©Frank Boulanger

フランスのコンテンポラリーダンス界を牽引してきた3人がシャンソンで踊る!!

 〈ダンス=若さの芸術〉という無意識の思い込みを、この作品は心地良く裏切ってくれるだろう。シンプルな円形舞台(ピスト)に立つ、ダニエル・ラリュー、パスカル・ウバン、ドミニク・ボワヴァンは、全員が1950年代生まれ。1980年前後に次々現れ、ヴィデオやインスタレーション、ファッションを取り込んでアートとしてのダンスの地平を拡張した輝かしい世代の振付家/ダンサーであり、コンテンポラリー・ダンスの第一線を走り続けて来た。

 時を経て集った3人が、共に踊るために選んだのは16曲のシャンソン。エディット・ピアフからレオ・フェレ、バルバラ、セルジュ・ゲンスブールなど往年の名曲ぞろいだが、ダンスの未知の領域を果敢に探求してきた彼らのこと、ありふれた懐古趣味に浸るはずがない。

 1曲目、フランス的な言葉遊びを駆使して人生を風刺するレ・フレール・ジャック“フォ・トゥ・サ”をユーモラスな身体言語で視覚化するのを手始めに、ノンストップで3人は踊り続ける。振付は歌詞に忠実なことも、歌詞からイマジネーションを自在に展開させることもある。だがフランス語を解さなくとも、シャンソンの言葉の美しい響き、表現力に富む力強い歌声、異なる個性の3人が繰り出す豊かな動きのボキャブラリーが一体となって立ち上げるダンスは、彼らの次世代が生んだ〈ノン・ダンス〉(踊らないことで逆説的にダンスを表現するスタイル)とは対極にある根源的な踊る悦びを発散し、引き込まれずにはいられない。

 ピアフ“オートバイの男”からフェレ“時の流れに”を繋いで男女の愛の葛藤と終焉を綴るドラマティックなデュオ、ボビ・ラポワント“ボボ・レオン”やゲンスブール“馬鹿者のためのレクイエム”でのコミカルな味、フェレ“彼はスケートが上手い”でのバロック・ダンスを取り入れた振付など、緩やかに物語を紡ぐような選曲の流れに、多彩なダンスが繰り広げられる。そして最後を締め括るのは、人間性を失った社会の悲惨を告発するフェレ“もう何もない”。今日の状況とも響き合う約15分の黙示録的な楽曲にのせ、無言劇のごとく3人が美しい動きで語り続けるダンスの濃密さ、切実さは、とにかく圧倒的で必見だ。

 一見造作なく踊られるダンスの奥には、熟練の技と、自由に愛し、連帯する権利を抑圧する古い価値観に若者たちが反旗を翻した’68年の五月革命を10代で経験した3人が抱く、現代の社会状況に対する思いが静かに燃えている。コドモには真似のできない、軽やかさと深さを持つダンスをご堪能あれ。

 


INFORMATION
ボワヴァン/ウバン/ラリュー
「En Piste―アン・ピスト」

2015年11月6日(金)19:00開演 
2015年11月7日(土)15:00開演
会場:彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
構成・振付・出演:
ドミニク・ボワヴァン/パスカル・ウバン/ダニエル・ラリュー
音楽:バルバラ/レオ・フェレ/セルジュ・ゲンスブール/ジャック・ブレル/エディット・ピアフ 他
https://www.saf.or.jp/