STILL CHANGING SAME
[特集]R&Bの傾向
ブームやトレンドの趨勢はともかく、注目すべき作品は次々にリリース中!
この季節がよく似合う、成熟したアーバン・ミュージックの真髄を、あなたに

 


USHER
ボロボロに傷を負いながら、告白はまだ踊っている。圧倒的にR&Bへ回帰した圧巻のニュー・アルバム、余裕と貫禄を見せつけるアッシャーは現役の世界王者だ!

 トレンドを貪欲に取り込むが、取り込むことを目的にするのではなく、ことさらに新世代感を強調したりもせず、R&Bの作法に則りながら同世代にもキッズにもマチュアなリスナーにも届く歌を届ける。プロ・デビューは自身が後見人となったジャスティン・ビーバーと同じ14歳だったから、芸歴は四半世紀近く。R&Bシンガーとして完成の域に達した『Confessions』(2004年)から数えても12年が経過したが、常に地元アトランタの最新シーンと繋がり、一方で、最近はニーナ・シモンのトリビュート盤『Nina Revisited... A Tribute To Nina Simone』に参加したり、デ・ラ・ソウルの最新作『And The Anonymous Nobody』に客演するなどスターとして求められる大役も余裕でこなすアッシャーは、いまも眩しいほど輝かしい。

 

成熟しながら尖り続けて

 シンガーとして絶好調のまま4年ぶりに発表した新作『Hard II Love』は8枚目のオリジナル・アルバム。延期を繰り返した本作は当初『Flawed』としてリリース予定だったが、損傷した石像顔のジャケットは、そのタイトルの名残でもあるのだろうか。ただし、2014~2015年に発表した楽曲は、フォスター・シルヴァーズ版“Montego Bay”を引用した“Good Kisser”とニッキー・ミナージュ客演の“She Came To Give It To You”が日本盤ボーナス・トラックとして収録されたものの、ジューシーJを招いた“I Don’t Mind”、ナズやビビ・ブレリーとの“Chains”(〈Black Lives Matter〉関連のインタラクティヴ・ビデオ〈Don’t Look Away〉での使用曲)も含めて本国のオリジナル盤には入っていない。それはアルバム制作をいったん白紙に戻したからだとも言われるが、数名のプロデューサーとの繋がりはキープ。例えば“Missin U”は“Good Kisser”を手掛けたポップ&オークがスティーリー・ダン“Third World Man”を引用して繊細かつソウルフルな歌唱を引き出しているし、冒頭の美曲“Need U”は“Chains”を手掛けていたポール・エプワース(アデル“Rolling In The Deep”の制作者)との再タッグだったりする。

USHER 『Hard II Love』 RCA/ソニー(2016)

 それにしても、たびたび引き合いに出されるマイケル・ジャクソン・フォロワーぶりを、丁寧に編み上げた多重コーラスで印象づけるかのような序曲“Need U”からして傑作の予感を漂わせる。ファルセットと地声を絶妙にコントロールしながら内省感を滲ませて心情を吐露していくようなヴォーカルも一段と艶を増している。また、サウンド面においても、前作『Looking 4 Myself』や前々作『Raymond V Raymond』におけるEDM路線は控え、先述したファレル制作のディスコな“She Came To Give It To You”をオミットしたあたりも含めて、すでに沈静化しつつあるトレンドから脱却して次のステージに向かおうとする前向きな姿勢も頼もしい。この10月で38歳を迎えたアッシャーは成熟しながら常に尖り続けているのだ。

 その気配は先行曲からも窺えた。アッシャーが客演したユナの“Crush”とタイトルが似ているため混同されそうだがもちろん別曲となる“Crash”は、ラティーフがペンを交え、フォーレン&カルロス・セイント・ジョンが制作したトロピカル・ハウス・テイストのミディアム・アップ。過去2作でEDMに接近した流れを汲みつつ新たなトレンドへと向かうあたりは流石で、サビで放つファルセットにも惚れ惚れする。Dマイル制作の“FWM”もこの路線だが、先行曲ということではB.A.M.の制作でヤング・サグを招いた“No Limit”は、表題にちなんで〈アーン〉という脱力系の雄叫びと共にマスターPやC・マーダーの名前を歌い込んでノー・リミットを称えたようなレイドバック・チューン。こちらは20年近く前のトレンドを持ち出して2016年に提示した、別の意味で技ありの一曲だろう。