15年間のコレクションで語る「いま、ここ」。やくしまるえつこ、カーディフ&ミラーなど、音楽的作品にも注目!
2004年の開館記念展「21世紀の出会い−共鳴、ここ・から」以来、時代を体現する現代アートを紹介し、世界の「いま」を見つめ続けてきた金沢21世紀美術館。この10月で15周年を記念し、9月から「現在地:未来の地図を描くために」が開催中だ。未来が見えにくい世の中で、見知らぬ街で地図を開くように、まず「現在地」を確認する。アーティストたちは「いま、ここ」をどのように見ているのか。会期を2期に分け、現在地[1]は約50作家70作品、現在地[2]は約60作家140作品で構成される。約4000点に及ぶコレクションのなかから選び抜かれた作品を中心に、15年ぶりに展示公開する作品や収蔵後に初公開する作品もある。
展覧会は12のキーワードで、それぞれの展示室をアイランド・ホッピングのように巡ることができる。現在地[1]のスタートとなる「現在地—過去の参照と未来の創造」では、ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホの映像作品《世界の終わり》を初展示。すでに世界は滅亡しており、ある男性アーティストの活動を調査し、旧文明を発掘しようとする女性のストーリーが2面スクリーンで展開される。コレクションの意義にも重なる、SF映画のような幕開けだ。
その先の「芸術と生命工学の交差」では、2017年にメディアアートの国際展「アルス・エレストロニカ」でグランプリを受賞したやくしまるえつこ《わたしは人類》の金沢ヴァージョンが展示されている。人類滅亡後の音楽をコンセプトに、バイオテクノロジーを用いて、DNAをCDやクラウドに代わる記録メディアとした新提案。微生物の塩基配列(code)の一部から、DNAを音楽の和音(chord)に置き換える暗号表をつくり、遺伝子組み換え技術によって微生物のDNAに保存した作品だ。相対性理論のライヴ映像も楽しめる。バイオテクノロジーの民主化がどのような未来を奏でるのか、ステン・ハンソンらの歴史的な資料展示を通して語られるアートと音楽との接近が興味深い。
ほかにも、キャビネットを開けると音や声が流れ出すジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー《驚異の小部屋》など音楽的作品が散見される。「協働の力」と題した空間にあるペドロ・レイエス《武装解除/武器製の楽器》は、メキシコ軍からスクラップ化された6700本の武器を譲り受け、音楽家と鍛冶職人の手で打楽器・管楽器・弦楽器につくり替えた作品。音楽を奏でる素朴な姿はユーモラスでもある。映像画面では、国家や専門家だけでなく誰もが意見交換できるプラットフォームをつくるプロジェクト《人々の国際連合》が上映されている。2015年に金沢21世紀美術館で実施された様子も見ることができる。
「深い危機の時代」では、貧困や紛争、人種や性差への差別、最先端テクノロジーの脅威などさまざまな問題を扱った多数の映像作品を上映。例えば、ツァオ・フェイの《ルンバⅡ:遊牧民》は、都市化する中国の建設現場などで2台のルンバが掃除して回る様子を捉えている。掃ききれない空回りが笑いも誘いつつ、思い出など感じることのない無情さや、止まることのない欲望などを想起させる。オリンピック前の日本にも当てはまる、他人事でない情景だ。
「エコロジー、ローカリティ」では、人間と自然との関係をあらためて捉え直す。2011年の東日本大震災のとき、ニューヨークにいた照屋勇賢が「自分にできることをする」シリーズのひとつとして、震災の3日後に発行されたニューヨーク・タイムズの紙面に切り込みを入れ、芽吹くように立ち上げた作品は、ともすれば風化しそうな記憶を思い起こさせる。途方に暮れるような問題が起きたときも、まず目の前の小さなことから始めたい。
さらに、人とのかかわりが形や意識に変化をもたらす作品はぜひ体験してほしい。水や光を用いたオラファー・エリアソンの《水の彩るあなたの水平線》、生物の内部に入るようなエルネスト・ネトのインスタレーション《身体・宇宙船・精神》、移民や難民の語りをMP3で聞く高山明《マクドナルドラジオ大学》など、いずれも観客が主役だ。「この作品、あの展覧会で見たなあ」などと懐かしく、あるいは初めて見る作品は新鮮に感じながら、ひとりひとりの静かな変革が大きな波になることを願う。
EXHIBITION INFORMATION
開館15周年記念
現在地 未来の地図を描くために
[1]2019年9月14日(土)~12月19日(木)
[2]2019年10月12日(土)~2020年4月12日(日)
会場:金沢21世紀美術館
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1770
https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1771