ジャズ?ロック?現代音楽? 音楽語彙をおおらかに俯瞰する要注目のインスト・バンド

 日本人が2人、米国人と英国人が1人づつの、東京を拠点に置くインストゥルメンタル・バンド。また、その楽器構成は、ヴァイブラフォン(山田あずさ)、エレクトリック・ピアノ(ケヴィン・マキュー)、コントラバス・クラリネット(ヒュー・ロイド)、ドラム(山本淳平)。そんな内訳をnouonという不思議な名前を持つ4人組は抱えるが、その情報からどんな音を想像するだろうか? ちなみにコントラバス・クラリネットは、バス・クラリネットよりも下の音域を持つ珍しい管楽器だ。

nouon KUU Mel Records(2015)

 『KUU』はnouonのデビュー・アルバムであるが、上記の珍しい要件を利しつつ、それは大方の想像を超える持ち味や展開を持っているのではないか。ジャズ、現代音楽、ロックなどを俯瞰するような楽曲はすべてメンバーのオリジナル。その凝った素材を元に4人が自由に音を出し合っているのだが、その練られた重なりの様が本当に一筋縄ではいかない。それらは、1曲の中でも技アリで表情を変えていく。繊細さや大胆さ、歌心といったものが滑らかに混在する『KUU』は、確かな審美眼を持つ大人の現代インスト表現として見事に結実している。

 そして、アルバムを聞き終わる頃には、自分たちだけの音を作りたいという4人の我が道を進もうとする強い意志や、東京という何でもアリのコスモポリスが持つ風通しの良さが導くしなやかな創造性を痛感してしまうのだろう。

 それから、アルバム最後に置かれた《Showcase》という曲に触れたい。これは彼らの曲のなか異色と言っていいハード・ドライヴィングなテーマを持つが、それはチャールズ・ミンガスセロニアス・モンクといったかつてのジャズ巨匠が持っていた諧謔美学をおおいに孕む。とともに、そこに騙し絵のような感覚で差し込まれる4人のソロの輝きには胸がすく。この曲を聴けば、nouonがいかに瑞々しいジャズ感覚を持っているかがよく分る。ぼくは実のところ、この曲が個人的な2015年ベスト・ジャズ曲になると確信している。