私はシーア、〈表の顔〉と〈裏の顔〉を持つ女よ!
気がついたら押しも押されもせぬ超売れっ子のソングライターになり、世界中が新作を期待するビッグなアーティストになっていたという、そんな印象がある。前作『1000 Forms Of Fear』は全米チャートで初登場1位。出たばかりのニュー・アルバム『This Is Acting』はセールス面でその初動を上回っているそうだから、いまやシーアは〈時の人〉といった感じだろう。

だが、彼女がポピュラー・ミュージック・シーンにおいてこれほど重要な存在になったのは、2010年代に入ってのこと。歌手活動を一旦休み、職業作家として本腰を入れてからだ。それまでも他者への楽曲提供は行っていたものの、主にUSの女性シンガーに数多く曲を書くようになり、クリスティーナ・アギレラの2010年作『Bionic』――アギレラはこの時、「シーアは完璧な宝石よ。本当に侮れない才能があるの」と話していた――にガッツリ関わったのを皮切りに、リアーナやブリトニー・スピアーズ、ビヨンセにケイティ・ペリーらの作品へ裏方参加。なので、ここ数年は〈第一線で活躍する歌姫たちにヒット曲を贈ってきた名ソングライター〉というのが、シーアを紹介する際に欠かせない一文になっていたわけだが、2000年代半ばまでは〈ゼロ7に参加したことで注目されたシンガー〉というのが彼女のわかりやすい紹介の仕方で、筆者もいくつかシーア関与作のライナーにそう書いたものだった。
ちなみにソロ・シンガーとして彼女が注目されるようになったのは、3作目『Colour The Small One』(2004年)に収録された“Breath Me”が、TVドラマ・シリーズ〈Six Feet Under〉のエンディングで使われたのがきっかけ。同作のなかにはまだトリップ・ホップ的な浮遊感覚のナンバーがあったし、歌唱も気怠さと繊細さが合わさったもので、当時はダイドなんかとよく比較されていた記憶がある。US的な先鋭R&Bサウンドに乗ってパンチの効いたソウルフルなヴォーカルを聴かせる現在のシーアも良いが、まだ普通に顔を見せて活動していた2010年の5作目『We Are Born』に至るまでの3枚はいずれも傑作なので、いまこそ再評価されてほしいと強く思う。
さて、歌い手としての第2章の始まりは、ソングライターとして十分すぎる知名度をものにしたあと、2014年に放った『1000 Forms Of Fear』からだ。シングル曲“Chandelier”のPV効果もあって、それは社会現象と言えるほどの特大ブレイク作品となる。この約4年ぶりの歌手復帰盤はメディアにあまり顔を出さなくなってからの初のアルバムであり、つまりそこには楽曲そのものの質で勝負せんとする意志が反映されてもいた。
そして、『1000 Forms Of Fear』から1年半ぶりの早さでお目見えしたのが7作目となる『This Is Acting』。本作は他のアーティストに書き下ろしたものの、採用されなかったナンバーをまとめた一枚だそうだ。つまり別の人間の視点に立って書かれた楽曲集。それをみずから歌っているから『This Is Acting』というタイトルなわけだが、誰かを演じていてもシーアという女性の生々しさ、あるいは作詞/作曲者としての独自性は過剰なほどに伝わってくる。裏方としてクレジットされているのは、シーア作品には欠かせない存在のグレッグ・カースティンをはじめ、カニエ・ウェストやT・マイナス、ブリーチャーズ名義でも活動するファンのジャック・アントノフ、クリス・ブレイドにジェシー・シャトキンなど。
例えば“Cheap Thrills”は、いかにもリアーナのために書かれたことがよくわかるダンスホール調のクラブ・バンガー。近年のシーア曲のダークなトーンに、リアーナの声がよくマッチするのは早くから証明されていたが、しかしシーアが歌えばシーアの念のようなものがそこに表出する。また、もともと『25』用に準備されたアデルとの共作曲“Alive”は、アデルっぽいスケール感のメロディーながらもシーアの絶叫的な唱法がよく馴染み、剥き出しの感情が押し寄せてくる。そういう意味で、このアルバムは楽曲の強度と共に主役の歌唱の強度を、これまででもっとも感じることのできる内容だ。採用しなかったシンガーたちは、いま頃きっと臍を噛んでいるに違いない。
多方面からの大量オファーに豊かな才能で応えてきた彼女のこれまで

シーアの初アルバムがひっそりとリリースされた年に、本作で大ブレイクしたゼロ7(マーキュリー・プライズにもノミネート!)。ここで彼女は“Destiny”のメイン・ヴォーカルを担当している。穏やかな歌唱をグループの個性と見事に合致させることで、ヒットに大きく貢献したと同時に、自身の認知度を上げることにも成功! *青木

活動の初期段階はポップ歌手としてより、トリップ・ホップやダウンテンポ界隈の人というイメージが強かったシーア。当時の立ち位置は、ゼロ7に続きこのダウンテンポの名手と手合わせした本作のシングル曲“Metro Sound”からも見て取れる。 *青木

イメルダ・マルコスの生涯を描いたこのコンセプト作品で、トーリ・エイモス、シンディ・ローパーら大物たちと共に駆け付け、“Never So Big”に客演。異国情緒の溢れるオケに伸びやかな歌声を響かせ、いよいよメジャーへの侵攻を始める。 *青木

〈テン年代のエレクトロクラッシュ〉を掲げたこのサイボーグ盤において、間に挿まれる人間味たっぷりなスロウ・パートのプロデュース&作曲を、サミュエル・ディクソンと共に丸ごと任されたシーア。いつになくソフトなピアノ・バラード“All I Need”など、母になったアギの新たな魅力を引き出し、次作やサントラ『Burlesque』でも声がかかるようになります。 *山西

現在手に入るもっとも古いリーダー作が、インディー時代から数えて5枚目となるこれ。前作やアギレラ作品で確立した生音バラード職人というイメージを刷新し、マドンナをカヴァーしたり、シンディ・ローパー風のガーリー・ポップを披露したり、完全に80sモードです。昨年のカーリー・レイ・ジェプセン仕事と繋げて聴くとより楽しい! *山西

EDMアンセムであると同時に、この年の音楽シーンを代表する特大ヒットとなった本作収録曲“Titanium”で味をしめたゲッタは、翌年の“She Wolf(Falling To Pieces)”や、2014年の“Bang My Head”と、以降もたびたびシーアをフィーチャー。情感たっぷりな彼女のヴォーカルは、ゲッタ/EDMに欠かせないのだ。 *青木

フロウ・ライダーのEDMチューン“Wild Ones”に登板したシーア。ここでも飛び切りエモーショナルに歌い、業界随一のパーティー男を喰いかねないパフォーマンスで、楽曲の昂揚感をいっそう引き立ててみせた。ダンス・ミュージックへの適応能力の高さも彼女の魅力だ。 *青木

英米で1位を記録したシングル“Diamonds”は、シーアが14分で書いたものだとか。恋愛をダイヤの輝きに例えた美しいラヴソングをリアーナに歌わせ、刹那感を出すとは……技アリですね。で、新作『Anti』用にも複数曲を提出したそうですが、いろいろあって“Cheap Thrills”や“Bird Set Free”などは『This Is Acting』に収められることとなりました。 *山西

華やかなメジャー仕事ばかりを優先しているかと思いきや、デヴィッド・シーテックの寵愛を受けるインディー電子ガールともここで共演。もともとアンダーグラウンドで地盤を固めたシーアだけに、大衆性とエッジーさの両立を狙った“Green Card”にて主役を好サポート! *青木

EMINEM The Marshall Mathers LP2: Deluxe Edition Shady/Aftermath/Interscope(2013)
出世作の続編を謳い、英米で1位を記録したモンスター・アルバムのデラックス版に、シーア客演曲“Beautiful Pain”が収録。彼女の淡々としたフックとエミネムの直情的なラップとの対比で描く感動大作系の作りは、映画「イコライザー」の主題歌に起用された翌年の“Guts Over Fear”でも応用されています。 *山西
まだまだあるよ! 多方面からの大量オファー

グレッグ・カースティンが指揮した本作収録曲“Double Rainbow”は、運命の出会いに歓喜する80s調のシンセ・バラード。ケイティ・ペリー得意のロマンティックな比喩表現に、シーアは柔らかな旋律で彩りを添えています。この共同作業で意気投合した2人は公私に渡って仲良くなり、新作でも絡もうと企んでいたとか。次回はぜひ! *山西

本作で聴けるシーアの客演曲“Battle Cry”は、バイセクシャルを公言する両者だからこそ表現できた何者にも屈しない力強い愛の歌。グレッグ製のどこか錆びた音像が、ラナ・デル・レイやスカイラー・グレイと共鳴しながら、永遠を夢見る2人の思いを切なく盛り上げます。 *山西

シーアが2曲を提供した丸刈り盤。特にストロングな声とメロディーをゴリ押しした正調パワー・バラード“Breathe”は、このイメチェン作の重要なキーとなることに。そしてジェシー・Jとシーアが仕掛けるメロドラマティック路線は、映画「ピッチパーフェクト2」(2015年)の挿入歌へと続き……。 *山西

攻撃的なエレクトロが並ぶ本作で、親友ケイペリとの共作曲やシングル“Perfume”など、(イイ意味で)箸休め的なスロウを献上したシーア。久しぶりにピュア・サイドのブリと再会させてくれたこれらの曲に、感謝しているファンは少なくないでしょう。なおこのページ的には新作をプロデュースしたクリス・ブレイドとの初仕事という大切なトピックもあり。 *山西

フローレンス・ウェルチに感化されたというビヨンセのゴシックなチェンバー・ポップ気分を汲み取り、シーアは本作のオープニング曲を提供。そして『This Is Acting』には、これと同時期にビヨへ贈った“Footprints”を収録。あの歌声にも迫力負けしないであろう壮麗なメロディーが素晴らしく、なぜ姫はこの曲をパスしちゃったんだろうか。 *山西

80sに青春を過ごしたシーアにとって、同じオーストラリア出身のこの大スターとの仕事は感慨深かったはず。ダブステップ調のセクシャルな曲であっても、欧州浪漫たっぷりなメロディーが主役の品位をしっかり保っていて、そこにシーアの愛とこだわりを感じます。 *山西

2作目は、リアーナやビヨンセ仕事で感じた手応えを自身の作品に落とし込まんと、アンビエント・ソウルで全編を構成。マイナー調の旋律、ダークな音飾、〈不安〉というテーマ設定、すべてがテン年代的です。冒頭曲がグラミーにノミネートされるなど、歌手としても大成功を収めた一枚! *山西

グレッグの監修した本作では、ミュージカル版の有名曲と並び、ゴールデングローブにもノミネートされた主題歌を含むシーアの書き下ろし曲が8つ収録! 特に2008年作『Some People Have Real Problems』以来となるベックとシーアのデュエットが、超ゴキゲンなカリビアン・ポップで◎! *山西

B-52'sのフロントウーマンによる初のソロ作。ここでシーアは1曲を除いたすべてのナンバーを書き、コーラスやパーカッションでも活躍。レゲエ風のビートも使った手作り感溢れるオーガニックな電子ポップと、主役の不思議ちゃん歌唱は、プリシラ・アーンやイナラ・ジョージらとつるんでいた2000年代半ばのシーアっぽいです。 *山西

GIORGIO MORODER Deja Vu Giorgio Moroder/RCA/ソニー(2015)
ディスコ界の巨匠が30年ぶりに発表した本作でもシーアはお呼ばれ。ミラーボールが頭上で輝くセクシーなディスコ・トラック“Deja Vu”にて、官能的なヴォーカルを駆使しながらアダルトに迫っている。御大もシーアにご執心のようだ。 *青木

KANYE WEST The Life Of Pablo G.O.O.D./Def Jam(2016)
『This Is Acting』のお返しもかねて、本作の先行曲として早い段階から公開されていた“Wolves”にシーアがゲスト参加。『1000 Forms Of Fear』の頃よりも輪をかけてリアーナ度の高い病んだヴォーカルが、いかにもイーザスらしいゴツめの工業ビートとマッチ。 *山西