美少女戦士に誂えたバロック調の華やかな大曲をはじめ、ソロ特有の意匠とバンド・メンバーへの信頼を垣間見せるニュー・シングル!

 相対性理論が日本武道館公演〈八角形〉を行った同日に、やくしまるえつこが両A面シングル『ニュームーンに恋して/Z女戦争』をリリースした。アニメ「美少女戦士セーラームーンCrystal」第3期〈デス・バスターズ編〉のオープニング・テーマとして彼女がトータル・プロデュースを行った“ニュームーンに恋して”、ももいろクローバーZへの提供曲で相対性理論のライヴでは何度も演奏されてきた“Z女戦争”、そして昨年の『美少女戦士セーラームーンCrystal キャラクター音楽集 CRYSTAL COLLECTION』に収録されていた“革命はナイト&デイ”のセルフ・カヴァーの3曲が収められている。

やくしまるえつこ ニュームーンに恋して/Z女戦争 EVIL LINE(2016)

 “ニュームーンに恋して”は、ホーンやストリングスが華美な色を添えており、スケールの大きさとインパクトの強さはアニメの主題歌ならでは、という印象。大曲志向という意味では、やくしまるえつこメトロオーケストラ名義で発表された『ノルニル/少年よ我に帰れ』(2011年)にも通じるものがあり、実際、同シングルに参加していたナスノミツル(ベース)、高良久美子(ヴィブラフォン)、エリック・ミヤシロ(トランペット)が脇を固めているほか、“少年よ我に帰れ”で編曲を担当していた近藤研二がストリングス・アレンジを手掛けている。相対性理論が最新作『天声ジングル』でストロングなバンド・サウンドを打ち出したのとは対照的に、バロック調で装飾の多い華やかな曲調が特徴的だ。

  “Z女戦争”はももクロのヴァージョンよりハードなロック・チューンに仕上がっており、やくしまるのヴォーカルも、相対性理論のときと比べて格段にエモーショナルで表情豊か。ラップのように高速で言葉を畳み掛ける箇所ではリズム感の良さを改めて感じさせる。“ニュームーンに恋して”もそうだが、微温的で淡々とした趣のやくしまるのヴォーカルが、ソロではドラマティックな様相を呈するのがおもしろい。また、永井聖一ジミ・ヘンドリックスばりのギター・ヒーローぶりにも注目したいところだ。

  “革命はナイト&デイ”は、前述の2曲と比較するとテンポもスロウで落ち着いた曲調。優美なメロディーが立っており、〈うたもの〉として非常にクォリティーが高いが、一方でビートメイキングの精緻さにも耳がいく。具体的には、ドラムとプログラミングを担当している相対性理論のドラマー、山口元輝の叩き出すブレイクビーツがアクセントとなっているのだ。Shing02のバンドでドラムを叩き、ビートメイカーとしても活動している山口らしいグルーヴが、この曲の推進力となっているのは間違いないだろう。

  “ニュームーンに恋して”のように相対性理論との違いが如実に出ている曲もあるが、その一方で、バンドとの連続性も感じられる今回のシングル。実際、“Z女戦争”は相対性理論のフル・メンバーと共に演奏されているし、“ニュームーンに恋して”と“革命はナイト&デイ”はやくしまるえつこと山口元輝の共同名義での編曲となっている。柔軟に参加プレイヤーを選びながらも、やはり、やくしまるはバンドのメンバーを心底信頼しているのだな――本作は、そんなことがわかる作品でもあるのではないだろうか。

 


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ここでは、やくしまるえつこが参加した近作を一部紹介します。まず、2014年末には花澤香菜のシングル“こきゅうとす”(アニプレックス)でアートワークやMVを含むトータル・プロデュースを担当。乙女な世界観が花澤と相性抜群の同曲は、後に相対性理論のライヴでもセルフ・カヴァーされています。また、2015年はヤンプ・コルトの最新作『チュウイング』(Cemetery/FAR)『GRAND AGE』(HEADZ)に歌唱で参加し、松本隆の作詞家活動45周年に捧げられた『風街であひませう』(ビクター)でははっぴいえんど“はいからはくち”を気怠くカヴァー。2016年はももいろクローバーZに『AMARANTHUS』(EVIL LINE)収録の“HAPPY Re:BIRTHDAY”を提供しています。*bounce編集部