〈間〉や〈空間〉が巧みに活かされたエレクトリカルなビート、そこにマリンバやハンドクラップなど〈歪み〉のない上品な音が飾られていく、独特のサウンドスケープ――いずこねこ、大森靖子、GOMESSらを手掛けてきたサクライケンタのプロデュース手腕によって、うるさがたのポップ・リスナーも振り向かせながら、独特の存在感を放ってきた4人組アイドル・グループ、Maison book girlが、いよいよメジャー・デビューを果たす。
「サクライさんは現代音楽とアイドル・ポップスを融合させた〈現音ポップス〉って言ってたんですけど、個人的にはまだピンと来てない(笑)」(矢川葵)。
「聴いたら以外と聴きやすいんですけど、これを説明するとなると自分たちでも難しい。サクライさんは〈ノスタルジー〉なんてことも言っていましたけどね」(コショージメグミ)。
先立って行われた2度目のワンマン・ライヴも即日ソールドアウト。ブーストされた現場の音で昂ったオーディエンスがモッシュを起こすほど熱気に溢れたステージは、音源の雰囲気とはまた違った印象を与えるもので、その二面性もこのグループのおもしろさ。
「たくさんの人に〈せまかった!〉って言われたので、次はもうちょっと大きい場所でいけるんじゃないかなって。以前より自信もついたし」(矢川)。
「ワンマンに向けていっぱい練習してきたし、練習したぶんがちゃんと蓄えになってるなって思うので、メジャー・デビューがこのタイミングっていうのはすごく良かったと思います」(和田輪)。
メジャー・デビュー・シングルのタイトルは『river』。グループの通例として、タイトルがそのまま表題曲になるのではなく、ここでリード曲になっているのは“cloudy irony”。いずこねこ“rainy irony”から続くサクライの美意識を体現した〈irony〉という言葉が、Maison book girlの曲名で使われるのは2度目のことだ。
「ファースト・アルバムに入ってる“snow irony”の続きというか、リンクしてる歌詞や振付もあって」(井上唯)。
「少女の中にもあるドロドロしたもの、それを少女らしく歌ってるっていうことでの〈irony〉ですかね。女の子が困ってたら助けてあげたくなるじゃないですか? そういう感じでもあるのかなって思います(笑)」(コショージ)。
「入った当初、サクライさんからは〈アイドルが暗い歌詞を歌ってるものがやりたい〉って言われて、〈?〉って思ってたんですけど、いまになると〈なるほど〉って感じですね」(和田)。
カップリングには、神々しいビートとセンチなメロディーが融け合った“karma”、そして恒例となっているコショージ作詞のポエトリー・リーディング“14days”。
「“karma”は盛り上がる曲ですね。ライヴハウスの重低音が効いてるのかな?」(井上)。
「初めて聴いたとき、民族音楽っぽいなって思った。高速3拍子で、トランス状態になりそうな曲」(和田)。
「〈盆踊りみたい〉とか言ってる人もいたよね(笑)」(井上)。
前のめりすぎるぐらい前衛的、だけど、あくまでアイドルの体を保ったエンターテイメント……だけど、そんなエクスキューズを抜きにしても魅力的なMaison book girlの音楽。そういった意味で今回のメジャー・デビューは順当だろうし、アイドル・シーンを大きく刷新する存在になりそうだ。
「私、最初入ったときによくわからない曲だなって、あまり好きにはなれなかったんです。でも、やっていくうちに〈刺さる〉ようになって。〈なんだろ、これは?〉っていうヤマを乗り越えたら、必ず引っ掛かる部分があるので、幅広い人に届いてほしい」(矢川)。
「海外にもウケるんじゃない?って言ってもらえたりもして、実際、このあいだカナダに行ったときも現地に知ってくれてる人が何人かいて。あとはジャスティン(・ビーバー)みたいな人にもうひと推ししてもらいたい(笑)」(井上)。
Maison book girl
矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミから成るアイドル・グループ。サクライケンタのプロデュースにより、BiS解散後のコショージメグミを中心として2014年7月にbook house girlの仮称で結成を発表。同年11月にグループ名を発表して活動を本格的にスタートする。2015年3月より現在の編成になり、9月に初の一般流通作品となるファースト・アルバム『bath room』をリリース。11月に初のワンマン・ライヴ〈solitude hotel 1F〉を東京・WOMBにて開催。今年に入って、3月にEP『summer continue』を発表。自主イヴェントや海外でのライヴ、セカンド・ワンマンの成功で話題を集めるなか、メジャー・デビュー・シングル『river』(徳間ジャパン)を11月30日にリリースする。