歌を採り入れて心機一転! トロント出身のダンス・パンク・バンドが、祝祭感を振り撒きながら、ポップな側面を打ち出してきた!?
カナダ出身の4人組、ホーリー・ファックがニュー・アルバム『Congrats』をリリースした。本作を聴いてまず驚いたのは、さまざまな要素が交雑していること。パンク、クラウトロック、テクノ、ハウス、ノイズといった音楽の断片を攪拌させ、カオティックな世界を築き上げているのだ。
「『Congrats』でもっとも気に入っているところは、サウンドの幅広さだ。凄く新鮮でもあり、エモーショナルでもある。それから、俺たちが上手く映し出されていることも見逃せない。俺たちがどんな人間なのか、他の人に伝えるのは難しいけど、『Congrats』ではそれを上手く表現できていると思う」(ブライアン・ボーチャード、キーボード)。
また、これまで安価な機材で音源を制作してきた彼らだが、今回はついに本格的なスタジオでレコーディングを敢行。そのおかげか、以前と比べて洗練された印象を受ける。
「ちゃんとしたスタジオに入ったのは、良いサウンドを作りたかったから。制作に集中したかったし、そっちのほうが楽しめると思った」(グラハム・ウォルシュ、キーボード)。
「バンド以外の人々の協力を得て、そこからさらに上のサウンドをめざしたいというのも、スタジオで録音した理由だね」(ブライアン)。
収録曲のなかで特に耳を惹かれたのは、ゴリゴリとしたドライな質感が際立つ“Chimes Broken”だ。昨年にファースト・アルバム『Holding Hands With Jamie』を発表したガール・バンドのささくれ立ったパンキッシュなサウンド、あるいはそのガール・バンドがカヴァーしたブラワンあたりのインダストリアル・テクノを想起させる一曲に仕上がっていて、なかなかおもしろい。こうしたインダストリアルな側面からは、グラハムがコラボしたカナダ産のグループ(メッツやヴェト・コンなど)の影響も感じ取れる。
「他のプロジェクトに参加することで、創造力が養われると思う。新しいことを学ぶから知識も増えるし、新鮮な気持ちを保つことにも繋がるんだ。そういう意味では影響を受けていると思うよ」(グラハム)。
「実は、アドヴァイスが欲しくてメッツのアレックスに俺たちの曲を聴いてもらったんだ。制作中に自分たちの作品を何度も聴いていると、どうしたらいいのかわからなくなる時があってさ。だから、第三者の意見が必要なこともあるんだ。聴かせたら〈クールだと思う〉と言ってくれて良かったよ」(ブライアン)。
インスト・バンドとして名を馳せる彼らが歌を前面に出してきた点も、触れなければならない重要なトピックだろう。“Xed Eyes”などを聴くと、ホーリー・ファックのなかにもポップソング志向が芽生えたのか?と思えなくもない。
「でも、俺たちの音楽は歌がメインではない。ヴォーカルが前に出ている曲があるとすれば、それは自然に起こったことなんだ。歌があればリスナーと曲はより繋がりやすくなると思うけど、自分たちの音楽は言葉よりもフィーリングであり、楽器の演奏が大事なんだよ」(グラハム)。
「歌詞の内容はあまり重要じゃない。俺たちでさえ意味をわかっていない部分もある。ホーリー・ファックにとって歌はヴァイブを生み出すための手段と表現したらいいのかな。一種のセラピーみたいなもので、ストーリーを語るのではなく、感情を吐き出しているという感覚だ」(ブライアン)。
これはこれでアリだと思う。言葉で表せないことを表現できるのも、音楽の魅力なのだから。