自身の作家性を拠り所に、〈戦争と日本〉の関係をリリカルに浮き彫りにしたライヴ映像作品

 七尾旅人の初となるライヴ映像作品「少年A」は、昨秋の東京・WWWにおける3時間のステージを完全収録したもの。〈コンサート〉というよりも〈音楽劇〉と言えるこの公演で、彼が扮した主人公である〈兵士A〉は、日本でひとり目の、戦争で命を失った自衛官――つまり現時点ではフィクションだが、誰もその実存の可能性を否定できない人物だ。その兵士Aこと七尾がガット・ギターをフォーキーに爪弾き、サンプラーで不穏なサイレンやノイズ、効果音、フリーキーなブレイクビーツを鳴らすのに合わせ、梅津和時が即興でサックスを重ねていく。まず言葉が先に立ち、音楽でそれを追いかけていくような曲も多い。

七尾旅人 兵士A felicity(2016)

 

 映像作家のひらのりょうが手掛けた、多様なイメージをミニマルに表す映像を背景に展開される物語は、兵士Aの人生だけでなく、70年前の敗戦から高度成長期、しばしの繁栄と〈3.11〉、そして〈現在と未来〉としての戦争へ連なっていく。それはアポロ11号と〈9.11〉から着想を得た2007年の大作『911FANTASIA』の発展形であり、さまざまな時代と人物を行き来する構成には手塚治虫「火の鳥」を想起させる部分も(本作のなかでは「鉄腕アトム」への言及もあり)。

 その『911FANTASIA』の曲や、“Fly Me To The Moon”“赤とんぼ”といったカヴァーを除く大半の楽曲は未発表もしくは書き下ろし。ある村と、そこに住む幸せな家族が徐々にバラバラになり、最終的には大災害と原発事故でその土地を失ってしまう“ぼくらのひかり”、表題がテーマを物語る“少年兵ギラン”“難民の歌”など、全体を緊迫した空気が貫くが、戦争と暴力の前になす術のない多くの人に思いを寄せる、七尾のリリカルで心優しい面が強く印象に残る。

 作家性を拠り所に、時代を超えて〈戦争と日本〉の関係を浮き彫りにせんとするこの作品は、塚本晋也監督の映画「野火」にも通じる、偉大な芸術的挑戦だ。