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【〈越境〉するプレイヤーたち】第3回(前編):挾間美帆 ジャズ・オーケストラの最先端を切り拓く作曲家に柳樂光隆が迫るロング・インタヴュー

photo by SHITOMICHI (vale.)

 

新時代のジャズ・ガイド〈Jazz The New Chapter(以下JTNC)〉で旋風を巻き起こした気鋭の音楽評論家・柳樂光隆が、人種/国籍/ジャンルなどの垣根を越境し、新たな現在進行形の音楽をクリエイトしようとしているミュージシャンに迫るインタヴュー連載「〈越境〉するプレイヤーたち」。登場するのは、柳樂氏が日本人を中心に独自にセレクト/取材する〈いまもっとも気になる音楽家〉たち。第3回は、NYで活躍する新進気鋭のジャズ作曲家、挾間美帆が登場。この前編では、ジャズ・オーケストラの可能性を刷新する注目すべき新作『Time River』を発表した才媛のキャリアとバックグラウンドに迫った。(Mikiki編集部)
 



ロバート・グラスパーの活躍ぶりにも匹敵しそうな革新が、ジャズ・ビッグバンドの世界で起こっているのはご存知だろうか? ロックならレディオヘッド、ブラック・ミュージックでいえばディアンジァロにも匹敵する激変をもたらした作/編曲家のマリア・シュナイダーに端を発するこの流れは、オールドスクールなイメージの強かったビッグバンドを最先端の音響装置として生まれ変わらせ、ジャズにおけるアンサンブルの可能性をも進化/拡張させてしまったといっても過言ではない。

そんなシーンの最先端に身を投じているのが挟間美帆だ。国立音楽大学で作曲を専攻し、クラシックからジャズへと転向しながら在学中より幅広く音楽活動に身を投じていた彼女は、2010年にNYへ渡りマンハッタン音楽院大学院に留学。卒業後は〈ジャズ作曲家〉を名乗り、2012年に最初のアルバム『Journey to Journey』を発表し、マリアが切り拓いたジャズ・アンサンブルの可能性を追い求めてNYで活動を続けている。2015年にはNHKドラマ「ランチのアッコちゃん」の音楽も手掛けた一方、最新作『Time River』では挑戦的な音楽性をさらにアップデート。大胆かつ軽やかにクロスオーヴァーしながら新たなサウンドを模索する彼女に、これまでのキャリアや独自の音楽観、そして新作の話に至るまでたっぷりと語ってもらった。ちなみに先日刊行した〈JTNC3〉ではラージ・アンサンブルの現在進行形を紹介する特集を組んでおり、そこでも当事者である彼女にシーンのリアルな現状について語っていただいたので、併せてご覧になっていただければ幸いだ。

★後編はこちら 
★〈挾間美帆 m_unit ニュー・アルバム 『タイム・リヴァー』 発売記念ライヴ〉
10月15日(木)開催、詳細はこちら
 

★連載【〈越境〉するプレイヤー達】の記事一覧はこちら
★〈Jazz The New Chapter 3〉紹介記事はこちら 

挾間美帆 Time River Verve/ユニバーサル(2015)

【参考動画】『Time River』収録曲“The Urban Legend”

 


 

DE DE MOUSEや坂本龍一、エヴァンゲリオンから
メトロポール・オーケストラまで多岐に渡る活動経歴
 

――DE DE MOUSEさんのライヴ・サポートもされてたんですよね?

「大学生の時ですね。〈フジロック〉に出てる時の動画がYouTubeにあって。うしろで飛び跳ねてるのが私(笑)」

――きっかけは?

「DE DE MOUSEさんが(譜面がなくても)いますぐ音が取れて、曲を全部暗記して演奏できるキーボードを探しているという話が彼のレーベル経由で来たんです。それで一回スタジオに入って、なぜかそのまま一緒にやることになって。それまで(DE DE MOUSEの曲を)一回も聴いたことがなかったし、当時勉強していたクラシックの作曲セオリーとは違うことがいっぱいありすぎて、初めて聴いたときは〈なんじゃこりゃ!?〉という感じだったんですけど(笑)。味があってクセになるもので、しばらくすると〈楽しい!〉に変わってきて。結局2年くらいやったんじゃないかな。ラッキーなことに〈フジロック〉や〈朝霧JAM〉、幕張の〈COUNTDOWN JAPAN〉にも出させてもらいました。留学することになって辞めちゃったんですけど。去年も渋谷でライヴを観たし、いまも仲良しです」

【参考動画】DE DE MOUSEの〈フジロック'09〉のパフォーマンス動画

 

――僕が挾間さんを最初に聴いたのは、“タルカス”の編曲版でした。

「そうだったんですか! それはたぶん、佐渡裕さん繋がりで来た仕事だと思います。吉松隆さんが、“タルカス”を管弦楽のオーケストラ用に書きなおしてくださっていたんですよ。吉松さんはオーケストラ以外の譜面を書かないっておっしゃっていて、それで私のところに話が来ました。もともとあったオーケストラの譜面を、吹奏楽向けにアレンジしたんですね」


【参考音源】佐渡裕&シエナ・ウインド・オーケストラの2012年作『タルカス』収録曲“タルカス”
原曲はプログレッシヴ・ロックを代表するエマーソン・レイク&パーマーの71年作
佐渡裕はテレビ番組「題名のない音楽会」でも司会を務めた日本を代表する指揮者
吉松隆はNHK大河ドラマ「平清盛」の音楽も担当したクラシック作曲家で、“タルカス”も劇中で使用された
 


――坂本龍一さんともコンサートでお仕事されてますよね。

「坂本さんのお話は、2013年の5月に坂本さんご自身が何年かぶりにオーケストラと一緒にツアーをするという企画があって(〈Playing the orchestra 2013〉、のちにライヴCDもリリースされた)。それが東フィル(東京フィルハーモニー交響楽団)と一緒だったんですけど、そのときに、坂本さんがよく一緒に組む写譜チームの方も私の名前を出してくださったみたいなんです」

――アニメのお仕事もいろいろと。

「アニメは鷺巣詩郎さんのチームでオーケストラをやってますね。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』のシリーズを2011年くらいから。鷺巣さんがもともと大のジャズ・ファンなんですよ。クレア・フィッシャーマイケル・ブレッカーのCDが送られてきて、〈これみたいに書いて!〉と要望が来たので、彼らやジェレミー・ルボックとか、超アヴァンギャルドと言われる書き手のストリングス・アレンジを全部勉強して取り組みました(笑)」

――さすが(笑)。

「勉強になりましたし、すごく楽しかったです。2013年に『SHIRO'S SONGBOOK 'Xpressions'』というアルバムのために、ワルシャワでオーケストラと一緒にやったんですけど、ホルンが6人で管楽器が3人みたいな超どデカいオーケストラなんですよ。もうね、やることが普通じゃないです。ちなみに、ほとんどのプロジェクトは、公開されるまでなんの仕事をしてるのか教えてもらえなかったんですよ。どういう作品のためにアレンジを書いてるのか全然わからないんです。それで、劇場公開の1週間くらい前になって〈挟間さんの音楽はクライマックスで使われてるから観てくださいね〉と招待券が送られてきて、パッと見たら『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』って書いてあって。〈エヴァって、あの有名なやつ!?〉みたいな(笑)」

――そうだったんですか。挟間さんが〈エヴァ〉の曲にも関わっていたなんて知らなかったです。

「サウンドトラックのCDでは鷺巣さんのご好意で、私も含めたオーケストレーターの名前を出してもらってます。ちなみに、録音はアビー・ロード・スタジオでしたね。それと、ロンドンにあるAIRスタジオも使ってました。ヴィンス・メンドーサジョニ・ミッチェルの『Both Sides Now』を録ったところですね」

―そういえば、ヴィンス・メンドーサがお好きなんですよね?

「大好き! ジム・ベアードとヴィンス・メンドーサの『Revolutions』は名盤だと思います」

【参考音源】ジム・ベアード『Revolutions』収録曲“Holiday”
ヴィンス・メンドーサはパット・メセニーからビョークまで楽曲を提供し、
オーケストラやビッグバンドの音楽監督/指揮者も務めてきた作曲家

 

――ヴィンス・メンドーサとも縁が深い、メトロポール・オーケストラとも挟間さんは携わっていて。

「2011年の2月に、メトロポール・オーケストラがヴィンス・メンドーサと一緒に世界各国から7~8人のアレンジャーや作/編曲家を集めてワークショップを開いていて、そこに参加して以来いくつかのプロジェクトに参加させてもらっています」

――オランダのメトロポールといえば、最近だとスナーキー・パピー『Sylva』も話題になりましたが、どんなオーケストラなんですか?(参考記事はこちら

「世界で唯一のプロフェッショナルなジャズ管弦楽団なので、あそこまで弦楽器がリズム隊と上手につけられるセクションは他にないと思いますし、演奏は個性的というよりも器用ですね。私が(ワークショップに)行った2011年当時はラジオ局が運営していたので、予算もあったしメンバーもすごかった。それこそ、ヴィンス・メンドーサをLAからわざわざ呼び寄せてミュージック・ディレクターをやらせていたくらいですから。毎年のようにグラミーにもノミネートされていたし、ラージ・アンサンブルという音楽形態をどんどん新しくしていきましたね。HRビッグバンド(ドイツ・フランクフルトのHR=ヘッセン放送協会が運営するビッグバンド)とWDRビッグバンド(ケルンの西ドイツ放送が運営)、ブリュッセル・ジャズ・オーケストラ、ストックホルム、SDR(南ドイツ放送協会)あたりは、お金を懸けて新しいジャズ・ラージ・アンサンブルを創りだそうとしているように思いますね。残念ながら、どれもアメリカじゃないんですけど(笑)」

――ビッグバンドとかラージ・アンサンブルは運営にどうしてもお金がかかりますもんね。奏者もみんな一流揃いですし。

「そう、本当に大変。特にメトロポールは名物奏者が多いんですよね。以前いたトランペットの4番のルード・ブルース(Ruud Breuls)とか、ほかにもバート・ファン・リール(Bart Van Lier)も世界を代表するようなトロンボーン奏者だったりと、貴重な人がいっぱい。リズム隊もスターばっかりで」

――そんな人たちがいるメトロポールとの仕事は楽しいですか?

「楽しいですね! 演奏する曲も楽しいものが多いし、何でも器用にやってくれるのはわかっているので、チャレンジングなものというか、たとえばリズミックで弦楽器の人にとってはやりづらそうなアレンジを書いても全然平気。私のバンド(m_unit)の拡大版みたいな感じで書いても、まったく問題ないんですよね。だから、クラシックのオーケストラ用のとは全然違った書き方をしています」

【参考動画】メトロポール・オーケストラの2011年のパフォーマンス動画
指揮を務めるのはヴィンス・メンドーサ、挟間は〈The Godfather - The Immigrant〉(4分8秒あたり~)と
〈The Last Emperor - Main Title〉(1時間14分あたり~)のアレンジを担当
【参考動画】ロバート・グラスパー&レイラ・ハサウェイと
メトロポール・オーケストラの2014年のパフォーマンス動画
メトロポールは近年ではローラ・マヴーラやベースメント・ジャックス等とも共演している

 

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