ジャズピアニストでありメタラーでもある西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。第77回は、Mary’s BloodやNEMOPHILAといったバンドで活動でしてきたギタリスト・SAKIさんへのインタビューです。ソロギタリストとしての活動を本格的に始動させたSAKIさんのデビュー作『GERMINANS EP』を中心にした、プレイヤー同士ならではの対話になりました。 *Mikiki編集部
ハードロックのミュージシャンもセッションをやろう
――初のソロ作品リリースですね。デビューが2010年、その後Mary’s Blood、NEMOPHILAと、ずっとバンドで活動していたけれど、ソロで活躍する状況って、デビューの時に想像してましたか?
「〈バンドでずっとやっていくんだろうな〉と漠然と思っていたので、こうしてソロでインスト作品をリリースできるとは想像してなかったです。自分でも結構びっくりしてますね。
インストなので、きっとそんなに枚数は出ないだろうと見積もっていたら、ありがたいことに発売前なのに追加プレスをすでに3回もしていて」
――2018年にNHORHM(西山瞳によるヘヴィメタルのカバープロジェクト)で録音とライブに客演してもらいましたが、その時もうすでに色んな現場にギタリストとして参加しているイメージがあったけど、そういうジャズフュージョン系のコラボって、今も続けていますか?
「そうですね。でもNHORHMの時みたいにレコーディングへの参加は意外となくて、それよりはライブで呼ばれることが多いですね。ギターの是方博邦さんのセッションとか、少し毛色は違うんですけど、ドラムの實成峻(ミナリシュン)君のセッションとか。實成君の方は、〈ハードロックのミュージシャンは全然セッションをやってないから、セッションをやろう〉っていうコンセプトで〈ROCK INST NIGHT〉っていうのをやっていて、そこに呼んでもらったり」
――それは、どんな曲を演奏しているの?
「ジョー・サトリアーニやスティーヴ・ヴァイのインストを演奏したり、歌物をインストにしたりすることもあります。けど、洋楽の歌物ってメロディの変化が極端に少ない曲も多くて、ギターだとちょっと歌うのが難しい曲も多いです」
――わかる。〈ドドドド〉みたいなメロディね。私もNHORHMで演奏する時に困ったし。
「そうそう。洋楽ってそういうのが多いじゃないですか。なので試行錯誤しながらですが、セッションには6、7年ぐらい参加させてもらってます」
ギターインストだけどJ-POPマナーな“GERMINANS”
――今回の作品のうち2曲は発表時に聴いていたけれど、改めて並べて聴くと、とっても歌物みたいで楽しいと思いました。意外とギターインストでここまで歌物っぽいの、ないかもしれないなと思って。私もギターインストは昔から好きで聴いていたけど、まあ大体難しい感じじゃない(笑)? どうしてもプレイヤーとしての主張が先に出てくるから、テクニカルな部分も世界観も詰め込むし、インストを聴き慣れていない人からしたら、多分とっつきにくいものも多い思う。けれど、これはどのパートを切り取ってもしっかり〈歌〉になっていて、並べて聴いてみると、すごく〈歌〉だなあと思ったんですね。そういう部分って、HR/HM以外のセッションの経験が活かされています?
「色々振り返ると、ジョー・サトリアーニの演奏が結構そういう感じなんですね。もちろんテクニカルな部分もあるんですけど、基本的にメロディがシンプルじゃないですか。アンディ・ティモンズとかもそうなんですけど。
ギターインストだとずっと弾きまくっているものが多いし、それこそイングヴェイ(・マルムスティーン)とか、そういうのも格好良いと思うんですけど、實成君たちとのセッションでジョー・サトリアーニやアンディ・ティモンズの曲を演奏する中で、やっぱり私は歌メロがしっかり立っているものが好きだなあと実感して、そういうニュアンスでインストをやりたいというのはありました」
――“GERMINANS”のサビ始まりとか、とってもJ-POPマナーの構成だなと思いました。
「そうですね。めちゃくちゃJ-POP。やっぱりインストって歌がないから抑揚をつけるのが結構難しくて、〈ここはサビ!〉と歌物感があった方が面白いかなと思い、自分のやりたい方向性をアレンジャーに伝えて作っていきました」
――“GERMINANS”のAメロで、低い音域で歌う部分も、昔ながらのJ-POPの組み立て方っぽいけど、ギターでああいう音域のメロディを歌うのってあまり聴かないし、意外と難しいんじゃないのかなと思いました。特に、メタルだとあんな音域でメロディを弾かないよね。
「あまり使わないかもしれないですね。〈ここの音域でビブラートするのは大変だったんだな〉って思ったりしたし、低音弦を使うとどうしても表情のつけ難さを感じて工夫しました」
――フュージョンとか、ブルースとかは通ってるんですか?
「是方さんとご一緒するタイミングで初めてちゃんと触れた感じです。それまではあまり接する機会がなかったですね。聖飢魔IIのゼノン石川和尚のフュージョンのセッションとか、ライブは結構見に行ってたんですけど。
是方さんとのセッションだと、テンション(コード)も入ったジャズブルースっぽいものを演奏することがすごく多くて、新鮮でした。最初は戸惑いもあったんですけど、全然自分が知らないものをやるのは面白くて。
他に、聖飢魔IIの構成員さんが好きなものを追う過程で、ジェイル大橋代官がブルースの名盤を挙げられていることが多いことを知って。大橋さんは、ご自身でインストも演奏されるし、歌われたりもするので、それも聴いていました。大橋さんのアルバム『ROCK‘N’ROLL』の“Whole Lotta Guitars”という曲で、色んなギターで同じリフをひたすら弾いていて、〈こんなに違うんだ!〉っていうアプローチが面白いんですよ」