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リアーナら魅了する〈時の人〉、シーアの世界 ~新作『This Is Acting』と関連作品から売れっ子ソングライターの魅力を探る

リアーナら魅了する〈時の人〉、シーアの世界 ~新作『This Is Acting』と関連作品から売れっ子ソングライターの魅力を探る

私はシーア、〈表の顔〉と〈裏の顔〉を持つ女よ!

 気がついたら押しも押されもせぬ超売れっ子のソングライターになり、世界中が新作を期待するビッグなアーティストになっていたという、そんな印象がある。前作『1000 Forms Of Fear』は全米チャートで初登場1位。出たばかりのニュー・アルバム『This Is Acting』はセールス面でその初動を上回っているそうだから、いまやシーアは〈時の人〉といった感じだろう。

SIA This Is Acting Monkey Puzzle/RCA/ソニー(2016)

 だが、彼女がポピュラー・ミュージック・シーンにおいてこれほど重要な存在になったのは、2010年代に入ってのこと。歌手活動を一旦休み、職業作家として本腰を入れてからだ。それまでも他者への楽曲提供は行っていたものの、主にUSの女性シンガーに数多く曲を書くようになり、クリスティーナ・アギレラの2010年作『Bionic』――アギレラはこの時、「シーアは完璧な宝石よ。本当に侮れない才能があるの」と話していた――にガッツリ関わったのを皮切りに、リアーナブリトニー・スピアーズビヨンセケイティ・ペリーらの作品へ裏方参加。なので、ここ数年は〈第一線で活躍する歌姫たちにヒット曲を贈ってきた名ソングライター〉というのが、シーアを紹介する際に欠かせない一文になっていたわけだが、2000年代半ばまでは〈ゼロ7に参加したことで注目されたシンガー〉というのが彼女のわかりやすい紹介の仕方で、筆者もいくつかシーア関与作のライナーにそう書いたものだった。

 ちなみにソロ・シンガーとして彼女が注目されるようになったのは、3作目『Colour The Small One』(2004年)に収録された“Breath Me”が、TVドラマ・シリーズ〈Six Feet Under〉のエンディングで使われたのがきっかけ。同作のなかにはまだトリップ・ホップ的な浮遊感覚のナンバーがあったし、歌唱も気怠さと繊細さが合わさったもので、当時はダイドなんかとよく比較されていた記憶がある。US的な先鋭R&Bサウンドに乗ってパンチの効いたソウルフルなヴォーカルを聴かせる現在のシーアも良いが、まだ普通に顔を見せて活動していた2010年の5作目『We Are Born』に至るまでの3枚はいずれも傑作なので、いまこそ再評価されてほしいと強く思う。

2004年作『Colour The Small One』収録曲“Breath Me”、2007年のライヴ映像

 

 さて、歌い手としての第2章の始まりは、ソングライターとして十分すぎる知名度をものにしたあと、2014年に放った『1000 Forms Of Fear』からだ。シングル曲“Chandelier”のPV効果もあって、それは社会現象と言えるほどの特大ブレイク作品となる。この約4年ぶりの歌手復帰盤はメディアにあまり顔を出さなくなってからの初のアルバムであり、つまりそこには楽曲そのものの質で勝負せんとする意志が反映されてもいた。

2014年作『1000 Forms Of Fear』収録曲“Chandelier”

 

 そして、『1000 Forms Of Fear』から1年半ぶりの早さでお目見えしたのが7作目となる『This Is Acting』。本作は他のアーティストに書き下ろしたものの、採用されなかったナンバーをまとめた一枚だそうだ。つまり別の人間の視点に立って書かれた楽曲集。それをみずから歌っているから『This Is Acting』というタイトルなわけだが、誰かを演じていてもシーアという女性の生々しさ、あるいは作詞/作曲者としての独自性は過剰なほどに伝わってくる。裏方としてクレジットされているのは、シーア作品には欠かせない存在のグレッグ・カースティンをはじめ、カニエ・ウェストT・マイナスブリーチャーズ名義でも活動するファンジャック・アントノフクリス・ブレイドジェシー・シャトキンなど。

 例えば“Cheap Thrills”は、いかにもリアーナのために書かれたことがよくわかるダンスホール調のクラブ・バンガー。近年のシーア曲のダークなトーンに、リアーナの声がよくマッチするのは早くから証明されていたが、しかしシーアが歌えばシーアの念のようなものがそこに表出する。また、もともと『25』用に準備されたアデルとの共作曲“Alive”は、アデルっぽいスケール感のメロディーながらもシーアの絶叫的な唱法がよく馴染み、剥き出しの感情が押し寄せてくる。そういう意味で、このアルバムは楽曲の強度と共に主役の歌唱の強度を、これまででもっとも感じることのできる内容だ。採用しなかったシンガーたちは、いま頃きっと臍を噛んでいるに違いない。

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