コムデギャルソンと起こした革命
コムデギャルソンのショー用にオノ セイゲンが作った音楽をまとめた『Comme Des Garçons Vol.1』(88年)、〈同 Vol.2〉(89年)が、最近2枚組CD『COMME des GARÇONS SEIGEN ONO』として再発された。過去にも何度か発売元を替えながら再発されてきた音源だが、今回の日本コロムビア版は、モノラル音源を追加したハイブリッドSACD仕様となっており、更にモノラル音源LPまで同時発売されるという念の入りよう。ファッション・ショーにおける音楽の在り方に一大変革をもたらし、オノ セイゲンの音楽家としての評価も確立した金字塔にふさわしい特別扱いである。
が、うれしい驚きはもう一つある。『COMME des GARÇONS SEIGEN ONO』の発展版とも言うべき未発表音源を収めた『CDG Fragmentation』なるアルバムも同時発売されたのだ。これは、97年のショーのためにセイゲンが作った音源を核にしたアルバムだが、97年のショーでは、〈音楽〉ではなく〈音〉を、という注文がコムデギャルソン側から出された。そのためセイゲンは、アート・リンゼイ他を起用してNYで録音した楽曲の断片(Fragment)をショーの現場で即興的に用いたのだという。このCDには、オリジナル楽曲や追加録音曲と共にそのショーの実況音も入っている。カメラのシャッター音やざわめきや叫び声に混じって〈ヒュ~〉とか〈ザッ〉といった楽器の断片音が聴こえるが、これが実際にショーの模様だというから、びっくり。
「楽曲の断片を入れたサンプリング・キーボードを使い、現場で僕が音を出した。十数人のモデルがいて、一人一音。ランウェイを歩いている間、どこかでちょっとだけ使う。長いもので5秒ぐらい、短いものだとバンッ、だけ。モデルの動きや観客の反応を見ながらランダムに。即興演奏というか、即興断片配置。観客は最初は事故だと思ったようだけど、5人目ぐらいから演出だなとわかってきて、皆さん面白がり始めた」
当時のことを振り返りつつ、セイゲンは更に、このアルバムの意義について語る。
「僕は坂本龍一さんの多くの作品にもエンジニアとして長年関わってきた。『async』など特に最近はノイズとのギリギリ境目のような作品が多いけど、そこでの僕の作業はこの97年の仕事から確実につながっていると思う。音と音楽の境目に対する視線や感性という点で、ようやく時代が追いついてきたんでしょう。だから、今こそこれを出すべきだと思ったんです」
音はどこから音楽になるのか。音と音楽を隔てるものは何なのか。いろんなことを考えさせてくれる刺激的なアルバムであることは間違いない。