日本での幅広い人脈を象徴する5日間連続公演!
昨年につづくアート・リンゼイの東京公演は代官山の「晴れたら空に豆まいて」で8月29日から5日間連続おこなったうちの、最初の2日は青葉市子とのツーマン、3日目にドラマーの山木秀夫と共演し、翌日はバッファロー・ドーター――とその顔ぶれもアートの日本での幅広い人脈を象徴するものである。私は2日目の公演に赴いたとき、青葉市子の時間があってついでアートが演奏するものと思っていたが、ふたりはともにステージにあがり、たがいの持ち曲を交互に(というほど規則的ではなかった)くりだし、音をつけあったのは意想外のおもしろさだった。だから最終日となるジム・オルークとの共演もてっきりそうなるものと思っていたが、あにはからんや、この日はアートの曲にジムがギターで伴奏をつけるスタイルだった。
畳敷きのフロアの中央には前衛生け花のようなオブジェクトがあり、下手側に2台のギター・アンプ、ふだんステージとして使っている小上がり状の舞台もこの日はぎっしりお客さんが埋め尽くしている。アート・リンゼイとジム・オルークのデュオは以前一度実現しているが日本でははじめて。水色のダンエレクトロの12弦とチェリーレッドのギブソンSG、代名詞となったギターを抱えたふたりが舞台袖から現れる。2日目に足を運んだおかげでハナからふたりで演奏するだろうとはわかっていたが、この時点ではまだアートとジムがたがいの持ち曲を披露するものと思っていた、あるいは即興的なデュオを期待していたふしもある。ところが《4 Skies》でライヴが幕を開けた途端、それは誤りであったことがわかった。
ファースト・ソロ『O Corpo Sutil:The Subtle Body』の1曲目であるこの曲の最初の一音で歌詞の情景そのままに会場の空気は複雑な階調からなるアート・リンゼイの色彩に染め上げられたのである。官能性と不可分の歌があり、ノイズがありリズムがある。楽音を担ったジムの資質もあり、ボサノヴァないしブラジル的なニュアンスは薄かったが、『Encyclopedia Of Arto』を下敷きにしたオールタイムベストな選曲はあのアルバムのディスク2に聴かれる、歌のメロディアスな旋律と混沌としたノイズをぶつけるような(DNAっぽい)アレンジに流れすぎることもなく、端然としたたたずまいはフォーキーでさえあった。アル・グリーンのカヴァー《Simply Beautiful》の後奏で奔放にギターをかき鳴らすアートと後景で音の場をつくっていたジムが視線を交わした瞬間楽曲が弧を描くようにリフレイン・フレーズに着地した場面が公演の白眉だったが、そんなシーンはいくらでもあった、想像以上の相性のよさを証明した、心地よい緊張感にあふれた一夜だった。