急速に肌寒さが増してきたある日の放課後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。

 

【今月のレポート盤】

QUEEN Queen On Air:The Complete BBC Radio Sessions Virgin UK/ユニバーサル(2016)

三崎ハナ「2016年はハナがロッ研に入部した記念すべき年でもあるんですけど、実は〈クイーン・イヤー〉でもあるんです! あっ、ハナがロッ研のクイーンって意味ではないですよ、てへへ!」

戸部小伝太「そんなことは先刻承知していますよ。何しろフレディ・マーキュリーの生誕70年にして、没後25年ですからな。ついでに言うと、フレディの誕生日である9月5日には、彼の名が小惑星に付けられたというめでたい話まで……」

三崎「流石はコデータ先輩! それにクイーン自体もアダム・ランバートのヴォーカル体制で31年ぶりの日本武道館公演を成功させていますし!」

キャス・アンジン「でも何より、いまハナが抱えている『Queen On Air: The Complete BBC Radio Sessions』こそが〈クイーン・イヤー〉最大のトピックよね」

三崎「そうです! デビュー作『Queen』のリリース直前にあたる73年2月から77年10月まで、計6回に及ぶBBCセッションを網羅した、目ん玉が飛び出ちゃうくらいのお宝盤ですもん!」

戸部「73年のBBC音源に関しては、89年に『Queen At The Beeb』として世に出ていますが、ほぼ存在すら知られていなかったものまでまとめて公式CD化されるとは、我輩も予想だにしませんでしたよ」

アンジン「確かに、初期の彼らがこれほど多くのセッション音源を残していたなんて驚きだわ」

戸部「そもそもデビュー当時のクイーンは、なぜか本国イギリスやアメリカでは酷評。商業的な成功を収めるのは、74年の“Killer Queen”がスマッシュ・ヒットしてからです」

アンジン「翌年の4作目『A Night At The Opera』で完全にブレイクして以降は、押しも押されもせぬ世界的な大物バンドへ成長したわけで、この〈Queen On Air〉はバンドの絶頂期に至る過程を捉えたドキュメントとしての魅力もあるわね」

三崎「だけど、日本ではわりと初期から人気だったと聞いていますよ!」

戸部「あの個性的なヴィジュアルが婦女子を虜にしたようですが、それゆえにレッド・ツェッペリンらとは異なるアイドル的な扱いでもあったとか」

三崎「へー、いまでは信じられないですね」

戸部「ところで、デビュー盤の制作時よりスタジオを改造してしまうほど、音に対するこだわりが強かったクイーンらしく、セッション音源とはいえ本作でもきっちりとサウンドが構築されていますな」

アンジン「そうね。コードの違う部分があったり、ソロ・パートが長くなっていたり、アルバム音源とは細かい差異もあるけれど、どのパフォーマンスも物凄い完成度の高さだわ」

三崎「それでも生々しさや緊張感はあって、思ったよりもタフな感じがしませんか!?」

戸部「初期のクイーンって、やはり基本はハード・ロック・バンドなのだと改めて思いましたよ」

三崎「あと“We Will Rock You”のファスト・ヴァージョン! これは全然アレンジが違いますね! 荒っぽいロックンロールというか、ちょっとパンクみたい!」

アンジン「彼らの懐の深さを見せつける出来よね。他にもアルバム未収録曲まで入っているし、アダム・エイヤンのリマスタリングによるハイスペックな音質も文句なし。私がコーヒーを煎れるから、じっくり聴いてみない!?」

三崎「ダメダメ! ロッ研が誇るビューティー・クイーン、キャス姐さんは座っていてください。コーヒーはハナが煎れます!」

戸部「すると、さしずめロッ研の博識キングは我輩でしょうな」

三崎「姐さんがクイーンなら、キングはテツ先輩に決まってるでしょ!」

戸部「ん!?」

 ロック事情には詳しくても、恋愛事情にはとんと疎いコデータのようです。さてさて、今回はこのあたりでお開きとしましょうか。 【つづく】