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ジェイムズ・ブレイクやトラップも意識した『Greek Fire』の革新的サウンド

――アルバムの話に移りましょうか。BIGYUKIとして、いまどんなサウンドを作ろうと考えていますか? 

「〈グチャグチャだけど、女の子といるときにもかけられる音楽〉かな。マティスヤフのライヴが終わると、いいサウンドシステムがあるでっかいツアー・バスに乗ってみんなで呑むんだけど、そこでいつも流れているのがデス・グリップス。あんな昂揚感のある音楽をやりたいですね。ハーモニーがどうとかじゃなくて、肉体的に影響を与えるような音楽というか」

※メジャー・レイザーとも共演するなどクロスオーヴァーな音楽性を持つユダヤ系レゲエ・シンガー

BIGYUKIが参加したマティスヤフのライヴ映像。2分過ぎ~のキーボード・ソロが圧巻
デス・グリップスの2016年作『Bottomless Pit』収録曲“Giving Bad People Good Ideas”
 

――今回リリースされる『Greek Fire』は、これまで書き貯めていた曲を改めて録音した感じなんですよね?

「そうですね。かなり前に書いた曲もアレンジし直して収録しています。特に新しいアイデアが入っているのは、ビラルが参加した“John Connor”と、クリス・ターナーが歌っている“Revolution US”の2曲ですね」

――“John Connor”はどのあたりに新しいアイデアが反映されているんですか。

「曲を書くときにピアノの前に座っていると、メランコリックな気分になっちゃうんですよ。俺はレディオヘッドも好きで、ああいうダークな感じになっちゃうんですけど。それで、(シンセの)ノード・リードをピアノの上に置いて、切ない系のフレーズを弾いてみたら〈ハマるじゃん〉と思って。とりあえず、それだけ録音してからバンドを呼んだんですよ」

――この曲はリズムが格好良いですよね。

「〈ここはハーモニーがドロップアウトして、ベースとドラムだけになるから、ハットをいっぱい入れてくれ〉とバンドにリクエストしたんですよ。この曲を作っていた頃はトラップをすごく聴いていて、RLグライムディプロが手掛けた昔のリミックス曲、フロストラダムスエイラブミュージックとか、そのへんから影響を受けているんですよ。ああいうぶっといベースの音を何回も繰り返し弾いていたら、5拍子のオッドミーターでも、トランスしていくんじゃないかなって」

RLグライムの2014年作『Void』収録曲“Core”
 

――トラップを生演奏するという発想は、少なくともジャズの世界では他にないですよね。

「でも、フュージョンみたいにはしたくなかったから、そこで何かできるのはビラルじゃないかなと思ったんですよ。それでビラルを呼んで、〈ターミネーターのロボットと戦うシーンみたいなイメージ〉と伝えたら、〈Since the beginning of time.〉というフレーズを用意してくれて、超カッコ良くなりましたね。あと、最初のインスピレーションになったのは、ジェイムズ・ブレイクがリミックスしたドレイクの“Come Thru”かな。ジェイムズ・ブレイクはマジで天才ですよね。ダークで静かだけど、インテンスな(激しい)感じ。緻密だし、クレヴァーで超若いし、彼が登場した時は本当に衝撃的だったな」

――“Revolution US”はどうでしょう?

「インスピレーションになったのはメシアンの曲ですね。ピアノで同じコードを弾きながら、ゆっくり展開が変わっていく辛抱強い感じ。最初はピアノでメロディーを書いたんですけど、静かに始まって、どこかでドロップして大転換が欲しいなと思ったんです。そのビートがドロップするところをアリーナ・ロックみたいにしたいなと。例えばミュートマスみたいな」 

――メシアンからミュートマスって振れ幅がすごい(笑)。サプライズというか、アクセントになるようなものが必ず欲しいんですね。

「俺が弾くことで音楽がエレヴェート(向上)されるのが重要だと思っていますから。テクノやビート・ミュージックみたいにレイヤーを差し引きする場合には、長い尺でのビルドに繋がる方向性も考えたりするんだけど、そこで普通にコードを弾いたらつまんないなとか、いろいろ考えながらやっています」

“Revolution Us”のライヴ映像
 

――この曲には、ジャズ・ハーモニカの奇才として知られるグレゴア・マレも参加していますよね。これはどういう経緯で実現したんですか?

「2012年に、グラスパーから〈ハーレム・ステージ〉というイヴェントに誘われたんですよ。年に一度開催されていて、去年はベン・ウィリアムスがプリンス・トリビュートを主催していたんですけど、グラスパーの時はスティーヴィー・ワンダーでした。それでグラスパーが声をかけてくれて、マイク・モレーノみたいな濃い連中と一緒に演奏したんですけど、その時にゲストで出演していたグレゴアが、ブッ飛ばしていて超カッコ良かったんですよね」

 

#tbt Dec 2012 @therealrobertglasper Songs in the Key of Life at Harlem Stage. by @forever12

さん(@bigyuki)が投稿した写真 -

2012年の〈ハーレム・ステージ〉開催時の光景。グラスパーやレイラ・ハサウェイクエストラヴグレッチェン・パーラトなどの姿も

 

――そうだったんですね。

「それで、自分のレコーディングでもソロを吹いてもらいたくて連絡したら、グレゴアが俺のライヴを観にきてくれたんですよ。その時はキャパ200人のロックウッド・ミュージック・ホールで演奏したんですけど、とにかくハマりまくって最高だった。それでグレゴアも気に入って、自分のライヴに俺を誘ってくれたんです。そこではクリス・ポッターがサックスで、ピアノはケヴィン・ヘイズで。〈こういうギグは、お前にとって絶対にプラスになるから〉とグレゴアが言ってましたけど、この組み合わせはヤバイですよね(笑)」

BIGYUKIがロックウッド・ミュージック・ホールで行ったライヴ映像
BIGYUKI、グレゴア・マレ、クリス・ポッター、ケヴィン・ヘインズ、ジョン・デイヴィス(ドラムス)によるライヴ映像
 

――演奏の部分だけじゃなくて、ミックスや音圧にもすごくこだわってますよね?

「いまはリスナーも、太い音圧に耳が馴れてますからね。そこは意識しています。スクリレックスジャスティン・ビーバーが一緒にやっている曲(ジャックU“Where Are U Now”)とかが、ポップの基準であたりまえになってるから。トラップやフットワークも普通になっているし、音圧(の平均)が細くなったりはしないでしょう。これからは初めからそういう音をめざして、それを生でキャプチャーしたいですね。ライヴで再現するかどうかはわからないけど」

――ビヨンセの“Formation”やリアーナの『Anti』もトラップっぽい感じだし、メジャーのど真ん中がああいう音ですもんね。

「でも、ポップスがアダプトしているということは、それはもう古いってことなのかもしれない。その先をやりたいですよね。Q・ティップのエンジニアを務めているブレア・ウェルズ(Blair Wells)と最近仲良くなったのもあるし、スタジオでしかできないことをもっとやれたらと思ってます」

――他にこれからやりたいアイデアはあります?

「次はダブに挑戦しようかな。ディレイが好きなんすよ。マーク・ジュリアナもレゲエが好きだし、アイツの作るレゲエは格好良いからレコーディングしてみたい。あとはマーカス・ストリックランドと一緒にトワイ・ライフ(Twi-Life)というバンドもやってます。マーカスの新作『Nihil Novi』でも俺がガンガン弾いてますよ」

BIGYUKIが参加したマーカス・ストリックランドのライヴ映像
 

――『Nihil Novi』はすごいアルバムでした。ミシェル・ンデゲオチェロがプロデューサーなんですよね。

「そうそう。ドラムを叩いているのはチャールズ・ヘインズで、ジェイソン・モランの『All Rise: A Joyful Elegy For Fats Waller』(2014年)にも参加していましたよね。最近はジャズ関連のアーティストが作る音は似通ってしまいがちだけど、ジェイソンのあの作品は全然違う方向から作られていたのが素晴らしかった。マーカスの『Nihil Novi』も、そういう意味で他とは違う変なサウンドですよね。どちらのアルバムでも、ミシェルが最終的に音をかなり抜いているところがまた新鮮で」

――最後に、最近おもしろいと思うミュージシャンを教えてもらえますか?

DJプレミアのライヴ・バンド、バッダーでドラムを叩いでるレニー・リースは、ビート・ミュージック系ドラマーのなかでも抜きん出ていますね。俺とデュオ・プロジェクトで一緒にやったりもしています。あとはこの前、Boiler Roomで対バンになったジャスティン・ブラウンのバンドが良かったな。マーク・シムというewi(エレクトリック・サックス)を吹いていたヤツがヤバかったです」

レニー・リースが参加したDJプレミア&ザ・バッダーの2015年のシングル“Bpatter”

 

BIGYUKI
2016年11月20日(日) ブルーノート東京
開場/開演:
・1stショウ:16:00/17:00
・2ndショウ:19:00/20:00
料金:自由席/6,500円
※指定席の料金は下記リンク先を参照
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