すべては変わってしまった。目の前の風景も、恋愛模様も、仲間たちの姿も——辺境の地からメインストリームのそのまた中枢に入り込み、頂上のさらにその上へとみるみる駆け上がったドレイク。圧倒的な高みから無敵モードでゲームを更新しながら、待望のニュー・アルバム『Views』に至るまでその影響力は絶えることなく世界に降り注ぐ。すべてが変わってしまったいま、彼のモチヴェーションはどこにあって、その視界には何が映っているのだろう?
★Pt.1〈新作『Views』を機に振り返る足跡とその影響力〉はこちら
MAKE THINGS RIGHT
エクレクティックな感覚に溢れたトロントの豊かな音楽シーン
『Views』所収の“U With Me?”にディヴァイン・ブラウンのクレジットを見つけて、そこをそんなに取り出す必要はないけど、改めてドレイクがトロントという地元で制作を進めている様子も浮かんできた。彼女は2000年代半ばにカナダでヒットを飛ばした現地のR&Bシンガーだが(ドレイクの“Headlines”にも参加していた)、その際もレゲエに取り組んでいたりして、彼の地ではUSとはまた違う配合バランスでさまざまな音楽が入り交じっているのだろう。
それこそノア“40”シェビブやボーイ・ワンダらドレイクの腹心は最初のミックステープ『Room For Improvement』の頃から関わってきた同郷の仲間であり、そこに参加していたスラッカー・ザ・ビートチャイルド(スラッカデリックス)らも含めて、各々の音楽的バックグラウンドには重なる部分があるということだ。考えてみるとそのボーイ・ワンダはジャマイカ系だし、カナディアン・ヒップホップのヴェテランであるショクレアやカーディナル・オフィシャル、若きグライム・ラッパーのトレ・ミッションも同じくジャマイカの血を引いている。これまたヴェテランのケイオスはトリニダッド系。ソマリアから移ってきたケイナーンのような人もいる。もとより世界各地からの移民が多いカナダだが、なかでもトロントの文化的な行き交いを語る人は多い。いわゆるアーバン方面外でもエジプトリックスやバッドバッドノットグッドなどミクスチャーな感覚を個性とする人が多そうに思えるではないか。
これまでもウィークエンドやマジッド・ジョーダンをフックアップしてきたドレイクは、今後も世界を見据えながら地元の肥沃なシーンを活性化していくことだろう。 *狛犬