終わりなき日常、続いていく生活、そこから浮かぶ何気ない喜び――“My life”のヒットを受けて新たな領域へ踏み出したZORN。その日々は緩やかに流れて……

 

そういうの、もういいや

 「足りないものはないですね、いま。ホントに満ち足りてるし、十分かなって」――ZONE THE DARKNESS名義で3枚のアルバムとEPを残したのち、SHINGO★西成に続く第3のラッパーとして般若率いる昭和レコードに加入。それを機にZORNと改名して以降、とみにシンプルかつポジティヴなものへと向かいはじめた彼の音楽は、昨年の5作目『The Downtown』で実生活へと大きく踏み込み、『生活日和』と名付けられた今回のニュー・アルバムでさらにその世界を極めている。キャリアの時々で「常にその時点での自分を切り取ってきた」と話す彼だが、溢れる感情とスキルに任せて満たされぬ思いも隠さず曲にしてきたかつての姿は、ここにない。そこにあるのは、妻と2人の子どもに囲まれた何気ない日々の幸せだ。

ZORN 生活日和 昭和レコード(2016)

 今回のアルバムへと彼が踏み出したきっかけの一つは、前作『The Downtown』収録の“My life”だという(余談ながら、そのMVには子どもたちに加え、建築現場の仕事を共にする彼の父と弟、叔父も顔を出している)。この曲に集まった多くの反響が、『生活日和』へと彼の背中を押したのだ。

 「〈コイツ、まだ音楽でメシ食えてねえのか〉って思われるかなとか、ちょっと考えたんですけど、なんかそういうのはもういいやみたいな感じで、“My life”ではまだ他の仕事をしていることも含めて自分の生活をラップしたんですよ。そしたら、いいっていろんな人に言ってもらえて。それで初めて〈自分になった〉というか、もう音楽と生活を別次元として分けないでいいかなって思えたんです。曲に向かう姿勢も変わりましたね、素でやろうみたいな。すごい計算して作った曲よりそういう曲のほうが自分もいいし、聴いてる人もいいと思ってくれるんだったら自分でいようみたいな感じで」。

 制作に気負いや計算こそないものの、もともと「パッと書いてパッと録るみたいな曲が好きじゃない」と話す彼は、今回の曲作りにも時間をかけたようだ。

 「週6日現場で働いていて子どもがいてっていうのをみんなが知ってる体で、曲を書くモチヴェーションとしてはあまり力まないようにしようっていうのがありました。ただ、今回は長いスパンで一曲一曲に時間をかけたので、いざ書いてラップするってなったら全然気楽じゃなかった。楽しみつつ、早く終われと思いながら(笑)、作って録ってを繰り返しました」。

 宮沢賢治の詩を地で行く心境を曲にしたOMSB制作の“雨ニモマケズ”をはじめ、“My life”から続投となるDJ OKAWARI、さらにYakkleといったこれまで曲を共にしてきた制作陣との曲にも増して本作で中心となるのは、初顔合わせとなるトラックメイカーたちとの楽曲だ。身の丈そのままのアルバムの宣言ともなる歌詞が、きらめく音の広がりと相まって幕開けに相応しい“Life Size”と、不穏なベースラインがアンビエントなトラックを飾る“マイペース”の冒頭2曲はEstra(OHLD)が手掛けたもの。また、咽ぶギターを乗っけたトラップのビートに気ままなサビが耳触り良く響く“DIY”や、前作収録の“葛飾ラップソディー”に続いてWEEDYを客演に迎えた続編とも言うべき懐かしい風景を呼び覚ます“夕方ノスタルジー”などdubby bunnyの制作曲は、先のEstra曲と並び本作を代表するものとしてアルバムの前半を飾っている。さらに、A-KAY制作曲となる谷川俊太郎の訳で学校の教科書などでも知られる魚のキャラクターに自身を重ねた“スイミー”と、ウインナーをモチーフに〈ないものをねだるよりもあるものを大事に〉と歌う“シャウエッセン”。そしてなにより、「僕のやりたいことを僕より先にやってるなと思った」というEVISBEATSの和やかなビートに寄せた“Letter”を、2人の小さな子どもに宛てた文字通りの手紙として、幸せなアルバムを温かく締める曲としている。

 

普通のまま音楽するのが理想

 「このアルバムはホントに全部同じことしか言ってなくて、実は。何気ない風景、普通に生きてて見えること、考えることのなかに意味を見い出して、それがいいっていうアルバムだと思うんですけど、全体に統一感みたいなのを出したくてあえてやったというか、『生活日和』ってタイトルで並べた時にそんなイメージでした」。

 出来上がったアルバムを前に、彼の話はさらにこう続いた。

 「もっとバカみたいな曲とか作りたいし、音楽的にももっといろいろできたらいいと思うんですけど、作れないんですよね、まだ。NHKの『おかあさんといっしょ』みたいなので子どもたちが(音楽に合わせて)ぐるぐる回るじゃないですか。ああいうのをラップでやりたいんですよね、歌のお姉さんフィーチャリングで(笑)」。

 こうした発言は、以前のZORNからはとても想像できなかった。彼を昭和レコードに誘った般若がみずからエグゼクティヴ・プロデューサーとして全体のディレクションを手掛けた、加入第1弾の前々作『サードチルドレン』から約2年半。『The Downtown』を経て、彼はみずからの音楽を一人見定め、この『生活日和』に辿り着いた。迷いがなくなったアルバムの穏やかさは、いい意味で肩の力が抜けた彼の現在を映している。そしてそれは家族との幸せな日々が続く限り、今後の彼の音楽や活動スタンスへと引き継がれていくだろう。

 「最後は〈こち亀〉とか〈三丁目の夕日〉みたいに、〈いっつも同じだな、でもそれがいいよね、この人〉みたいになりたいなって。普通のまま音楽するのがいまの理想なんで、仮に武道館でライヴしても次の日は現場に出たいし。どっちかを取らなきゃいけない時が来るのかなと思うけど、現場の仕事も継ぎたいし、音楽でも成功したいし、このままいきたいなと思います」。

 

『生活日和』に参加したプロデューサーの作品を一部紹介。

 

DARKNESSなZONEをくぐり抜けて……生活日和に至るまでのZORNの足取り

ZONE THE DARKNESS THE N.E.X.T. F.I.V.E(2010)

〈UMB〉や〈罵倒〉などのバトルを10代で席巻した有望株が、20歳を迎えた前年のストリート盤『心象スケッチ』に続いて放った初の全国流通作(現在CDでは入手困難)。Michitaによる代表曲“奮エテ眠レ”をはじめ、YakkleやLostFace、PUNPEE、Fragmentらの援護で現在とは異なる攻撃性を見せつける。

 

ZONE THE DARKNESS ロンリー論理 F.I.V.E(2011)

スキットやインストも含む全9曲入りという体裁のミニ・アルバムながら、聴き応えは十分。Yakkleとfanfanがトラックを分け合い、後にDJ NOBUのミックスCDにピックされる“Sweet Flavor”など、路上マナーのユーモアも交えたマイク捌きを詩情豊かに彩っている。Michitaによる“雨、花、絵描き。”が素晴らしい。

 

ZONE THE DARKNESS DARK SIDE "S" Muzik(2012)

北海道のDJ M.U.Dが全曲をプロデュースし、ハードコアな路上感と詩的な文系スタイルの入り交じったバランスが個性となったサード・アルバム。表題曲に漢を迎えたほか、BRGKやZEUS、HAIIRO DE ROSSIを迎えた内容は不思議な華やぎと翳りに溢れている。この前後には晋平太やDJ松永らの作品にも客演も。

 

般若 コンサート 昭和(2013)

アルバムの高い評判も手伝って注目度をグングン上げていくなか、般若の招きに応じて本作収録の“倍ヤバイ”に田我流、SHINGO☆西成と並んで参加。キャラの濃すぎる面々に囲まれながらも伸び伸びとフロウを遊ばせている。この後にはレーベルのツアーに参加し、昭和レコード加入を発表することに。

 

ZORN サードチルドレン 昭和レコード(2014)

〈第三の男〉として改名し、昭和レコードから放った通算4作目。エグゼクティヴ・プロデューサーを務める般若が全体をコントロールし、ZORNにとっては客観的な意見を受け入れて作った初めての作品だったそう。CAMELによる“2 Da future”やOMSBと組んだ“Wake up”では作風の変化への兆しも垣間見える。

 

SHINGO☆西成 ラガッ&ラパッ ~客演曲ほとんど&REMIX ちょい~ ディジェッ by DJ FUKU 昭和レコード(2014)

NORIKIYOとの“Hey Money Remix”やJAZEE MINOR“100 REMIX”など配信曲での名演も多いZORNだが、SHINGO☆西成の関連曲をまとめた本作で聴ける“イコイコ(DJ FUKU Remix)”もそのひとつ。昭和仲間のSHINGOと共に、R-指定とも絡みを見せている。

 

RAU DEF ESCALATE II BULLMOOSE(2015)

かつて『DARK SIDE』に収録の“Vampire Speech”で招いた縁もあって、ここではPUNPEEの采配で心機一転を図ったRAU DEFに助太刀。その“TERRITORY”ではループの幻想的な雰囲気に合わせてノスタルジックな内容のラップを披露している。〈普通のことを語ろう〉という意志も滲み出た名演だ。

 

ZORN The Downtown 昭和レコード(2015)

dubby bunnyが大半のビートを手掛けた5作目。ハードなオケを咬む鋭利なフロウもあるが、より反響を得たのは等身大の生活感を晒して綴る“My life”だった。DJ OKAWARIの美麗なループに導かれた同曲から、WEEDYを迎えた“葛飾ラップソディー”に至る終盤の流れはそのまま『生活日和』へと繋がることに。

 

KEN THE 390 真っ向勝負 DREAM BOY(2016)

本作からの先行カット“Make Some Noise”に、NORIKIYOと共にフィーチャー。〈傍観者〉たちに意識の変化と思考を促す熱い楽曲で、DJ WATARAIのドラマティックなビートに合わせて昂っていくフロウの勢いがかっこいい。なお、NORIKIYOとは『The Downtown』収録の“Backbone”も含めて3度目のコラボ。

 

LostFace SELF TITLED BCDMG(2016)

BCDMGチームの一角を担う敏腕トラックメイカーが話題のMCたちを迎えて作った初のEP 。『サードチルドレン』収録の“Party night”でも絡んでいたZORNは、久々となるZEUSとのコンビで“でも、やっぱ”にフィーチャー。過ぎた日々を回想ながら環境の変化を歌い合うリリカルな内容は自作にも通じる。

 

DJ RYOW 216 DREAM TEAM MUSIC(2016)

東海エリアを代表するDJが全国各地から豪華なゲスト陣を招いたリーダー作では、JAZEE MINORとMinami(CREAM)と共に“RAINY DAYS”に客演。Minamiのソウルフルなヴォーカルが悲愴な雰囲気を盛り上げるなか、畳み掛けるような語り口で短めのヴァースを印象的に締めてみせる。