~Mikiki編集部スタッフ総括座談会~

加藤直子「1年間、お疲れ様でした!」

上岡亮一「新しくスタッフも入りました」

田中亮太「メンバーがだいぶ入れ替わって、新人ばかりですね(笑)」

高見香那「(小熊・田中・高見の)半分が今年加入という……」

小熊俊哉「そういえば〈船越さんがいなくなってからインディーを取り上げる人がいなくなった〉のようなツイートもあったり……」

※船越太郎、2015年10月まで在籍したMikiki編集部のオリジナル・メンバー。シンリズムやKiliKiliVilla主宰・安孫子真哉のインタヴューなどを担当

加藤「いやいや、取り上げていますよ……。でも気付けば上位に入っているものの多くが船越さん担当記事だったね。船越さん、ありがとう!――と内輪ネタで失礼しました。それで、シンリズムの記事がこんなにも読まれていたなんて! 改めて、今年はかなり注目されていたんだなと実感する」

上岡「そうですね。とにかくずっと検索されています」

加藤「京都まで行って取材した甲斐があった! 彼のインタヴューがまだそんなに出ていなかったのもあるかもしれないけど、ありがたい」

小熊安孫子真哉さんのインタヴューも大ヒットしましたね。この先もまだまだ読まれるでしょうし」

加藤「連載枠で見てみると、今年始まったアニメ/ゲームのキャラクター・ソングをレヴューする〈架空のJ-Pop考〉は個人的に印象深いもののひとつだなと。なかでも『日向美ビタースイーツ』の回は好評だったね。作品そのものも不思議な立ち位置だし、キャラソンの作り込まれ方も秀逸。個人的にも採り上げた(“温故知新でいこっ!”)は結構好きなんだよね」

田中「この回が一番読まれたというのは、どうしてですかね」

加藤「〈ひなビタ〉のオフィシャル・アカウントでも拡散してくれたというのもあるし、とにかく西山瞳さんのレヴューがおもしろいということで話題になっていた気がする」

小熊「西山さんはNHORHMのインタヴューもシビれる内容でしたね」

加藤「メンバー3人が揃ったインタヴューは他になかったみたい。ジャズ界隈以上にメタル・ファンの間で話題になっているとか」

小熊「メタルへの理解のある作品だったということですよね。そのこだわりは、インタヴュー内の随所に表れているというか」

加藤「わかってらっしゃる感がある。あとは〈ハマ・オカモトの自由時間 ~2nd Season~〉も安定的して読んでもらったね」

田中「これも相当な人気連載ですね」

加藤「取り上げていたテーマが、ディアンジェロマーク・ロンソンなど軒並み今年注目された作品だったというのもヒットの要因かも」

小熊「Mikikiが始まった当初からの人気連載ですよね。これを読むと何が流行ってるかよくわかるという。しかしこれも本人の語り口がおもしろいですよね」

加藤「リスナーとしての目線もありつつ、やっぱりプレイヤー目線というのがあるから、そこがライターが書くものとは違う内容になっているんだと思う。これはYasei Collectiveの対談企画〈ヤセイの同業ハンティング〉をやっていても思ったけど、プレイヤーじゃないとわからないポイントを知ることで音楽の聴き方も変わるなーと。そういう視点からの記事は今後もっと採り入れたいと思った」

田中「ランク外ですが北園みなみさんの連載〈北園みなみのあの曲の名場面〉はまさにそうですね」

加藤「そうね。しかも本人みずから採譜した譜面が載っているのもレア!」

〈北園みなみのあの曲の名場面〉での本人直筆楽譜、マーヴィン・ゲイ “What’s Happening Brother”

 

小熊「ハマさんの話に戻ると、彼は目の付け所が細かくてすごくオタク気質ですよね。それがOKAMOTO'Sの作品とは違う形で反映されてるというのがまたおもしろいなぁと思います。ディアンジェロの回は来日公演があってからまた伸びたんでしたよね。あとは何より第1回のジャパン

加藤「去年の記事なんだけどね……蟹」

小熊土屋昌巳さんがジャパンに参加した際のエピソードを本人に聴けたのが本当に良かった

※ハマ・オカモト連載第1回で紹介された、土屋昌巳が参加したジャパンのライヴでの〈静止〉パフォーマンスについて、後のTHE NOVEMBERS小林祐介×土屋昌巳インタヴューの際に小熊が直撃した

加藤ハマくんも反応してくれたしね(笑)」

小熊「そんなふうに別記事同士がリンクしていったらおもしろいなと思います。本人のところまで直撃しに行く……〈本当にそうなんですか!?〉」

一同「ハハハハハ(笑)」

加藤「答え合わせみたいな(笑)」

小熊「とにかく印象深い記事でした」

 

〈情熱〉から生まれるもの

加藤「フェスの記事も〈サマソニ〉を筆頭に人気があったね」

〈サマソニ〉を主催するクリエイティブマン・清水直樹社長が〈サマソニ2015〉の見どころを語ったインタヴューのダイジェスト映像

 

小熊〈CRAFTROCK FESTIVAL〉の特集は船越さんの情熱が功を奏した記事でしたね。bluebeardのインタヴューもおもしろかったし」

加藤〈Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN〉関連の記事とかね」

小熊〈Hostess Club Weekender〉特集も力が入りました。〈HCW〉以外にも〈サマソニ〉や〈GREENROOM〉でもやらせてもらった、各フェスの主催者に見どころについて話を訊くのと、われわれがが解説するのと、両サイドからのアプローチをフェス特集記事として作ることができたのが良かったですね。フェス案件のご相談、ぜひ来年もお待ちしております(笑)!」

加藤「お待ちしております(笑)! それにしても対談は結構やった気が……」

小熊「Mikikiは対談好きですよね(笑)。telephones石毛(輝)さんとLUCKEY TAPESとか」

the telephones石毛輝LUCKY TAPES高橋海&濱田翼)による対談のダイジェスト映像

 

加藤「あれは、石毛氏のブログで、彼がいま注目している若手を紹介してくれた……という出来事に端を発していて。そういう派生の仕方もおもしろかったね」

田中Turntable Filmsの井上陽介さんとROTH BART BARONの三船雅也さんの対談もあったし、黒田卓也さんとceroもあった。SCOOBIE DOはいくつもやりましたしね」

加藤「スクービーは2015年が20周年イヤーということでいろいろやらせてもらったけど、とにかくそれ以外の案件でもよく対談させてもらったねー。まだこれから公開しようと準備している記事もあるくらい(笑)」

小熊「最近公開した、チャーベ(松田岳二)さんとkeishi tanakaさんのタヒチ80座談会も人気でしたね」

加藤bird×冨田恵一さんや、THE NOVEMBERS×土屋昌巳さんもそうだけど、プロデューサーの方とか制作に関わっている人が語ってくれることで、その作品がより深く見えてくる気がした」

小熊「ネーム・ヴァリューだけに頼らず、組み合わせにちゃんと意図があって、ちゃんとそれに応じた話をしていただけていたと思います」

加藤「うんうん。それにしても、ロバート・グラスパー×OMSBの取材は印象深すぎる」

小熊「忘れられない。だってその場でラップしはじめる取材なんて……そうないじゃないですか(笑)。完全に想定外ですよ」

一同「ハハハハハ(笑)」

ロバート・グラスパーとOMSBによる対談のダイジェスト映像。残念ながら件のセッションは未収録だが、OMSBが自身の楽曲を褒められ照れまくる様子などが微笑ましい

 

小熊「グラスパーがおもむろに立ち上がってピアノを弾きはじめて、OMSBがそれに乗せてラップを始めて。正直、本編のインタヴューよりもインパクトがあった」

加藤「もうそれでいいじゃん、みたいな雰囲気が(笑)」

小熊「こんな取材この世にあるんだなと。あとグラスパーは本当いい奴だった。相手がラッパーじゃなかったらあんな事態にならなかったですよ」

加藤「そうだね。よくぞそこにピアノがあった!」

一同「ハハハハハ(笑)」

小熊「僕のせいもあるけど、今年は全体的にジャズの記事がたくさんあがりましたね」

加藤「ジャズのサイトだと思われてるかな?」

小熊「ジャズを載せるサイトがほかにあまりないのもあるんですかね。でも記事自体は結構キャッチーに作っているつもりで、必ずしもジャズのファンじゃないと読めないものではないはず。ほかに、ここで紹介した20位以内ではないけど特筆しておきたいのがSaToAのインタヴュー。非常に印象的でした」

SaToA

 

加藤「あれも編集会議のなかでの衝動的な動きから実現した記事だね」

小熊「〈SaToAがおもしろいのでインタヴューさせてください!〉という……あれは情熱」

加藤D.A.N.のインタヴューもそうだったし。ライヴを観に行って、〈これは……!〉となってすぐにオファーしていた気がする……これも船越さんが」

小熊「SaToAと、あとダニエル・クオンはキャリア初のインタヴューということで、記事を作りながらたくさんの発見がありました。初インタヴューをさせてもらえるというのは、Mikikiとしても光栄なことですよね。どういう人なのかは会いに行って話を訊いてみないとわからないから、こういったフットワークの軽さは今後も大事にしていきたいです」

加藤「やっぱりウェブサイトだから、鉄は熱いうちに打てじゃないけど、なるべく〈いい!〉と思ったその衝動のまますぐに発信したいね」

小熊「あとは、トーク・イヴェントについても語っておきましょう! ASIAN KUNG-FU GENERATION後藤(正文)さんがたまたまTwitterで反応してくれたので、お声掛けしてみたら本当に実現できたという〈未来の音が聴こえる〉」

加藤「急きょ決まった感じだったけど、お客さんもたくさん来てくださって良かった。イヴェント後の感想では〈よくわからなかったけど楽しかった〉というコメントもチラホラ(笑)」

一同「ハハハハハ(笑)」

小熊「機材についてとか、スタジオにまつわる話をガンガンしてましたもんね」

加藤「ミュージシャンじゃないと難しい話もあったけど、アジカンのレコーディング時のエピソードとかは皆さん喜んでいたんじゃないかな」

小熊「ある意味でマニアックなイヴェントでしたけど、それでお客さんを集める後藤さんはスゴイですよね。(高橋)健太郎さんや金子(厚武)さんのトークも冴えてたし、達成感のある企画でした。アーティストが音楽について生で語る機会って案外少なかったりするので、こういうトーク・イヴェントやライヴ企画などは来年もちょっとずつやっていきたい」

 

本当に好きなものを語る時のパワーはすごい

加藤「個人的には、今年一発目くらいにあげたKEITH APEの“It G Ma”の記事が多く読まれていて嬉しかった。20位からはちょっと漏れたけど」

上岡「韓国のアーティストはずっと検索されていましたね」

田中「トピックス系だとこれがトップじゃないですかね」

加藤「やはりKOHHLOOTASQUASH SQUAD)の日本勢が参加していたこともあって、日本でも注目されたと思うけど、あれがUSであんなにバズることになるとは……。これだけでなく、2015年はFla$hBackSのJJJとUGLY DUCKZEN-LA-ROCKとKIRINのように日韓のラッパーによるコラボが多くあってのはとても嬉しかった。せっかくご近所の国同士なので、今後もそういう動きが活発にあるといいな」

高見「私は、ヤセイの〈同業ハンティング〉がMikikiに来て初めて関わった記事ということで印象深いです。プレイヤーならではの機材話も多く、あれこれ勉強しながら記事を組み立てました」

小熊「僕はさっきも話に出たけどTHE NOVEMBERSの小林さんと土屋さんの対談が印象深いです。僕、土屋さんもジャパンも本当に好きだったので……思い入れが強くて。それに小林さんとは同い年というのもあって、勝手にシンパシーを抱いていたんですよね。だから取材中は緊張しまくった(笑)。終わった後、マネージャーさんに〈足震えてましたよ〉と言われましたよ」

一同「ハハハハハ(笑)」

小熊「これは絶対に失敗は許されないという意気込みで。もちろん、普段から失敗は許されないんですけど(笑)、とにかく本気の覚悟で臨んだインタヴューでした」

加藤「それが伝わってくる記事だったと思うよ」

小熊「土屋さんがとてもお喋り上手だった。南禅寺の釘の話とか、本当は記事に載せたかったけど泣く泣く割愛したエピソードもあって……あれは最高でしたね」

上岡「今年は、サマソニを運営しているクリエイティブマンの清水社長の記事や吉田ヨウヘイさん、T.M.Revolutionさんみたいに、読み物と映像の両方あるものがわりと充実させられた気がします。あと濱口祐自さんの連載〈その男、濱口祐自〉の動画は、知らないうちに再生回数が1万回超えているものもあったりして。Mikikiを立ち上げる時に1つの取材で読み物記事を作る、映像を作る、イヴェントもやる、みたいにいろいろなコンテンツを作るって考えてたし、来年はもっと幅が出せたらおもしろいと思います」

濱口の地元である那智勝浦の成人式でミニ・ライヴを披露した連載〈その男、濱口祐自〉第1回のダイジェスト映像

 

小熊「確かに、連載〈吉田ヨウヘイgroupの“話を聞いたんだ”〉で取材したネルス・クラインがギターを実演している映像があったのはすごく良かったですね」

〈吉田ヨウヘイgroupの“話を聞いたんだ”〉第1回のネルス・クラインとの対談ダイジェスト映像

 

田中「僕は、加藤さんが言っていたように、作り手に作品を語ってもらってより深く理解するというのはもはやMikikiの軸になっていると思うんですけど、逆にダイサク・ジョビン氏の佐野元春3部作解説のような、リスナーに熱いものを語ってもらう記事がもっと増えてもいいなと思います。橋本徹さんのドーニク記事もそうだと思うんですが、対象のアーティストや作品について、知識や思い入れのある人が語るというのはやはりおもしろいなと」

加藤「橋本さんのドーニク解説はすごくおもしろかったね! 〈なるほど、そうか〉と思うところがいっぱいあって、個人的にはドーニクのアルバムの副読本として活用したい内容だった」

小熊高橋健太郎さんがインタヴューもしつつ執筆したKIRINJIのコラム記事のようなものや、短いレヴューや書き記事がもっとあっていいのかなと思いますよね」

田中「それ以外だとダニエル・クオンのインタヴューは凄まじくおもしろかったなと……ああいった普通じゃない才能を発見できるのは嬉しいことだと思う。それに固有名詞を含めて、ちょっと敷居の高い感じがあって。それを背伸びしながら読めるような音楽体験というか、音楽についての書き物を読むというのは大事だと思うんですよね。当然、〈わかりやすい〉ように門戸は広く、でも読み手が一段階段を上がれるようなものを、また来年もたくさん作れたらいいなと」

加藤「〈わかりやすい〉のと、単純に敷居を下げるというのはちょっと違うような気がするから、そこのバランスは今後も上手く取っていきたい」

小熊「確かにそうですね。親切なのはありがたいけど発見がなければ読む意味がないような気がしますしね」

田中「あと……僕のMikikiを通しての衝撃的な出会いは石指拓朗ですね」

彼の初作『緑町』の連続アクセス・ランキング入りはMikiki下半期のビッグな話題の1つで、特派員任命された田中はライヴへ潜入、インタヴュー取材へ漕ぎ着けた。その模様は年始に公開予定なのでお楽しみに!

小熊「それにしてもMikikiの記事は長編が多いですよね。アクセス上位のものに関しては大半が長編」

加藤「それでもたくさん読んでくれているわけで……」

小熊「ウェブの記事はコンパクトにまとめることが定説のように言われがちだけど、必ずしもそういうわけではないというのがわかりますよね。でも、この見事に脈略のないランキングの並びを見て、何か共通する点を無理やり挙げるとしたら……やっぱり〈情熱的な語り口〉なのかな」

加藤「純粋なね」

小熊「そうそう。純粋に音楽が好きで、さらに広い目線で見えている人。安孫子さんも嶺脇社長もそうですよね。そういう記事が多く読まれているのはすごくいい傾向だと思います。社長の連載も、アイドルを扱ってるから需要が大きいというのもあるのでしょうけど、仮にそうだとしたら、ほかのアイドル記事が上位を独占しているはずなわけで。その熱っぽい語り口が、読み手をグイグイ引き込んだんだと」

田中「確かにこうやって見ていくと、熱量溢れる語り手に語ってもらうという軸があったような気がしますね」

加藤「そういう語りを聞いていると引き込まれるというのはある。本当に好きなものを語る時のパワーってすごいと思うし、そういうピュアな部分は大事にしていきたい」

小熊「ピュア・メディアですね(笑)」

加藤「ピュアなメディア、Mikikiです(笑)。それでは来年もピュアな気持ちを忘れずにやっていきましょう!」