愛を歌い続けてきたCharaは自身のラヴソングをどう見る?
今年9月にデビュー満34周年を迎えたCharaが、〈恋〉や〈愛〉にまつわる30曲をみずから選曲し、2枚組のCDにコンパイルしたベスト盤『The Love Songs of Chara “Lush Life”』をリリースする。〈Lush Life〉とは、〈豊かな人生〉や〈瑞々しい人生〉、スラングで〈飲んだくれの人生〉など、さまざまな日本語に訳せるフレーズだが、このタイトルを掲げる発端になったのは、妹の夫であるアメリカ人男性との会話だという。
「彼と音楽や詩、アートのことを話しているなかで、〈Lush Life〉という言葉が出たんだけど、人によって捉え方が違うらしいんだよね。例えば、〈雨上がりの朝の静まり返った街の風景〉という人もいて。いろいろあるんだけど、彼の学者の友達が言った〈僕にとってのLush Lifeは、忘れられないほど美しく、悲しい〉と詩的な解釈をしていて、すごく素敵だったの。それにグッときて、そこから集めてきた感じがあるかな」。
各15曲ずつ収録された2枚のCDには、タイトル曲となった、まさに〈忘れられないほど美しく、悲しい〉ロック・バラード“Lush Life”と“僕は残像”という2つの新曲がそれぞれ収録されている。
「30曲を選ぶのは大変だったんだけど、この2曲が道標になってくれて。“Lush Life”は仲良しのSeihoに家に来てもらってセッションしながら作ったのね。彼はダンス・ミュージックのイメージがあるけど、クラシックな雰囲気も得意だし、サンプリングやコラージュを使う際にはアカデミックな面も出せる。ギターは名越(由貴夫)くんの自宅で録ったんだけど、そこがいちばんエモいかな。“僕は残像”はベース・フレーズで作っちゃったから、ベーシストでサウンド・プロデュースもできるBREIMENの高木祥太にお願いして。歌詞は遠い昔のリアルな体験が元になってるんだけど、最近、恋に悩んでる女性が〈離脱する〉って言葉を使ってるのを聞いて衝撃を受けて。〈離脱〉という言葉を使いたいなという現在の思いが、自分の過去の失恋とくっついたのがおもしろかったね」。
今秋のライヴでCharaバンドのベースを務めた高木は本作のオープニングを飾る“Junior Sweet”(97年)が大好きなのだという。Charaの娘であるSUMIRE、息子のHIMIが共通して好きな曲と挙げている“ミルク”“タイムマシーン”(共に97年)“Duca”(98年)や、HIMIとライヴで共演したこともある初期曲“Break These Chain”(91年)、菊地成孔がサックスを吹いた“Violet Blue”(93年)などを収録しているが、選曲には近年のミュージシャンとの交流も少なからず影響したようだ。
「祥太は自分で〈僕はジュニア・スイーターです〉と言ってくれてて。『Junior Sweet』に入っていた“やさしい気持ち”(97年)や“Swallowtail Butterfly〜あいのうた〜”(96年)は、いずれもChara節だし、いまも歌い続けてる曲。あと、“スーパーセンチメンタル”(2015年)はアイナ(・ジ・エンド)が〈Charaの曲でいちばん好き〉って言ってたから、選んでみた。他にも、去年の高崎音楽祭でmabanuaと一緒に演奏したときに、何やりたい?って訊いたら、岡村靖幸さん作曲の“レモンキャンディ”(2001年)と言ったので、それも入れた。そのmamabuaがサウンド・プロュースした“Stars☆☆☆”(2017年)とか、ファンクラブ限定でリリースしたインディーズ・アルバム『something blue』に入ってた“Love me”(2005年)とか、なんか悲しいけど、美しい物語の曲がたくさんある。埋もれてたけど、いい曲だよねっていう曲を入れることができて良かった。いまもライヴで大切に歌ってる曲に加えて、この数年で、改めて認めた過去の自分みたいなものもミックスしてる。普段は選ばないようなベストになったかな」。
91年のデビュー以来、一貫して〈愛〉の痛みや切なさ、甘さや優しさを綴ってきたChara。前述の“スーパーセンチメンタル”では〈見返りを求めないのが愛だってさ〉と歌っている彼女に、最後に〈愛とはなんですか?〉とぶつけてみた。
「なんだろうね。生きていると付いてくるもので、すべてだと言ってもいいけど、この年代になると意外と人生は短いものだと思うようになって。私は植物が好きで日常的に向き合ってるから思うけど、植物の咲いては枯れて、また再生したりする様は人間に似てるなって思う。幹を太くするために、いらない葉っぱを剪定しなきゃいけないことも。だから、いまの答えとしては、〈愛は儚いもの〉なのかな。儚いから尊いし、そこには瞬間の煌めきがあり、花のように一生懸命に咲こうとするんじゃないかなと思う」。 *永堀アツオ
左から、Seihoの2016年作『Collapse』(Leaving)、BREIMENの2025年のシングル“Rolling Stone”(ARIORA JAPAN)
