USルーツ・ミュージックやクラシック・ロックを根っこに持ち、オールドタイミーなサウンドを今様のポップスとしてアウトプットしてきた93年生まれのシンガー・ソングライター、Rei。昨年2月、長岡亮介ペトロールズ)を共同プロデューサーに迎えたミニ・アルバム『BLU』でCDデビューして以降、〈フジロック〉やピーター・バラカンがオーガナイズする〈LIVE MAGIC!〉、さらに海外ではUSの〈SXSW〉に出演するなど、活動の幅を広げてきた。そんな彼女が、これまで以上にポップでカラフルな楽曲を揃えた3枚目のミニ・アルバム『ORB』――『BLU』から始まるトリロジー最終作――をリリース。Mikikiではこのタイミングで、新作についてはもちろん、デビューからこれまでのReiを振り返るインタヴューをお届けしたい。作品を重ねるごとに、自身の音楽制作のスタンスを確立していく様子は頼もしい限り。今後、彼女がどのように進化していくのかが楽しみになる話が満載だ。 *Mikiki編集部

Rei ORB Reiny/AWDR/LR2(2016)

自分の好きな音楽をどうポップにするかに苦しんでいた

――『ORB』は、2015年にリリースされた『BLU』『UNO』から続く〈トリロジー〉最終章ということですが、そういうアイデアはいつ生まれたんですか?

「トリロジーにしようということは、1枚目の『BLU』を作った頃から考えていたんです。ただ、それぞれのアルバムのコンセプトはその都度考えたことで、その時々の私の音楽観や生活を切り取った音楽が作ることができたらと考えていました。だから、変化していく私を音楽として表わしていくことがテーマでした」

――では楽曲もその都度新しく作ったものを収めていったと。

「そうですね、ストックから引っ張り出してきたのではなく、アルバムのために書き下ろす。それも決め事の一つだったので、今回入っているのも最近の曲ばかりですね」

――トリロジーの最終章で描こうとしていたものは何だったんですか?

「過去2作を通して出来た〈縁〉をこのアルバムに集結させようと考えて、いろんな知り合いのミュージシャンに参加してもらったことがまず第一。たくさんの方が演奏してくれたので、生楽器の比率も高くなって、温かみのあるサウンドになったと思います。『BLU』の時点では自分のアイデンティティーを確立することに何よりも集中していて、参加ミュージシャンをコントロールするような心の余裕は全然なかったんですけど、いくつかのセッションやたくさんのライヴを経たことで、ようやくそれができる余裕が生まれたのかなと。皆さんに参加してもらって、これまで以上にスケールの大きいアルバムが出来たという手応えを感じています」

――じゃあ、参加者が多くなったのは自然な流れだったと。

「はい。音楽をやるときもそうですし、こうやってお話をさせていただくときもそうなんですが、常にオーガニックであること。例えば無理やり誰かと共演したりとか、そういうことはしたくないんです。まず会って、一緒に演奏してみて、この人とやるのは楽しい!と感じたときに一緒に音楽を作る。そういう無理をしない作り方を続けていけたらと思っています」

Reiの2015年のミニ・アルバム『BLU』収録曲“BLACK BANANA”、2015年のライヴ映像
 

――そういう発想はいつ頃から持つようになったんですか?

「どうなんですかねぇ……。私は4歳のときにクラシック・ギターを始めて、小学生に入ってから友達とロック・バンドを組んだことが歌を歌いはじめたきっかけで。その頃はザ・フーが大好きで、ジョン・エントウィッスルというベース・プレイヤーが自分の屋敷でプラチナ・ディスクをフリスビーのように投げて、それをライフルで撃ち落とすという映像を観て、私もスーパースターになりたい!と思ったんです」

※ザ・フーのドキュメンタリー映画「The Kids Are Alright」(79年)に登場する“Success Story”のビデオ・クリップでのワンシーン(のことだと思う)。実際は、ジョンが投げられたゴールド・ディスクをライフルで撃ち落とそうとするが失敗し、マシンガンで木っ端微塵にしていた

――ほう(笑)。

「それを叶えるためには自分の音楽性を犠牲にしてもいいとすら考えたし、のし上がることができるなら誰か偉い人の力を借りることも仕方ないことだって考えてたんですけど……」

――それは小学生の頃の話ですよね?

「はい、スーパースターになりたいと思っていた小学生の頃の話です(笑)。何が何でも成功したいという気持ちが大きくて、別に他のことには何ら執着がなかったんですよ。でもやり続けていくうちに、それでいいのかな?と頭の中にクエスチョン・マークが点灯しはじめて。やっぱり自分が心底愛している音楽じゃないと、人に伝わらないんだということが、だんだんわかってきたんです。そこからですね、自然体で音楽活動をやらないと、と思うようになったのは」

Reiの〈SXSW 2016〉でのライヴ映像
 

――そうやって考え方が変わっていったのは、やっぱりライヴをやったり、さまざまな人との出会いがあったから?

「そうですね。自分が好きなクラシック・ロックやブルースは、2000年代に流行っている音楽とは質感が異なることはすでに気付いていたんですが、私が好きなエッセンスをいまの流行にどう織り交ぜて、現代に通用するポップなものにできるか。そのことばかり考えて頭でっかちになって、しんどかった時期があったんです」

――それはデビュー前? デビュー後の話?

「どうだったかな、時期的なことは思い出せないけど、10代後半は自分の好きな音楽をどうやってポップにするか、という考えに囚われて、すごく苦しんでいました。でも無理にやろうとしても、結局のところ気持ち良くやれないとダメだって気付いたんです。だから『ORB』の制作においても、ポップにしよう!などヘンに構えたりせず、聴き手にダイレクトに伝わる音楽とはどういうものだろうか?ということを、まず考えていました」

――なるほど。〈ダイレクト〉というキーワードは作品全体から浮かび上がってきますよね。各楽曲の持つ色合いが直接的に入ってくる感じがある。ちなみに収録された7曲でいちばん苦労した曲はどれですか?

「“COCOA”は制作にいちばん時間がかかりました。いまを生きるっていうことをもっと大切にしたほうが良いんじゃないの?――そんな問い掛けをしたいというテーマが浮かんでいたんですが、できるだけグサリと刺さる歌詞とサウンドにするにはどうしたらいいのか、いろいろと迷いました」

――それで出てきたのが、この超ファンキーなギター・カッティングだったと。こういうガツンとくるファンキーなギターはReiさんらしいと思う。

「これまで勢いのあるアップビート系というとブルース・ロック的な曲調が多かったし、こういうファンキーな曲を前々から作ってみたいと思っていたんです」

――僕のような中年の音楽好きからすると、古いものから最新のものまでどんなジャンルでも呑み込んでしまえるフラットな姿勢は眩しく映るんですよね。

「あぁ、そうなんですか。このアルバムでは〈よりカラフルに〉ということを意識していたので、自分がこれまで聴いてこなかったジャンルの音楽もいろいろ聴いてみて、音質やアレンジメントなど採り入れられる要素はないか探ってみたりしたし、そこは楽曲に反映されているかもしれないです」

――それは曲で言うと?

「ブラスが入っている“Route 246”という曲は、もともとブライアン・セッツアーなどのロカビリーが大好きで、そういったタイプの曲を作るにあたって、管のアレンジメントをいろいろ聴いてみました。JJ・ジョンソンのトロンボーンを聴いてみたりだとか」

※1940年代のスウィング・ジャズ全盛期から活動した名トロンボーン奏者。ベニー・カーターカウント・ベイシーのビッグバンドに所属し、1950年代にはディジー・ガレスピーマイルス・デイヴィスら錚々たる面々のサイドマンを務めて人気を確立。いくつかのリーダー・バンドも率いていたが、なかでもカイ・ウインディングとのトロンボーン・デュオでの活躍が名高い

JJ・ジョンソンとスタン・ゲッツによる1960年のライヴ映像
 

――おお。

「たくさんのバンド・メンバーをバックに従えたアレンジということで、シスター・ロゼッタ・サープを参考にしたりして」

※1915年にUSアーカンサスのコットン農園で生まれた、シンガー・ソングライター/ギタリスト。幼い頃からゴスペル・グループでギターを弾きながら歌っていた彼女は1930~40年代に人気を博し、そのスタイルはロックンロールのゴッドマザーと言われ、リトル・リチャードチャック・ベリーらに影響を与えた

シスター・ロゼッタ・サープ“Up Above My Head”
 

――そういう思いっきりクラシックなものへ飛び込んでいけるのは、やっぱりReiさんの強みですよね。

「そうなんですかね。掘れば掘るほどいろいろ点が繋がっていって、大きな絵が浮かび上がるような音楽の聴き方をするのは楽しいです。でも同世代のミュージシャンと話をしていると、古い音楽はまったく知らないけど、知らないからこそ生まれる突飛な発想があるんだなと気付かされることもあります。最近はYouTubeがあったり、配信サイトで楽曲を単品購入できたりするじゃないですか。そういったこともあって、音楽の年代やジャンルのボーダーが薄れてきているように感じていて、それは音楽にとっていい傾向だと思っているんです。みんな自由に何でも聴けるようになったらいいなと思いますし、音楽家の立場としては、気持ち良ければ何でもいいというスタンスで行きたい」

 

ルーツを捨てた/捨てないという考え方はしない

――前作に引き続きセルフ・プロデュースで作られていますが、音作りにおいてOKを出すポイントはどういうところでしたか?

「音を聴いてみて、本能的に良いかどうか反応しながら作っていっていきました。ただ、セルフ・プロデュースと謳っていますが、周りのスタッフさんからさまざまな意見をもらいながら決めたことも多いです。例えば前作『UNO』と同じエンジニアさんにお願いしたんですけど、彼がすごいアイデアマンで、いろいろ意見を採り入れさせてもらったし、アレンジもミュージシャン同士で相談しながら組み立てていくことができたので」

――さまざまなゲストのなかで目を惹くのが、“Oo-Long-Cha”に参加しているBase Ball Bear関根史織さんです。

「前々からライヴに遊びに行かせてもらっていました。グルーヴがステディーでありながらアクセントの付け方などが女性的だったりするところが、彼女の魅力だと思います。女性が入ることによって曲の質感も変化するので、そういった意味で参加してもらえて本当に良かったです」

Base Ball Bearの2016年のDVD「日比谷ノンフィクションⅤ~LIVE BY THE C2~」トレイラー映像
 

――このトリロジーを完成させたことで得たもの、発見したことはありましたか?

「そうですねぇ……やっぱり音楽は自由だということ。それは全体を通して感じたことですね。1枚目の『BLU』はペトロールズの長岡亮介さんと一緒に作ったアルバムですけど、聴き心地の良いサウンドばかりではなくて、ちょっと違和感のあるようなアレンジメント……例えば打ち込みを入れてみたりすることが逆にキャッチーであることがわかって。そして2枚目の『UNO』はミニマルにこだわったアルバムでした。音は少ないけれど、表現されている世界は大きい――ミニマムが生み出すマキシマムというテーマで作ったんですが、木を叩いた音をサンプリングしてドラム代わりに使ったり、これまでにない発想を駆使して音楽を構築していきました。そこで感じたのは、自由であるからこそ好きなものを貫くべきであるということ。決して他の人が好きなものを否定したりすることなく寛容な姿勢で受け入れながら、私はこれが好きなんだと提示する。そんな姿勢というか価値観も形成されたように思います」

Reiの2015年のミニ・アルバム『UNO』収録曲“JUMP”
 

――ブルースやクラシック・ロックなどのルーツ・ミュージックと現代性を融合させるという点において、Reiさん自身はこの3作をどう評価しますか?

「古い音楽と新しい音楽を融合させる、そればかり考えて音楽を作るのはやめようという話はさっきもしましたが、自分が好きなものは音楽をやっていくうえで自然と滲み出るものだし、私はただ、お客さんに対して自分の音楽をどうやって伝えるのかをシンプルに考えればいい。そういうことだと思うんです。〈Reiちゃんって、昔はもっとブルース・ロックとかやってたのに、いまはかなりポップだね〉みたいに言われるかもしれないですけど、私の音楽に対するスタンスはずっと変わっていないから、ルーツを捨てた/捨てないという考え方はしないんですね。だから自分で分析するのは難しいです」

――3枚を作るなかでどんどん曲作りが自由になっていくことで、そういう想いがより強固になっていったということでしょうか。

「はい、そうだと思います」

――では、ここで得たものをこの先どう活かしていくかはもう見えていますか?

「どうでしょうか(笑)。皆さんを裏切りたいなとは思っています。いろいろ今後について予想している展開もあると思うんですけど、私はエンターテイナーなので、そこは気持ち良く裏切らせてもらおうと」

――じゃあお伝えできることは……。

「〈お楽しみに!〉ということで」