クールでスタイリッシュ、それでいて諧謔精神もたっぷりと。シンガーとラッパーの二枚看板を擁する8人のジャズマンが完成させた、ポップでドープな新作の中身は?

 

二枚看板のコントラスト

 ジャズへの愛情とヒップホップ・マナーを併せ持ち、爆発的なパフォーマンスとメンバー各自のユニークなキャラクターによって各界を賑わせてきた8人組、SANABAGUN.。彼らは昨年10月にアルバム『メジャー』で華々しくメジャー・デビューを飾ったが、その成果についてメンバーはこう冷静に分析する。

 「メジャー・デビュー後も状況自体は良くも悪くも変わらなかったですね。あと、SANABAGUN.のギャグがシュールすぎて伝わりにくいことに気付きました(笑)」(小杉隼太、ベース)。

 「前のアルバムのアーティスト写真(全員スーツで、谷本大河の肩に小人サイズの澤村一平が乗っている)にしても、ウチらとしてはギャグのつもりだったんだけど、真剣にああいうことをやりたいヤツらだと思われちゃった。今回は写真にしても普段通り。普通にモテにいってます(笑)」(高岩遼、ヴォーカル)。

 ジャズとヒップホップを共通項としているものの、SANABAGUN.はかなりの個性派集団だ。ひとたびぶつかり合ってしまうと一瞬のうちにバラバラになってしまいそうな危うさがあり、それが彼らの魅力にもなっている。

 「俺らは〈バンド〉というよりも〈チーム〉という感覚があるんですよ。同じ方向をみんなで見てるわけじゃないし、まとまりが悪いチームでもあって」(高岩)。

 「SANABAGUN.の良いところは8人いるところであり、悪いところは8人いることだと思うんですよ。大人数の編成が良い面でも悪い面でも作用するし、それが楽しいところでありつつ難しいところ。でも、このメンバーだからこそ8通りのアイデアが出てくるわけで、それが強みではありますよね」(小杉)。

SANABAGUN. デンジャー CONNECTONE(2016)

 前作『メジャー』までは8人によるジャム・セッションを元にひとつの楽曲を生み出してきたというが、今回のニュー・アルバム『デンジャー』は違う。これまで以上に緻密に構成を練り上げ、この個性派集団が何たるかを音盤に落とし込むべく、さまざまな試行錯誤が重ねられた。

 「前のアルバムはライヴの延長上だったけど、SANABAGUN.の世界観をどうやったら作品に落とし込めるのかようやく考え出したのかもしれない。例えば、こいつ(高岩)、ライヴではものすごく存在感があるんですけど、いままでの曲だと岩間俊樹(MC)のラップに多少かぶってくるぐらいの楽曲構成だったので、音源だと存在感が伝わりにくくて。今回は遼の歌を押し出すというコンセプトはありましたね」(小杉)。

 「俺を使わずにどうすんの?っていうことですよね」(高岩)。

 独特の言語感覚で聴き手を引き込む岩間のラップと、ソウルフルかつ固有のダンディズムが滲む高岩の歌声。今回の楽曲からはSANABAGUN.最大の武器である二枚看板のコントラストがよりくっきり浮かび上がる。それがもっともわかりやすい形で表現されているのが、高岩のアイデアをベースに作られたという“BED”。すでに彼らのライヴでは定番となっているこの曲は、ファンクとジャズとトラップが渾然一体となったような、ちょっとありえない構成の楽曲だ。

 「俺が持ってきた曲なんですけど、最初はもっと複雑な展開だったんです。3曲分ぐらいのアイデアをひとつにまとめてしまった」(高岩)。

 「最初は何を言ってるのか全然理解できなかった(笑)。楽譜に落とし込んだら意味不明な曲になると思うんですけど、その点でもこのバンドじゃないと絶対出来ない曲ですね」(小杉)。

 

ポップでドープ

 また、高岩が「今回は全体的によりヒップホップになったと思いますね。音の質感もそうだし、曲調もそう」と話すように、音の質感にもかなりのこだわりが見られる。その点についてはSOIL&“PIMP”SESSIONSらを手掛けてきたレコーディング・エンジニア、奥田泰次の意向も反映されているようだ。

 「『メジャー』の音は〈生ヒップホップ〉っぽい感じだったけど、今回は生ヒップホップというよりは〈ヒップホップ〉。そういう音の質感についても奥田さんがだいぶアイデアを出してくれて」(小杉)。

 「“Mammy Mammy”にしても音のイメージとしてあったのはゲームとか。激しくてゴリッとしたサグなバウンスに、こういう歌詞が乗ったらいいんじゃないかと思って」(高岩)。

 母親に対する愛情と高岩のヤンチャイズムが前面に出た“Mammy Mammy”、ふと〈お母さん、ありがとう〉的なハートフルな内容かと思いきや……。

 「こういう曲って得意なんですよ、騙して涙を誘うような曲が(笑)。歌詞のなかではお母さんが死んだように書いてますけど、実際は死んでないし。カフェ・コンピに入ってるような曲にはしたくなくて(笑)」(高岩)。

 このように、クールでスタイリッシュであっても、どこかで舌をペロリと出しているような毒気もSANABAGUN.の魅力。それは、ひたすら板ガムを讃える“板ガムーブメント”や、高岩が敬愛するフランク・シナトラも歌ったジョージ・ガーシュウィン作曲のスタンダード“A Foggy Day”を引用したムーディーなサビが配されながらも、岩間が聴き手を煙に撒くようなラップを披露する“A Foggy Day”などからも感じ取ることができるが、そんななかでも注目すべきは、やはりラストを飾る“メジャーは危ない”。曲調こそ収録曲中もっともポップかつキャッチーだが、岩間のラップはバンドの内情を告発するかのような衝撃的内容。その真意を問うと……。

 「これは基本的に俊樹から俺へのディス・ソングですね。勝手にこの曲をサンプリングしてアンサー・ソングを作るつもりなんです。“メジャーは危なくない”っていうタイトルで(笑)」(高岩)。

 うーむ、どこまでが本当かわからなくなってきたが、このように一筋縄ではいかないところもSANABAGUN.のおもしろさであることは間違いない。今回収録された“P.O.P.E”のタイトルは「ポップとドープをくっ付けた造語」(小杉)だというが、この言葉はSANABAGUN.の魅力を説明するものであり、今作のキャッチコピーとしても相応しいものだろう。ポップでドープなニュー・アルバムを携えて、SANABAGUN.の快進撃がいま新たに始まる。