宝塚歌劇団OGによる越路吹雪トリビュート・アルバム

 本誌の読者のなかに、宝塚歌劇の舞台をご覧になったことがある方はどのぐらいいるだろうか。まったく興味がなかったのに、ある日突然ハマってしまう人が多いのもヅカの魔力。2014年に100周年を迎えた宝塚は、伝統を守りながらもアニメやアイドル、韓流スターに至るまで時代のトレンドを意欲的に取り込んでファンを増やし続けている。

 そんな宝塚100年の歴史に燦然と輝くスターのひとりが越路吹雪。1939年に初舞台を踏み、第二次世界大戦中から戦後にかけて男役のスターとして活躍した。51年に退団後はミュージカルなどに出演。パリでエディット・ピアフのコンサートを聴いて衝撃を受け、シャンソンに情熱を注いだ越路が、やがて「シャンソンの女王」と呼ばれる国民的歌手へとのぼりつめていったことは誰もが知るところである。

VARIOUS ARTISTS 越路吹雪に捧ぐ ユニバーサルミュージック(2016)

 56歳の若さで世を去った越路であるが、三十七回忌にあたる2016年の終わりに、宝塚歌劇のOGによるトリビュート・アルバムがリリースされた。《愛の讃歌》《サン・トワ・マミー》《ラストダンスは私に》といった越路の代表曲や幻の名曲をCD2枚組にたっぷり収録、歌っているのは歴代の男役トップスターたち。剣幸杜けあき涼風真世稔幸一路真輝などなど……

 まさに綺羅星のような顔ぶれ。退団後は女優や歌手として宝塚時代とは違う魅力を放っている彼女たちも、このレコーディングではトップスターだった時代に戻って、めいっぱい楽しみながら歌っている様子が伝わってくる。

 なかでも印象的だったのが、真琴つばさのドラマティックな語りが入る《人生は過ぎゆく》と《ジジ・ラモローゾ》。2016年に退団したばかりの龍真咲が歌う、昭和のラテン歌謡風にアレンジされた《愛の讃歌》も新鮮だ。ときに女の情念に満ちた濃厚なシャンソンも、彼女たちの手にかかれば美しい物語となる。豪華な羽根飾りを背負ったスターたちが次々と現れ、きらめく大階段を下りながら歌うレビューのようなひとときを、ファンのみならず多くの方々に味わっていただきたい。