春ねむり
〈きみ〉という救いを求め、〈ぼく〉の旅は始まった

 春ねむりなんて随分とのんきな名前を持つこのMCは、DAOKOYYoYYらを輩出してきたLOW HIGH WHO?が送る期待の新人。95年生まれだというからまだ二十歳そこそこの彼女だが、高校時代から同級生と結成した行方不明というバンドでシンセサイザーを担当し、2015年には自主制作盤ながらもミニ・アルバム『まぼろしの生き物』を発表するなど、いわゆるバンド女子として音楽に情熱を傾けてきたようだ。そんな彼女が今年に入って突如ラッパーに転身。不可思議/wonderboyの作品展示会への参加を経てLHW?の所属が決まり、9月には〈BAYCAMP 2016〉にオープニング・アクトで出演。さらには蔦谷好位置がパーソナリティーを務めるラジオ番組「THE HANGOUT」の企画で、彼とのコラボ曲“さよならぼくのシンデレラ”を制作するなど、瞬く間に注目の存在となった。

春ねむり さよなら、ユースフォビア LOW HIGH WHO?(2016)

 その理由は、このたびリリースされたミニ・アルバム『さよなら、ユースフォビア』を聴けばすぐにわかるはずだ。特徴のささめくような線の細い声質はDAOKOや泉まくらの系譜に連なるものだが、より儚げで作品全体をブルーに染め上げるような魅力を持ち、一人称を〈ぼく〉で統一したリリックは彼女自身が抱える切実な思いや願いを物語に昇華したようなポエジーを孕むもの。リリカルなピアノが沁みる“怪物”や水底でもがくような緊迫感が痛い“東京”など、〈きみ〉という救いを求めて大海を漂う〈ぼく〉の心情風景は、悩める青春を生きてきたあらゆる人の心にスッと馴染むことだろう。ハンドメイドな手触りのトラックを含め、すべて自作自演という点も彼女の才女ぶりを際立たせている。なかには“ロックンロールは死なない”なんてギターがいななく衝動的なナンバーもあって、実際に同曲のリミックスにゲスト参加しているレーベルメイトのGOMESSとは音楽的に共鳴する部分が多そう。〈ジャンルはたぶんヒップホップで、こころはロックンロール〉とみずから謳う新星の到来に、これはうかうかと眠ってはいられない! *北野 創