黒い大地に鮮やかな民族衣装を纏って佇むマリア
その胸に渦巻く熱い思いと深い哀しみ

 黒い火山灰の地で農業を営むマヤ族の一家。両親は、美しく成長した娘マリアを土地の有力者に嫁がせようとするが、彼女はアメリカ行きを計画する青年に思いを寄せて――。

 過酷な自然環境の中、大地の神に感謝して生きるマヤ族の母と娘のドラマをフォトジェニックに描いた『火の山のマリア』。このベルリン映画祭で銀熊賞を射止めたデビュー作で、監督ハイロ・ブスタマンテはグアテマラ初の米アカデミー賞へエントリーも果たした。

(C)LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015

 「子どもの頃、祖父母の農園によく遊びに行き、夜になると、火の側で語り部の話に一晩中、耳を傾けていました。その語り部に憧れ、マリオネットでお芝居を作って、お客を呼んで披露したのが、私の物語事初めでした」

 グアテマラ高地の星空の下、ストーリーテラーになることを夢み、パリやローマで映画を学んだというブスタマンテ監督。そんな彼の監督第1作のインスピレーションは、やはり幼き日々の夢を育んだ大地と、マヤ族の人々との交流の中から生まれたものだという。

 「かつて母はグアテマラの先住民族に予防接種を薦める仕事をしていて、幼い私はいつも彼女について回っていました。大変な山越えも、子どもにとっては楽しいもので、マヤの人々の生活にも慣れ親しんでいました。その頃、母は医療関係者が組織ぐるみでマヤ族の赤ん坊誘拐に加担していたと知り、とても憤っていました。その後、私自身が赤ん坊を奪われた実在のマリアと出会ったことで、このテーマを撮らなければという思いに突き動かされてきたのです」

(C)LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015

 『火の山のマリア』の原題は“火山”。黒い大地に映えるカラフルな民族衣装を纏って寡黙に佇むマリアと、バイタリティと包容力に溢れる母。静と動、対照的な娘と母も、それぞれに胸に火山を抱いている。

 「マリアのキャラクターは、まさに火山と同義です。母と一緒に過ごした集落での経験や、マヤ女性の声を拾っていますし、彼女たちの困難は今も変わらず続いています。映画の中でダイレクトに社会批判してはいませんが、内に秘めたものは大きい。私自身、マヤの女性に身を置いて描いていますから。その一方で、マヤの女性だけではなく、ユニバーサルな母性、そして喪失、また普遍的な女性の強さ、しなやかさも描いたつもりです」

(C)LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015

 彼が幼かった当時、グアテマラ高地では政府軍と反政府ゲリラとの抗争が激しく、医療関係者は危険な高地への赴任を嫌ったという。しかし彼を女手ひとつで育てるため、母は職を求めてその地へ向かい、先住民を搾取する不正に憤った。そんな母に育てられた新鋭監督が奏でるのは、大地と共に生き、深い喪失から何度も立ち上がってきた女たちの力強い人間讃歌だ。

 


映画『火の山のマリア』
監督・脚本:ハイロ・ブスタマンテ
製作総指揮:イネス・ノフエンテス
出演:マリア・メルセデス・コロイマリア・テロンマヌエル・アントゥン/他
配給:エスパース・サロウ (2015年 グアテマラ・フランス 93分)
◎2/13(土)、岩波ホールほか全国順次ロードショー
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