アレックス・ターナーとマイルズ・ケインの仲良しプロジェクトが、肩組みしながら戻って来たよ! 好きな音楽についてペチャクチャ話すノリで、70年代風の音を鳴らしてみたら、予想以上の傑作が完成しちゃった!!

 今年1月、新曲“Bad Habits”の発表と同時に、ラスト・シャドウ・パペッツ(以下:TLSP) のセカンド・アルバム『Everything You've Come To Expect』がリリースされると報じられた瞬間、熱心なファンなら〈やっときたか!〉と溜飲を下げたに違いない。というのも、復活の噂が年々大きくなる 一方で、それを待ち続ける人たちの思いが作り出した都市伝説なんじゃないか、なんてネタまで出回りはじめたのだから……。

THE LAST SHADOW PUPPETS Everything You've Come To Expect Domino/HOSTESS(2016)

 

無理に急ぎたくなかった

 TLSPはアークティック・モンキーズアレックス・ターナー(ヴォーカル/ギター)と、当時ラスカルズを率いていたマイルズ・ケイン(ヴォーカル/ギター)を中心とする、2007年に結成されたスーパー・グループ。それぞれの本隊とは一線を画した音楽性――スコット・ウォーカーや初期のデヴィッド・ボウイにも例えられる60~70年代っぽいロマンティックなポップ・サウンド――が高く評価され、ファースト・アルバム『The Age Of The Understatement』で全英チャート1位を獲得したのは2008年のことだ。

 それから次の作品まで8年も空いてしまった理由は、各々が忙しかったのに加えて、アレックスもマイルズもシーンの喧騒から離れ、純粋に自分たちが演りたい音楽を追求できるプロジェクトとして、TLSPを大事に残しておきたかったからだとか。

 「最初のレコードも自然に出来上がったし、そのピュアなプロセスを大切にしたかった。前作を出して以降もたまにお互いの曲作りを手伝ったり、ステージで共演したりすることもあったけど、無理に急ぎたくはなかったんだよ。次回作を作る時も、『The Age Of The Understatement』と同じテンションで臨みたいと思っていた。8年もの期間が空いたのは、TLSPとしての創作意欲が沸いてくるまで待っていた結果かな。確か2~3年前の正月だったよ。アレックスとロンドンで過ごしたんだ。ソファーでくつろいでいる時に彼がアコースティック・ギターを手に取り、自然と曲作りが始まった。最初はバッキング・トラックみたいなものが出来て、そこにアレックスと俺でハーモニーを乗せたんだよ。それが凄くTLSPっぽく聴こえてさ。で、〈また始めよう!〉って話になったんだ。お互いロンドンにいたり、LAにいたりしたから集中して曲作りはできなかったけど、会うたびに作業するようになった。それが去年の夏くらいまで続いて、そこからアルバムを作るためにベストだと思える楽曲をピックアップしていったんだよ」(マイルズ・ケイン、発言:以下同)。

 

未踏の領域に突入したよ

 バンドの構成員は、オリジナル・メンバーであるジェイムズ・フォード(ドラムス/パーカッション/プロデュース)と、昨年に加入したザック・ドーズ(ベース)を合わせた4名。そして、引き続きストリングス・アレンジャーとしてオーウェン・パレットに助けを借りながら、彼らは『Everything You've Come To Expect』を完成させた。前作のエレガントな風合いを受け継ぎつつ、それに留まらないサウンドの広がりがこのアルバムのキモ。TLSPがコンセプトありきの単発プロジェクトではなく、閃きの赴くまま、アレックスとマイルズがもっと自由に音楽を追求できるユニットへと発展したことが、収録曲から窺えよう。

 「前作は確かにスコット・ウォーカーとかデヴィッド・アクセルロッドっぽかった。でも、新作は何か明確な音楽に影響されていると言うよりも、グンと音の要素が幅広くなった作品だと思う。これまでに自分たちが足を踏み入れたことのない領域へ突入してみた、という感覚かな」。

 マイルズのシャウトが切迫したムードを煽る“Bad Habits”、「他の曲に比べても凄くユニークだろ!?」と本人も満足げなゴシック調のタイトル・トラックに加え、“Dracula Teeth”など随所に登場する70年代のソウル・ミュージックっぽいアプローチも聴きどころだ。

 「コラボレーションを楽しみ、自分たちのフィーリングをそのまま表現したら、こうなった。アレックスとガッチリ曲作りを行うことが鍵なんだ。それによって、他のプロジェクトとは違うエナジーが生まれるからね。彼がガールフレンドに関して歌っているナンバーもたくさんあるよ」。

 秘密裏にレコーディングを進めてきた『Everything You've Come To Expect』について、昨年10月にオーウェン・パレットが思わず〈傑作!〉とツイートしてしまったことも(すぐに削除されたけど)、当事者たちがアルバムの仕上がりに興奮している証拠か。そんな本作は、8年前とはまた別種の大きな感動を我々にもたらしてくれる、特別な贈り物となった。それだけでも十分なのに、何とリリースから2週間後には初の日本公演が決定! オーウェン・パレットも一緒に来日するそうなので、ライヴも大いに期待できそうだ。