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優しくない音に向かっていった

――前作の2か月後にリリースされたTHE FULL TEENZとのスプリット・7インチ『Split』に収録された“On This Avenue”を含め、新作からの楽曲もライヴでたびたび披露していましたね。そこで新しい楽曲の手応えはありましたか?

加藤「僕はあったな。もともと僕はモッシュやダイヴが起こるバンドが好きなんですけど、1年間ライヴをしていて、だんだん自分たちはそうじゃないことに気付いていったんです。UNITやWWWみたいなちょっと大きいところでライヴをしたときは、モッシュはあまり起こらなかったんですよね。だからといって観ていた人が悪いと思っているわけじゃない、とわかるのに僕はすごく時間がかかっちゃって。でも自分に立ち返ってみたら、すごいバンドを観ているときに立ち尽くしちゃうことはある。さらにNOT WONKは、そういうタイプのバンドなんだということがわかってきた。最近は、お客さんを煽ったりするんじゃなくて、いかにこの3人の音をダイレクトにぶつけるか、というところに重きを置いて演奏している」

2016年のシングル『Going Back To Our Ordinary』のトレイラー映像

――スプリットに収録された“On This Avenue”はハードコアな楽曲でしたが、あの時点でもう今作のモードに切り替わってたのでしょうか?

加藤「そんな気はしますね。例えばファーストの“Bunco”にはちょっと荒々しさがあると思うんですけど、あれは前作でいちばん最後に出来た曲なんですよ。その頃からだんだんバンドのなかでポップさが減っていった。前作のレコーディングが終わった直後から“On This Avenue”に取り掛かったんですけど、あの曲に関してはすごく迷ったんです。そして、どうしようかと思っていろいろと試していくなかで、なんとなく次のアルバムに繋がるムードが生まれていった。ファースト・アルバムが自分のなかでは優しすぎた印象があったので、その反動で優しくないものに向かっていったのかもしれない」

フジ「ファーストの曲はすごくポップだったので、ベースのフレーズも明るく聴こえるように弾いたんですけど、セカンドの曲はもうルートだけ弾いていれば良いんじゃないかと思うくらいポップさがない。ただ、前作を録った頃も、リハスタではすごく歪んだ音を鳴らしていたんですけどね」

2015年作『Laughing Nerds & A Wallflower』収録曲“Laughing Nerds And A Wallflower”

加藤「前作はレコーディング自体が初めての経験だったし、どういった音になるのかまったく予想がつかなかったんです」

フジ「でもセカンドはいつも出している音で録れた。僕的には、曲は変化したけどバンドとしてはそんなに変わった気はしないんですよね」

加藤「そのまんま録れたという感じ」

フジ「前は3人の音が混ざってない感じもあったんだけど、今回は3人で出している音がそのまま入っている」

加藤「そうだね。今作は一発録りなんですけど、その影響が出ていると思う」

――僕としては、今回のアルバムがポップじゃないとは思わないんですが、皆さんの言うポップなものを排除していく過程で、不安や迷いが生じた瞬間はなかったんですか?

加藤「なかったわけじゃ……これはフレーズとしてどうなんだろう? ハード・ロックみたいじゃない?とかはあったかな。この間レッド・ツェッペリンの“Immigrant Song”が流れていて、“Worthwhile”のイントロの演奏とすごく似ているなと思ったんです。昔だとそれは嫌だったかもしれないけど、いまはそれも良いなと思えるようになってきた」

――ファーストに比べるとメロディック・パンク的な要素は減って、ハードコアやオルタナに寄った作品ではあると思います。制作するにあたって参照点にしたようなバンドや作品はあったんですか?

加藤「今回もなかったんですよね。こういうバンドの音像にしたいというのはあるんですけど、それは普通に奇を衒ってない良い音なんですよ。僕がいちばん好きな音像はbloodthirsty butchersの『youth(青春)』(2013年)で、あそこで鳴っている音が世界一だと思う。生っぽいと言ったら陳腐なんですけど、目の前で演奏しているかのような音が鳴っていて。でも、僕らがあれをめざしてもハマらないと思う。人のバンドの音を自分に落とし込もうとして、そのままやっても上手くいくはずがない」

bloodthirsty butchersの2013年作『youth(青春)』収録曲“デストロイヤー”

アキム「劣化版コピーになっちゃうよね」

加藤「今回は一発録りだったから、スネアの音量を上げたら一緒にギターも上がっちゃたり、もう被りがひどくて、アンプの横にもいろんなマイクが立っていたし、すごく変な音になっていると思うんです。あんまり聴いたことのないようなサウンドで、そこがすごく気に入っている」

――今作に生々しさは強く出てるように思います。ノイズの刺々しさや重たい低音には、クラウド・ナッシングスの『Attack On Memory』(2012年)や『Here And Nowhere Else』(2014年)に近い気がしました。

加藤「うんうん。要は全体的に歪んでいるんですよね、すべての音が歪んでいるような気さえしていて(笑)。それこそクラウド・ナッシングスの2作に近い気がします。ギターも無駄に重ねたりしてなくて、実はずっと1本なんですよね。曲に余裕が生まれているけど、ちゃっちくはなってないと思う。その感じは、ごくクラウド・ナッシングスっぽい。意識はしてなかったけど、好きだからそういう結果になったんじゃないかな」

クラウド・ナッシングスの2012年作『Attack On Memory』収録曲“Stay Useless”
クラウド・ナッシングスの2014年作『Here And Nowhere Else』収録曲“Psychic Trauma”

――ほかにも結果的に似た音になったと思える作品はありますか?

加藤「実は9曲目の“Golden Age”は、レディオヘッドの“High & Dry”みたいにしたいという話だけはしていて」

――今年に入ってから、加藤さんのTwitterでちょくちょく“High & Dry”の名前があがってましたよね(笑)

加藤「レディオヘッドを聴き始めたのが本当に最近で、ずっと聴かず嫌いだったんです。いまも『The Bends』(95年)しか聴かないんですけど、“High & Dry”はすごく音がおもしろいですよね。キックの音なんて大太鼓みたいで、広い部屋で録っているような音がすごく良くて。そういう音にしたいなと思ったんです。まあ結果的にあんまり近くなってないですけど」

レディオヘッドの95年作『The Bends』収録曲“High & Dry”