ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。どうやら忘年会前の時間潰し※に部員たちがたむろしているようですよ。

※今記事は2016年12月発行のbounceに掲載

 

【今月のレポート盤】

BOB DYLAN The Real Royal Albert Hall 1966 Concert Columbia/ソニー(2016)

逸見朝彦「何だかんだで2016年の主役はボブ・ディランだったね!……って、ちょっと2人とも無視しないでよ! 1か月に渡る来日ツアーが話題になったし、75歳の誕生日に合わせて新作『Fallen Angel』も登場したし、何より……」

戸部小伝太「ノーベル文学賞ですか!? ふん、我輩に言わせると〈何をいまさら〉って感じですよ。本来ならば40年前に受賞して然るべきでしょう」

雑色理佳「そうかな~。そもそも文学賞っていうのが意味不明」

戸部「それは聞き捨てなりませんな。雑色殿はディランの功績がノーベル賞に値しないとおっしゃるのですか?」

雑色「いやいや、むしろディランのためにノーベル音楽賞を新設するくらいの心意気を見せろってことだよ!」

逸見「まあまあ、2人が言い争うほど世間的にも大きな関心を集めたのは間違いないわけだよね? それなのにbounceの〈OPUS OF THE YEAR〉でのディランの扱いが小さすぎ!」

戸部「編集部は一歩引いたスタンスがカッコイイとでも思っているのでしょうか」

雑色「そんなbounceも鼻につくけど、それ以上にディランを聴いてこなかったようなテニス・サークルのヤツらまで騒いでいるのがマジでウザイ!」

逸見「だからさ、そういう人にこそこの『The Real Royal Albert Hall 1966 Concert』を聴いて衝撃を受けてもらいたいよね。正直、日本で育った僕らにディランの歌詞を100%理解することはできないけど、音だけでも物凄い説得力があるんだから!」

雑色「2016年にイツミが初めて良いこと言った!」

逸見「66年っていうのは、ロックという音楽が時代の風俗や思想と密接にリンクしながら社会的な影響力を増していく重要な時期だけど、ディランもまた試行錯誤の末にフォークからロックへと音楽性を推移していく頃なんだよね」

戸部「スマホを見ながら喋っていなければ褒めてあげたいところですが、まあ、概ねその通りですよ。それゆえに、本作は当時のライヴそのままにアコースティック・セットとエレクトロニックなバンド・セットでディスクが分かれた2枚組仕様なんですがね」

雑色「でも当時のファンの多くは音楽性の変化に戸惑いを隠せなかったみたいね。ライヴの前半では大歓声を上げるけど、エレキに持ち替えた途端にブーイングを浴びせ、演奏しづらいようにわざとテンポを落として手拍子したとか」

逸見「このツアーのバックは後にザ・バンドを結成する面々なんだけど、レヴォン・ヘルムは観客の度重なる罵声に耐えられず、この音源が録音された頃には離脱しちゃってるもんね」

雑色「そこまで拒絶されながらも己の信じるスタイルを貫いたディランって、やっぱりロックな人だわと思うわ。結局どちらが正しかったかは言うまでもないね、にゃはは」

戸部「ともあれ、本作にはキャリア史上でも屈指のギラギラと闘志に満ちたパフォーマンスが収められているわけですよ。その意味で目玉はやはりDisc-2でしょうな」

逸見「じゃあ、お茶を飲みながらDisc-2を聴いてみようよ!」

雑色「歌も演奏も前のめりで、苛立ちを爆発させたかのような凄いテンションだね。客席にケンカを売っている感じさえするわ!」

逸見「対するお客さん側のヤジも記録されていて、不穏な緊張感が充満しているのがよくわかる!」

戸部「これは時代が変わっていく瞬間の軋轢と異様な昂揚感を捉えた迫真のドキュメンタリーですな。いやはや、CDを聴いて手に汗握るのは久々ですぞ」

逸見「このまま年を越してもOKなくらい引き込まれるね」

雑色「それはイヤだ! どうして私がキモメン2人と新年を迎えにゃならんのじゃ!」

ディランの強烈な絶唱が師走の夜を駆け抜けて行きます。さて、2017年はどんな年になるのやら……。 【つづく】

 

リリースされたばかりのディラン関連作品を紹介。

 

ボブ・ディランの『The Real Royal Albert Hall 1966』と並べて聴きたい作品たち

BOB DYLAN Fallen Angels Columbia/ソニー(2016)

2015年の『Shadows In The Night』に続くスタンダード集です。ノーベル文学賞を獲ったことでも周知の通り、ディランは深遠な歌詞が何にも増して評価されているわけですが、その作詞家としての才能を封印してヴォーカリストに徹した潔さたるや。無論、歌手としても超一流なことが本作で証明されていますぞ。 *戸部

 

欅坂46 世界には愛しかない ソニー(2016)

ノーベル賞のニュース以降、このシングルのカップリングに収録されたゆいちゃんず“ボブディランは返さない”がネットで話題になったよね。元カレから借りたディランのアルバムには思い出がたくさん詰まっていて……といった内容の歌詞が、昭和のフォーク歌謡みたいな音に乗って切なく響いてるよ。 *逸見

 

THE BAND The Last Waltz: 40th Anniversary Edition Warner Bros.(2016)

ディランと共闘したロイヤル・アルバート・ホール公演からちょうど10年後に行われ、78年にパッケージ化された、言わずと知れたザ・バンドの伝説的なラスト・ライヴですぞ。40周年を記念して最新リマスタリングが施されたこの2枚組でも、注目はディランとの共演でしょう。 *戸部

 

L.A. SALAMI Dancing With Bad Grammar Sunday Best/BEAT(2016)

ジェイク・バグやジェイムズ・ベイを例に出すまでもなく、星の数ほどいるディラン・チルドレンのなかでも、2016年にもっとも飛躍したのはこの男。みずから〈ポスト・モダン・ブルース〉と呼ぶ伝統も革新も備えた音楽性と、ビートニクな歌詞――まさに若き日のディランを思わせるよね。 *逸見

 

BILLIE MARTEN Writing Of Blues And Yellows Club Chess/RCA(2016)

ディランをフェイヴァリットに挙げているだけあって、17歳とは思えないほど渋くてフォーキーな音楽を紡ぐ美少女シンガー。デビュー時のスザンヌ・ヴェガを彷彿とさせる逸材なのに、本作のリリース時に誌面で紹介しなかったbounceはどうかしているよ! *雑色

 

部室に置かれたキャンパス・ノートを覗き見しちゃいましょう!

YOKO ONO Plastic Ono Band Apple/Chimera/ソニー(2016)

 2016年最後の収穫について書き散らかしておこうかにゃ。まずは2018年の生誕85周年に向けて始動した〈ヨーコ・オノ再評価プロジェクト〉の記念すべき第1弾となる、70年の初作『Plastic Ono Band』(Apple/Chimera/ソニー)。リマスタリングを担当したのは、何とショーン・レノンだよ。ヨーコ様の常軌を逸した呪術的なヴォーカルとオーネット・コールマンらも参加したアヴァンギャルドな演奏は、言うなれば早すぎたパンク! いや~ブッ飛んでるわ。ひょっとするとジョン・レノンよりも偉大なのでは?とか思っちゃうね。

 

SAINT ETIENNE Foxbase Alpha: Deluxe Edition Heavenly/HOSTESS(2016)

 お次はちょいとクールダウンして、セイント・エティエンヌが92年に発表したデビュー作『Foxbase Alpha: Deluxe Edition』(Heavenly/HOSTESS)を紹介。昨今のシンセ女子にも多大な影響を与えたこのダンサブルなエレポップ盤に、同時期のレア音源を大量追加しているんだから、お年玉をはたいてゲットすべし。改めて聴くとカヴァーやサンプリングのセンスに、〈英国の小西康陽〉ことボブ・スタンレーのマニア趣味が全開で反映されていて痛快だわ。

 

THE BIG SLEEP Bluebell Wood Pegasus/MARQUEE/BELLE ANTIQUE(2016)

 続いてはビッグ・スリープが71年に残した唯一のアルバム『Bluebell Wood』(Pegasus/MARQUEE/BELLE ANTIQUE)。妖怪人間みたいなジャケのせいかサイケやプログレとして語られがちで、確かにそんな要素も強いんだけど、曲によってはフォークだったりビートルズ風だったりで、掴みどころがないんだよね~。でも通して聴くと独特の哀愁溢れる英国ロックといった風情があり、クセになる良盤だわよ。

 

R.E.M. Out Of Time: 25th Anniversary Deluxe Edition Warner Bros./Concord(2016)

 さて、ラストはR.E.M.の『Out Of Time: 25th Anniversary Deluxe Edition』(Warner Bros./Concord)。彼らが初めて全米/全英1位を獲得した7枚目のアルバムにして、グラミーまで受賞している91年の名盤で、90年代のモダン・アメリカン・ロックを代表する作品……っていうのは説明するまでもないけど、加えてDisc-2には9曲の未発表デモ、Disc-3には91年の未発表ライヴ音源、さらにBDにはMVやハイレゾ音源を収録した完全無欠の4枚組。これに没入していたら、きっと冬休みなんてあっという間に過ぎちゃうわ、にゃはは! *雑色理佳