STILL CHANGING SAME
[ 特集 ]R&Bの傾向
ブームやトレンドの趨勢はともかく、注目すべき作品は次々にリリース中!
この季節がよく似合う、成熟したアーバン・ミュージックの真髄を、あなたに

★Pt.1 アッシャー
★Pt.2 キース・スウェット
★Pt.4 SiSY
★Pt.5 ガラント、クレイグ・デヴィッドら注目のR&B作品ガイド

 


ERIC BENET
デビュー20年の節目、50歳の区切り。大いなる伝統に敬意を込めて、男は自分の名前で勝負する。

 20年前に発表したファースト・アルバム『True To Myself』(96年)を多くのリスナーの心に刻み込んだエリック・ベネイ。つまり今年は彼のデビューからちょうど20周年という節目になる。重ねて、66年10月15日生まれの彼は50歳の誕生日を迎えたばかり。ヒゲを剃ったり生やしたりするので年齢がわかりにくいというか、外見的にも若々しさをずっとキープしている人だが、何にせよその数字もまた大きな区切りであることは間違いない。そんな節目の年に登場した彼のアルバムは、意外にも初のセルフ・タイトル作となる『Eric Benet』。これも何やら意味ありげじゃないだろうか。

ERIC BENET Eric Benet Jordan House/Primary Wave/ビクター(2016)

 ここ数年のエリックはマイペースながらもコンスタントにアルバムを出している。今回の新作はオリジナル作でいうと『The One』(2012年)以来4年ぶりとなるものの、ちょうど2014年にはカヴァー盤を出してもいたので、ほぼ2年おきというペースはずっと守られている。同じ2014年には自身の主宰レーベル=ジョーダン・ハウスからカルヴァン・リチャードソンゴアペレのアルバムをそれぞれ送り出して制作面にも深く関与、裏方仕事でいうとルーベン・スタッダード作品へのプロデュース参加も同年のトピックだった(さらに同年末にはデイヴ・コーズのクリスマス盤でダニー・ハサウェイ“This Christmas”を歌ってもいる)。それゆえに不在を感じることもさほどなかったと思うが、やはり本人のオリジナル・アルバムは待ち遠しかったもの。中身もその期待にバッチリ応える一枚に仕上がっている。

 今回も制作はデビュー時からのパートナーとなるデモンテ・ポージーとのタッグで進められた。最近はベイビーフェイスの作品でオルガンを弾いたりもしているデモンテだが、基本的にプレイヤーではないエリックのヴィジョンを具現化するのには欠かせない相棒だろう。ハイ風味のシャキシャキしたポップなリズムでド頭を飾る“Can't Tell U Enough”と、そこから流れ込むファルセット主体のスロウ“Sunshine”を聴けば、今回ものっけから内容の良さを確信させられる。ひなびたホーンズの心地良いこれらのナンバーは、いままで以上にトラディショナルなR&Bシンガーとしての資質を直球で示したエリックの認識を更新するものに違いない。

 一方で、いわゆるAOR系のサウンド・スタイルを前に出しているのもエリックらしい特徴で、どことなくプリンスを想起させるマイルドなアップ(なお、エリックの奥様はプリンスの元妻でもある……)、さらに大御所トランペット奏者のアルトゥーロ・サンドヴァルを迎えたダンサブルなラテン・ジャズなど適度な起伏も作品の聴き心地を楽しくしており、アルバムとしての流れも抜群だ。

 なお、日本盤のボーナス・トラックには、先述した“Sunshine”のタミアを迎えたリミックスが収録。かつて彼女と大ヒットを飛ばした“Spend My Life With You”からの着想だろうが、こういう計らいが利くのも長く活動してきたからこそ。20年の歩みに敬意を表したい。

 

『Eric Benet』に参加したアーティストの作品。

 

関連盤を紹介。