wrap around her words
[緊急ワイド]女性ラップ、百花繚乱
それぞれのスタイルと言葉を携えて、彼女がマイクを握りはじめた!

★Pt.1 lyrical schoolの想像する未来はいつだって明るい! 大江千里やサ上ら参加し、唯一無二の作品性見せた新作『guidebook』を語る
★Pt.3 泉まくら、MCpero、MICHINO、Y.I.M…多種多様に花開いた女性ラッパーたちの、いまチェックしとくべき12作品

 


S7ICKCHICKs
渋谷ガールズをレペゼンする人気ユニットがふたたび唇を開いて……

 女性ラッパーを増やすきっかけになったのかどうかは今後わかっていくことだとして、少なくとも彼女たちの出現がここしばらくの(フィメール云々ではなく)日本語ラップ・シーンを触発し、賑やかにしたということは現時点でも確かだろう。東京は渋谷発のユニットとして脚光を浴びたS7ICKCHICKs(スリックチックス:通称スリチク)は、ふだんはソロで活動するAYA a.k.a PANDA、LIPSTORM、AYA(シンガー)、CASPER、FUZIKOが集まった5人組である。

S7ICKCHICKs G7OSS YINGYANG(2016)

 もともと2014年にISH-ONEの“NEWMONEY female REMIX”を作った際に顔を揃えた彼女たちだが、同曲がYouTubeで100万回超えの再生数を叩き出したこともあって、正式にグループとして結成。ISH-ONE率いるTEAM2MVCHのプロデュースを受けてグループとしての初シングル“DROP GEM ON YA”を発表し、勢いに乗って投下したアルバム『LIPS7ICK』も評判になった。昨年夏にはファン投票1位を獲得してZeebra主催の夏フェス〈SUMMER BOMB〉に出演を果たしたり、先日ソロ作を発表したLIPSTORMのようにグループへの注目が個々の活動にも還元されるなか、このたびおよそ2年ぶりとなるセカンド・アルバム『G7OSS』が登場することになったというわけだ。

 今回もTEAM2MVCHが完全バックアップを担当し、ハイフィー風に明滅するスナップ・ビート上で個々が唇を競う配信シングル“My chicks”からもわかるように、基本ラインとなる全体の作りは変わらない。ただ、ツアーを経験してきたことも関係あるのか、コラボ・プロジェクトというよりも〈グループ〉としての一体感がさらに感じられる作りになっていて、結果的にそれぞれの持ち味もシンプルに見えやすくなった。小気味良いネタ曲の“Gone girl”のように洗練された曲もあれば、パーティー・ハードな気分でブッ飛ばす“Pretty B”、メランコリックなラヴソング“No more”……とトピックの振り幅も多様で、同性も異性も惹き付けるカッコ良さはパワーアップしている。これは注目! *出嶌孝次


 

春ねむり
〈きみ〉という救いを求め、〈ぼく〉の旅は始まった

 春ねむりなんて随分とのんきな名前を持つこのMCは、DAOKOやYYoYYらを輩出してきたLOW HIGH WHO?が送る期待の新人。95年生まれだというからまだ二十歳そこそこの彼女だが、高校時代から同級生と結成した行方不明というバンドでシンセサイザーを担当し、2015年には自主制作盤ながらもミニ・アルバム『まぼろしの生き物』を発表するなど、いわゆるバンド女子として音楽に情熱を傾けてきたようだ。そんな彼女が今年に入って突如ラッパーに転身。不可思議/wonderboyの作品展示会への参加を経てLHW?の所属が決まり、9月には〈BAYCAMP 2016〉にオープニング・アクトで出演。さらには蔦谷好位置がパーソナリティーを務めるラジオ番組「THE HANGOUT」の企画で、彼とのコラボ曲“さよならぼくのシンデレラ”を制作するなど、瞬く間に注目の存在となった。

春ねむり さよなら、ユースフォビア LOW HIGH WHO?(2016)

 その理由は、このたびリリースされたミニ・アルバム『さよなら、ユースフォビア』を聴けばすぐにわかるはずだ。特徴のささめくような線の細い声質はDAOKOや泉まくらの系譜に連なるものだが、より儚げで作品全体をブルーに染め上げるような魅力を持ち、一人称を〈ぼく〉で統一したリリックは彼女自身が抱える切実な思いや願いを物語に昇華したようなポエジーを孕むもの。リリカルなピアノが沁みる“怪物”や水底でもがくような緊迫感が痛い“東京”など、〈きみ〉という救いを求めて大海を漂う〈ぼく〉の心情風景は、悩める青春を生きてきたあらゆる人の心にスッと馴染むことだろう。ハンドメイドな手触りのトラックを含め、すべて自作自演という点も彼女の才女ぶりを際立たせている。なかには“ロックンロールは死なない”なんてギターがいななく衝動的なナンバーもあって、実際に同曲のリミックスにゲスト参加しているレーベルメイトのGOMESSとは音楽的に共鳴する部分が多そう。〈ジャンルはたぶんヒップホップで、こころはロックンロール〉とみずから謳う新星の到来に、これはうかうかと眠ってはいられない! *北野 創

 

RIN a.k.a 貫井りらん
情緒たっぷりの艶やかなオリエンタル・ビューティー

 まだ新人ながらRUMIにも通じる力強いラップを聴かせるRIN a.k.a 貫井りらんは、幼少期より女優としてドラマや舞台で活躍してきた、一風変わったキャリアの持ち主だ。日本語ラップ好きが高じてみずからもマイクを握るようになった彼女は、2014年5月にK.E.N aka kiddblazzの企画したセッション曲“just another”への参加で本格的にラッパー活動を開始。そのK.E.NとのコラボEP『DRIP EP』を挿み、2015年8月に配信限定でリリースした初のソロ作品『艶色七変化』ではERONEやUSU aka SQUEZ、YOUNG HASTLE、狐火といった豪華ゲストを迎え、花魁を題材に艶やかな世界を広げた“とおりゃんせ”などで存在感をアピールした。

RIN a.k.a 貫井りらん 輪廻 胎動LABEL(2016)

 そして初の全国流通盤となる今回のアルバム『輪廻』もまた、その“とおりゃんせ”に代表されるオリエンタルな情緒を帯びたサウンドと、RINの情念が漏れ出さんばかりのラップ&歌唱が独特のムードを醸成する作品だ。それもそのはず、本作では『艶色七変化』を手掛けたYuto.com™が全曲のプロデュースを続投。中国の民謡を早回ししたような声ネタがノスタルジックな光景を喚起する輪入道との“陽炎”、笛子の音色が月夜に響くMeiso参加曲“同じ月”など、モダンなビートに哀感たっぷりのウワモノを合わせたドラマティックな手捌きが、RINのアクの強い節回しに驚くほどハマっている。ほかにもKEN THE 390を相棒に迎えて愛に焦がれる姿をさらけ出した“Rosario”から、黄猿&磯友とのスリリングなマイク合戦“踊”まで、前のめりなラップが詰まった全10曲。これは濃厚。 *北野 創

 

chelmico
オシャレもラップも夜遊びも、好きなものは譲れない!

 モデルばりのルックス&スタイルで〈ミスiD2014〉に選ばれた経歴を持つMC RACHELが、その友人のMC MAMIKOを誘って2014年10月に結成したのが、このchelmicoというユニット。何でも映画「TOKYO TRIBE」を観て軽い気持ちでラップを始めたそうだが、2015年5月にラッパーのPAGEことヒイラギペイジがトラックを提供した初のオリジナル曲“ラビリンス'97”をネット上で公開し、バッチリと韻を踏みながらスタイリッシュに聴かせるラップの上手さと、ナイトライフの悲喜こもごもを仄かな詩情と共に切り取ったリリックで注目を集めることに。その後も都内を中心にライヴ活動を行い、今年6月には三毛猫ホームレスが手掛けた潔さが心地良い失恋ソング“Love is Over”をTREKKIE TRAXから配信するなど、ジワジワと支持を広げてきた。

chelmico chelmico cupcake ATM(2016)

 それらの楽曲を含む待望のファースト・アルバム『chelmico』には、恋もお洒落も音楽も等しく追求する2人の、欲張りだけどちょっとルーズな毎日が活写されている。Ryo Takahashi(CBS)やESMEらが寄せたトラックはネット世代のフューチャー感を思い切り吸い込んだポップな風合いで、主役のメロディアスに踊るフロウの魅力を引き出しているし、JinmenusagiやFBI(パブリック娘。)といったクセの強いゲストMCと絡んでもコアになりすぎないバランス感覚は絶妙。海辺でのアバンチュールを軽やかに描いた“Summer Holiday”なんてインスタ映えしそうな風景の浮かぶ楽曲もあって、イマドキ女子の素直なヒップホップがここにある! *北野 創