COLUMN

山本耀司が画家・朝倉優佳とのコラボで見せる〈遊び〉―新たな探究心を持って臨む展覧会〈画と機〉に見る彼の魅力とは?

〈画と機 山本耀司・朝倉優佳 Painting and Weaving Opportunity : Yohji Yamamoto Yuuka Asakura〉

YOHJI YAMAMOTO Spring/Summer 2016 Paris Collection

 

山本耀司が見つけたアートという遊び。
東京オペラシティアートギャラリーでの「画と機 山本耀司・朝倉優佳」

 

ファッションとアートとの位置関係

 ファッションとアートとの関係を考えるとき、忘れてならないのは、ファッションのアートに対する片思いの状態が長らく続いてきたということだ。製品を作って売るというビジネスが付いて回るファッションでは、自由に自己表現できる(ように見える)アートが眩しく見えるものだ。世の美術批評家たちも、ファッションをアートと同じ舞台に乗せて論じようとはしなかった。そもそもファッションには批評というものが存在しなかったし、ファッション批評家が現れたのは、20世紀も終わりになってからのことだ。

 しかし、時代は動いていく。'90年代以降は、現代アートの多様な動向に影響されて、絵画(柄)を身にまとうというコラボレーションにとどまらず、ファッションショーのインビテーションや会場選び、演出、ショップの内装やレイアウトなど、ファッションビジネスを展開させていく上でのさまざまなシーンで、アートの持つダイナミックな自由さ、実験精神は、ファッションを刺激し、影響を与えていくのだった。中でもベルギーのメゾン・マルタン・マルジェララフ・シモンズ、日本のコム・デ・ギャルソン、イタリアのプラダなどは現代アートを独自の解釈でファッションに転用したブランドと言える。

 さらに、'90年代の後半になると、ファッションが、アートから影響を受け、インスピレーションを得たりするだけでなく、他のジャンルのカルチャー(アート、建築、ダンス等々)に影響を与えるという逆の動きも見られるようになる。そのきっかけを作った大きな要因は、欧米におけるイッセイミヤケヨウジヤマモト、コム・デ・ギャルソンの登場だと私は考えている。

 日本でも、2000年代に入ると、それまでにない切り口と規模のファッション展が美術館というスペースで開かれるようになった。国立新美術館での「SKIN+BONES 1980年以降の建築とファッション」(2007年)、東京都現代美術館での「フセイン・チャラヤン ファッションにはじまり、そしてファッションに戻る旅」(2010年)、東京オペラシティアートギャラリーでの「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」(2011年 神戸ファッション美術館に巡回)、水戸芸術館での「拡張するファッション」(2015年 猪熊弦一郎現代美術館に巡回)、アーツ前橋での「服の記憶——私の服は誰のもの?」(2015年)などが、次々に実現したというのは、ファッションも美術館で開催するにふさわしい創造行為だという意識を持った人が企画者側にも、観客側にも現れたということだろう。そして展示の中心は、服のデザインの変遷から、創造の思想を伝える形に変わって来ていて、従来のファッション展では主流だった、マネキンに服を着せて並べるという博覧会的な展示は、古くさく見えるようになって来た。

 

山本耀司の特異性。
欧米での評価

 さて、本題の12月10日から、東京オペラシティアートギャラリーで開催されている「画と機 山本耀司・朝倉優佳」展では、一体どんなファッションとアートとの出会いが見られるのだろうか。この原稿を書いている段階では、山本耀司はまだ作品制作中のはずなので、具体的な内容については、ぜひご自身の目で見てほしいのだが、そのための若干の予備知識を。

 山本耀司というファッションデザイナーについては、世界的に有名だし、ここで説明するまでもないと思うが、'70年代後半から雑誌編集者の目で山本耀司の活動を見てきたものとして、また、ヨウジヤマモトやワイズなどの山本耀司がデザインした服を愛用してきたひとりとして、リアルに語れることがあるかもしれない。

 私にとって、山本耀司の何が魅力的かといったら、作る服はもちろんだけど、実はそれ以上に彼の持っている「言葉力」なのだ。それも、話し言葉に限られているから「話芸」とでもいうのか、しかし雑談ではダメで、講演とか、審査会での講評とか、対談とか、とにかく公の場での発言に、その言語感覚は際立っている。「装苑」や「ハイファッション」の編集者時代に私も何度かインタヴューや連載対談、コメントなどの形でその言葉に触れてきた。様々なジャンルの話ができる人だが、いちばん味わい深かったのは、なんと言っても服作りの話で、経験と感性に裏づけられた話を聞くと、服が生き物のように動き出すのを感じたものだ。

 たとえば、それはこんな風だ。

 「——衿のパターンを見ると、ブーメランみたいにカーブしています。日本刀の反りに近いかもしれない。反り返ったものを折り曲げると首に吸いつく。この反りが衿の命なんです。力のこもった反りかどうか。小さな面積の中の何ミリという微妙な出来事が、衿のすてきさ、おもしろさを決定してしまう。第一ボタンの位置も、反りで決まります」(「山本耀司のファッション進化論 #005 collar」1987年「ハイファッション」より。『山本耀司。モードの記録』(文化出版局)所収。)

 批評家というには感覚的。だが、言葉の端々に鋭い批評性があって、そこらの評論家には使えない言葉が放出される。それまでにいなかったタイプのデザイナーにファッション編集者は夢中になった。

 山本耀司の言葉の切れ味が研ぎ澄まされていくのは、なんと言っても80年代後期、コム・デ・ギャルソンとともに、パリに乗り込んでいった初めの賛否両論の反響が落ち着いて、評価が少しずつ定着していく時期、言葉の武装が必要になった時期だろう。ポンピドゥセンターの依頼で制作が始められ、'89年に完成したヴィム・ヴェンダース監督の『都市とモードのビデオノート』の中には、日本語と英語で、ヨウジヤマモトの服作りの思想や東京とパリという都市について語っている“全身デザイナー”山本耀司がいる。ヴェンダースのナレーションが、的確に耀司をつかまえている。

 「(ヨウジヤマモトの服は)新しいのに、長年着ている服のようだった。鏡の中にいたのは、私だったが、より私らしい私だ。私は、シャツそのもの、上着そのものを着ていたのだ。その中に私がいた。彼の秘密はどこにある? 形か、カットか、生地か? そうではないようだ。もっと深いところから来る何かだ。上着を着ると、子供時代や父を思い出した。記憶が縫いこまれているようだった。服に記憶が織り込まれている、じかに記憶を感じさせる服だ」。

 このドキュメンタリーの中で、耀司は、自分はファッションデザイナーというよりも、むしろ、仕立て屋でありたい、と語っている。「服作りというのは、人を考えることです」と言い、「僕は、二つの相反する要素、「十分新しい」と「永遠のクラシック」の二つを噛み砕く、モンスターのような存在です」とも。

 パリやヨーロッパに受け入れられていく時期、山本耀司は、敵を知るべくヨーロッパのクラシックな服作りを徹底して学び直した。それによって、ヨウジヤマモトの服は、「新しく、かつクラシックな服」として高い評価を得、ヨーロッパでは、彼はマエストロとまで呼ばれるようになる。その結果、2005~2006年には、フィレンツェのピッティ宮殿を皮切りに、パリの装飾美術館、アントワープのモード美術館でそれぞれ企画内容の異なる展覧会が開催され、2011年には、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館でも個展開催。国内では2003年、原美術館で展覧会が開かれた。キュレーターたちは、ヨウジの服をどうすくい上げるか、いかに単なる回顧展の枠をはみ出させるかに注力した。見せたいのは、アートとヨウジの関係ではなく、アート作品としてのヨウジヤマモトの服だった。

 欧米に戦いを挑みに行って、勲章ももらい、美術館で展覧会も開催。映画の中では、「ほめられたい」と言っていた耀司だが、ここまでほめられると、持ち前の反抗精神が顔を出すようだ。

 今回の展覧会「画と機 山本耀司・朝倉優佳」展が、ヨーロッパで開催されたヨウジヤマモト展と大きく異なるのは、まず、外国人スタッフが関わっていないことだろう。これは、ヨウジに勲章を贈った国の視点で作られた展覧会ではないのだ。そこに彼の反抗精神を感じる、と言ったら言い過ぎだろうか。映像やメインヴィジュアルの撮影は田原桂一、照明は藤本晴美という昔からの仲間だし、一緒にコラボレーションする画家の朝倉優佳はほぼ無名の若い日本人だ。「画と機」というタイトルは、以前ファッションショーにも登場した友人の松岡正剛による。山本耀司は、「衝突 融合 失望 対立 共存 刹那 交替 憧憬 永遠」 の現場を見せるというが、それは、まちがいなくアートでありながら、山本耀司の「遊び」のような、余裕のあるものという気がしてならない。「仕立て屋」を自認する世界的ファッションデザイナー、仕事はすでに一通りやり終えて、更なる探究心で「絵を描く」。これは、山本耀司にとっての「rosebud」(あの、市民ケーンの)なのかもしれない。

 

山本 耀司(Yohji Yamamoto)[1943年-]
東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、文化服装学院でファッションを学び在学中に「装苑賞」「遠藤賞」を受賞。1972 年、株式会社ワイズ(Y's)設立。77年に「ヨウジ ヤマモト」で東京コレクションデビューし81年にはパリ・コレクションに初参加する。1994年フランス芸術勲章「シュヴァリエ」を叙勲。2004 年には紫綬褒章、2005年フランス国家功労勲章「オフィシエ」を受章。ワーグナーのオペラ、ピナ・バウシュ舞踊団、北野武監督映画などの衣装制作も手がける。

 


寄稿者プロフィール
西谷真理子(Mariko Nishitani)

1950年兵庫県生まれ。1974年東京都立大学卒業後、文化出版局に入社。1980-82年パリ支局勤務。「装苑」「ハイファッション」他に在籍し、2011年退職。編著に『感じる服 考える服』(以文社)『ファッションは語りはじめた』『相対性コムデギャルソン論』(ともにフィルムアート社)。2013年より、京都精華大学ポピュラーカルチャー学部ファッションコース特任教授。

 


EXHIBITION INFORMATION

photo:田原桂一

「画と機 山本耀司・朝倉優佳 Painting and Weaving Opportunity : Yohji Yamamoto Yuuka Asakura」
○12/10(土)~ 2017年3/12(日)
○会場:東京オペラシティ アートギャラリー[3Fギャラリー1, 2]
○開館時間:11:00 ─ 19:00 (金・土は11:00 ─ 20:00/いずれも最終入場は閉館30分前まで)
○休館日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、12/26(月)─ 2017年1/3(火)(年末年始)、2/ 12(日)[全館休館日]
www.operacity.jp/ag/exh193/

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