、これを聴いた人が舞台のオペラにも親しんでいただけたら。これからイタリアで学ぶ2年間はぼくの歌手人生を大きく左右することになります。できれば次の一歩を見て欲しい。ホップ・ステップ・ジャンプみたいに、今回のCDは次の大きなジャンプに踏み込んで体重移動している二歩目という感じ。次はきっと、驚いていただけるような三歩目が待っています。どうぞ、お楽しみに!」

 


LIVE INFORMATION

第32回 国技館5000人の第九コンサート
○2016/2/28(日)14:00開演 会場:両国国技館
第2部「交響曲第九番」に出演

東京シティ—フィルハーモニック管弦楽団「第296回定期演奏会」
○2016/3/18(金)19: 00開演 会場:オペラシティーコンサートホール

山本耕平ソロコンサート「君なんか もう」
○2016/3/13(日)14:00開演 会場:トッパンホール